カタールワールドカップが開幕した。日本代表は、ドイツとの初戦を23日に控えており、脳震盪の回復プロコトルの中にある遠藤航の調整が気になるところだ。

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欠かせない選手にまで成長した遠藤は29歳。ワールドカップ初出場が叶えば、遅咲きと言える。しかし、その「咲き方」はセンセーショナルだ。

ドイツブンデスリーガで2年連続「1対1(デュエル)勝利数」が1位。果たして日本人が世界で勝てると誰が想像しただろうか。

そこには単なるトレーニングだけではなく、思考法と物事の捉え方にこそ成長のヒントがあった。

遠藤航が今月に刊行した『DUEL 世界に勝つために「最適解」を探し続けろ』に記された「デュエル1位」の秘密。「遠藤航の4年間の成長」に迫った本企画、全4回の最終回。

日本人にとって「フィジカルはストロングになる」

 本書では僕がどんなことを考え、何に取り組んでいたかを、いろんな角度から紹介してきました。最後の章としてちょっと大きなテーマではありますが、日本サッカーの中心を担う、「日本代表」について書いてみたいと思います。

 海外でプレーするようになってから、日本サッカーについて考えることが増えました。きっと多くの先輩たちも同じだったんだろうな、と思います。

 そこで感じるのは、本書で繰り返し書いている日本サッカーにとっての「最適解」を探し続ける必要がある、ということでした。

 一般的に言われていることで、確かにそうだった、と思うことがあれば、ちょっと違うなと感じることもあります。

 トレーニングについて他の選手とはちょっと違ったアプローチをしたことはその一例です。

 結果的に思うのは、やっぱりフィジカルの能力の高さは大きな強みになる、ということです。これは、現在、日本サッカー界が目指している方向性とは違った発想になります。

 小学校や中学校はもちろんのこと、高校サッカーにおいても、フィジカルが強いチームは最終的に結果を出すことができます。育成年代においては、発育の差に加え、毎年メンバーが入れ替わり、一緒にプレーできるのは2〜3年しかないためチームとしての成熟度を追求するのが難しいからです。

 けれど、ひとたび「対世界」を考える段階になると、「日本人は世界よりフィジカルに劣る」ということをスタートにして議論が始まり、「パスサッカー」や「走れること」または「戦術的であること」が志向されるようになります。

 これは「対世界」で「フィジカルでは勝てないから〇〇をする」という手順を「正解」として疑わないでいるから生まれる考えだと思います。

 でも、プロサッカー選手なら多くの人が感じていることがあるはずです。

「フィジカル能力」があれば、プロでも大きなストロングになる、ということを。

 実際、ブンデスやプレミア、リーガビッグクラブでプレーするトップオブトップスの選手たちは、強いフィジカルのベースがあったうえで、足元の技術があり、賢く、戦術理解度も高い。

 そう考えれば、日本サッカー界ももっと、フィジカルについて対策をしなければいけないのではないか、と思います。

 それは僕のようにウエイトトレーニングをしろ、とか、ガンガン筋肉をつけたほうがいい、ということではありません。選手それぞれに持って生まれた身体の特徴がありますから、それに合わせて世界に負けない体を作っていく。

 個々の最適解を探す必要があります。

 じゃあその「世界に負けないとは何か」、というベースの部分を日本サッカー界で分析し、言語化し、発信していく。僕自身の感覚としてそれは、まず倒れないこと、そして1対1において剥がせる身体能力を備えること、だと感じています。

「差がある」からこそできること

 書いてきたように、こうした「考え方」は日本人だからこそ生まれるものだと思います。

 僕自身、世界を見渡せば「自分より」フィジカル能力の高い選手はたくさんいて、そういう選手たちからボールを奪うには、勝つには、どういう体の使い方をするべきか、どんなトレーニングが必要か、と考えてここまできました。

 こうした発想は、そもそも高いフィジカル能力を持った外国人選手たちには考えつかないものだと思います。

 外国人選手たちは、自主的にトレーニングする人、しない人が極端に分かれる、と書きましたが、そのトレーニングをする選手たちを見ても、こだわったトレーニングをしているとは思えません。──決して悪い意味ではなく──重いウエイトをガンガン持ち上げていることに「すごいな」とは思いますが、その選手のプレーの特徴を考えたとき、それがサッカーに役立つトレーニングになっているようには感じないのです。

 その点、日本人選手が行うトレーニングは、いつもピッチ上への「意図」があり、そのトレーニングの意味を理解していることがほとんどです。

 何より、「どうやったら差を埋められるか」という視点が常にあります。

 つまり、「差がある」と考え、「追いつくために本質的に必要なこととは?」を取り組めるのは、「追いつこうとする側」の特権で、つまりは日本サッカーだけが持つ長所といえるのです。

 確かに、フィジカル能力は一朝一夕に身につくものではありません。

 でも、この「日本人ならではのこだわり」に成長のヒントはあると思います。

 僕たち日本人が「世界と比べて足りない」と思うからこそ「こだわれる」部分。それをやり抜く力。

 カタールワールドカップは僕にとって、その仮説が正しいのかを検証する、答え合わせにもなっています。(『DUEL』より再構成)

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