「この先困るわよぉ」と、妻が何気なく発した一言がどうしても気になる……。WEB漫画「あなたがいなくなっても」は、老夫婦の些細なやり取りがきっかけで夫の心に波紋が広がり、妻の真意を知ろうと試行錯誤する姿を描いた物語。不器用な夫とのほほんとした妻のちょっとしたすれ違いとともに、タイトルの意味が分かる結末に感動を集めた作品だ。

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■老夫婦に離婚の危機?妻の「真意」が知りたくて奮闘する夫の日常

家事が不慣れな夫に「それじゃこの先困るわよ」と何気なく告げた妻。その言葉が気になり孫娘に相談すると、孫は「離婚考えてたりして…」と予期せぬ可能性を挙げる。根拠のない憶測ではなく、パートで働きに出ようとするなど、妻の行動にも変化が表れていた。

降ってわいた熟年離婚の危機に動揺する夫は、ともに歩いてきた50年を振り返り、ひょっとしたら「変わったのは俺の方か」と、今の自分の生き方を少しずつ変えようと模索をはじめる。一方、妻は「おとうさんがね!なんだか最近変なの…!」と、夫の変化を孫に話し……、というストーリー。

人生の夕暮れに近づいた老夫婦に浮かび上がる「変化」と「変わらないもの」を、穏やかな日常の姿を通して描いた作品。離婚ではなく、どんな夫婦にも必ずやってくる「死別」を見据えていた妻と、それに気づかないなりに愛する妻のために奮闘する夫のすれ違いがなんともほほえましい。

それとともに、妻の死後、ともに過ごした50年が詰まったアルバムを抱える夫の姿で題名の「あなたがいなくなっても」の真意が伝わる最終話には、Twitter上で4000件以上のいいねとともに「めっちゃ泣きました」「こんな素敵な老夫婦になりたい」「自分の先々を考えてしまいました」と、多くの感動のコメントが寄せられた。

■老夫婦に託したのは、夫との会話で感じた「相手を思う気持ち」

作者の小菊えりか(@kogikuerika)さんに話を訊くと、同作が生まれたのは、小菊さんの夫との会話がきっかけだったという。

「夫と『いつか遠い将来、死がやってくると思うけどどっちが先がいい?』という会話になって、夫は『私が先に死ぬのは耐えられないから、自分が先がいい』と言いました。一方、『私は夫を残して悲しい思いをさせるのは耐えられないから、自分が後のほうがいい』と言いました。全く反対の考えだけど、どちらも相手を思う気持ちなんだなと感じ、それを表現したくてこの物語を描きました」

そうした思いを老夫婦に託した本作。反響からも分かる通り、不器用な夫とおっとりとした妻の老夫婦のキャラクターや関係性に惹かれる読者も多かった。小菊さんは二人を描く上で、「夫の方は、昭和の男性のような亭主関白さを発揮していながらも、不器用な行動の裏に妻への愛を感じられるように意識しました。妻の方は、とにかく可愛らしく柔らかく描こうと意識しました」と意識したポイントを話す。

そうした「夫婦」への眼差しは小菊さん自身が、結婚してから自分の周りの“夫婦のあり方”に目が向くようになったことも大きく影響しているようで、「祖父母、父母、義父母、私達夫婦……。皆それぞれ違っていて、二人にしか理解できない関係があるんだなと感じています。漫画の老夫婦にもそれを感じることが出来るように工夫しました」と、本作を通して伝わる、どこか見守るような雰囲気の一端を教えてくれた。

また、題名である「いなくなっても」という言葉が響くラストシーンには「長年連れ添ったパートナーがいなくなった後、何を拠り所に生きるのかと考えた時に、私はその人との思い出を拠り所として生きていくのではないかと思っています。『もし、あなたが“いなくなっても”私は生きていけるよ。あなたが“いなくなっても”あなたのおかげで生きていけるんだよ」という気持ちを込めました」と、その思いを明かした。

本作のほか、自身のTwitterやnoteにてオリジナル作品を数多く発表している小菊さん。今回の反響に「いつも見てくださってありがとうございます。読んでくださる方の心に刺さる物語を描けるように頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします」と感謝と抱負を寄せた。

取材協力:小菊えりか(@kogikuerika)

長年連れ添った妻の様子がおかしい…。違和感から生まれる老夫婦のほほえましいすれ違いと結末に感動の声/画像提供:小菊えりか(@kogikuerika)