物事を「理解」するとは、一体どのようなことなのでしょうか。どんな物事、出来事、事象にも必ずその背景となる理由が存在します。どのように理解を深めていけばいいのでしょうか。現役の東大生の永田耕作氏が著書『東大生の考え型 「まとまらない考え」に道筋が見える』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

まず、「なぜ?」と考える視点が重要

■理解力とは

物事を「理解」するとは、一体どのようなことなのでしょうか? 理解という言葉は、「物事がわかるようになること」という意味でしばしば使われていますよね。実際に、理解の「解」の字の訓読みの読み方の中に「解る(わかる)」があることからも、物の理(ことわり)を知る、さとるという意味が重要視されていることが明らかだと思います。

しかし、理解するという言葉にはもう1つ大事な意味があるのです。そして、多くの東大生は「理解」のこちらの意味を常に意識して用いています。それは、物事の「わけを知る」こと。つまり、原因・理由を知ることなのです。

どんな物事、出来事、事象にも必ずその背景となる理由が存在します。僕たちがいろいろな物事を見る際に、単純にその物自体を見るだけでなく、その背景にどのような出来事があったのか、なぜその事象が生じたのか、を意識することで、より深く物事を理解することにつながるのです。

太陽は東から昇り、西に沈みます。これはこの本を読んでくださっている多くの人が知っている事実だと思います。では、「なぜ太陽は東から昇り、西に沈むのですか?」と聞かれたら、みなさんはどう答えますか? 「教科書でそう習ったから」「先生がそう言っていたから」という答えでは、その物事の「わけを知っている」、つまり「理解している」とは言えないのです。

「太陽は動いておらず、地球が自転していて、地球から見える太陽の方角が変わっていくことで、東から昇って西に沈んでいくように見える」と説明することで、初めて「理解している」と言える、ということです。

このような例はわりと日常生活に多く存在します。日頃何気なく経験している出来事や見ている風景などにも、「なぜ? どうしてだろう?」という視点を持つことで、物事をただ「知る」ことに留まらず深く「理解」できるようになると思います。

■理解力を高めるフレームワーク

こちらのパートでは、深い「理解」のためのフレームワークを3種類紹介します。

変化前・変化理由・変化後フォーマット 物事の変化前と変化後を見て、そのギャップから理解を深める

背景/原因フォーマット 事象のストレートな原因だけでなく、その背景には何があるのかを考える

新しい問いフォーマット 1つの問いを、違う問いに昇華させることで次の問いへとつなげる

大切なのは、短絡的に「わかった」と考えないことです。しっかりとその裏側・別の要因などを考えていくようにしましょう。それでは、早速「理解力」の型を見ていきましょう。

理解することで一番大事なのは変化理由

▶変化前・変化理由・変化後フォーマット

■「変化」に注目して物事を捉えよう

何かを理解するために一番必要なのは、「変化前・変化理由・変化後」の3つを考えることです。例えば「なぜここに新しいお店ができたんだろう?」と聞かれて、「大工さんが頑張ったからだよ!」と答えられたら「それが聞きたかったわけじゃないんだよなぁ」ってなりますよね。

「元々あったお店が老朽化して閉じてしまったんだけど、立地自体はとても良いから、新しいオーナーさんが若者向けの商品も取り入れてお店をやることにしたらしいよ」のように、そのお店の前の状態と、そのお店が変わった要因と、変わった後、この3つを答えることで理解してもらえるわけです。これを意識するだけで、物事の理由が格段に説明しやすくなります。

このように変化前・変化理由・変化後で考えるのがこちらのフレームワークです。

■使い方

Step① 物事が変化する前の状態を考える Step② 物事が変化した後の状態を考える Step③ 変化を起こした事象や、それを起こした理由を考える

■考え型の基本

何かを理解するとき、変化に着目するととてもわかりやすくなる場合があります。「売り上げが落ちている理由を分析したい」のであれば、「前は好調だった売り上げが、なんらかの要因で下がってしまっている」という事象だと解釈できます。そうすれば、「じゃあどんな要因なんだろうか?」と考えやすくなります。

逆に、変化に着目しなければ見落としてしまうこともあります。例えば「近年、なぜ世界では砂漠化が起こっているのか」と聞かれて、「人間が過度に森林や草原を伐採しているから」と答えるのは砂漠化のことがわかっていないと言えます。

なぜなら、前から人間は森林や草原を伐採していたからです。それがなぜ近年起こっているのかがわからなければ表面しか理解していないことになります。「世界の人口が昔より増えて、食糧不足に喘ぐ人が増えたから伐採が増えている」と、変化を意図した答えを作る必要があるのです。

変化前と変化後を考え、その間にある原因を考える。この3段階で物事を解釈する癖をつけましょう。

■深掘りするなら…?

変化理由は1つで満足せずに、複数考えた方が理想的です。1つの理由だけで変化はしません。複数の理由が重なり合って変化をもたらします。

だから、2つ以上の理由をしっかり探すような習慣をつければいいと思います。またそのときに、「背景」と「原因」を分けて考えるのも重要でしょう。それは次のフレームワークでご紹介しています。

■ココがポイント![変化理由を考える]

このフォーマットで物事を考察する際、一番大事になるのは変化理由の欄です。

変化理由と聞くとどうしてもその物事自体に着目しがちになってしまいますが、その物事の周りの環境や、関わっている他の物事に原因が隠れていることもあるので、多面的に理由を捉えられるようにしましょう。

変化前と変化後を見て、変化の理由を考える

■ケーススタディ/変化前・変化理由・変化後フォーマット

▶①英語の模試結果について考える

前ページで紹介した「変化前・変化理由・変化後フォーマット」を、勉強、具体的に言うと模試で考えるとこちらのようになります。

ここでは、模試の偏差値が上がったことの理由を「変化理由」に持ってきています。これを見て、「これは結果からただ後づけで理由を考えているだけだから、あまり意味がない」と思う人ももしかしたらいるかもしれません。しかし、実はこの分析、他の教科に活きてくるという点で意味があるのです。

英語の勉強が上手くいっていなかった変化前の状態から、基礎的な勉強を継続したり、毎朝の勉強習慣をつけたりすることで問題が解けるようになった、という変化は同じ形で他の教科でも応用できるはずです。

こうして考えることで、勉強にこのフォーマットを用いることの価値が出てくるのではないでしょうか。

▶②人とのコミュニケーションの取り方について考える

こちらはまた系統が大きく変わり、人とのコミュニケーションの取り方について変化前・変化理由・変化後フォーマットで分析した例になります。この分析者は、人と話すことが楽しくなったという変化の理由を、「自分の気持ちを大切にするようになったから」と分析しています。

日常生活での変化について、理由を考える習慣なんてないという人が多いのではないかと思います。ですが、ここで少し変化理由を考察してみることで、何か新しい発見があるかもしれません。

▶③締め切り内に提出物を出すことについて考える

さて今度は、このフォーマットで「締め切り内に提出物を出すこと」について考えてみましょう。

やるべきことをつい後回しにしてしまい、提出物が期間内に出せないという経験はきっとみなさん一度はあると思います。それでは、提出物の期限を守れる人と守れない人、一体何が違うのでしょうか?

鍵は優先順位です。やるべきことが多くあったとしても、そこに優先順位をつけることができれば1つずつ確実に終わらせることができます。ぜひ実践してみましょう。

永田 耕作 現役東大生

(※写真はイメージです/PIXTA)