「メタバース上でのハラスメント被害」に関する内容を取り扱った記事に偏向的な報道がなされている、と情報提供者として取材に協力をした「バーチャル美少女ねむ」さんの投稿が話題になっており、話を伺った。
問題となったのはメタバースでのハラスメント被害について取り扱った読売新聞社の記事。記事中にはメタバース空間の”住人”を対象に「バーチャル美少女ねむ」さんが実施したアンケートが引用されており、ライブドアニュースといったキュレーションメディアでも掲載されTwitterでは2万いいねを超えるなど広く拡散された。
そんな一見何の変哲もない記事に「偏向的な報道だ」として声を上げたのがアンケートの実施者である「バーチャル美少女ねむ」さん(以降「ねむ」さん)。ねむさんによると、当該記事を作成するにあたり、ハラスメント被害に関するインタビューの申し出があったとのことでアンケートの内容とも交え回答したとのこと。
インタビューでは「メタバース空間はグロテスクなアバターや不愉快な環境に遭遇しても、ミュートやブロックという概念で自分を保身できる仕組みがある。その点ではメタバース空間では現実空間に比べるとダメージが強い訳では無い。」とアンケート結果と自身の経験をもとに意見を述べたという。
しかし、実際に記事ではそれらのインタビューの内容は記事として掲載されることはなく、アンケート結果のみの掲載となった。今回回答したインタビューの全文は記事ツイートにリプライとして掲載されている。
また、ねむさんは被害は少ないと断言して述べておらず、同インタビューでは「受け取り方にも個人差がある上に、文化や国境による隔たりがない分相手の気持を考えるという点からすると現実以上に難しい」という中立的な意見を述べたという。
本件に関してねむさんは「偏向した恣意的な取り上げ方をされた」と自身のTwitterにて発信し、情報提供者として取り下げを要請したものの、「記事の問題点について担当記者に問い合わせても全く相手にされなかった」とツイートにて追伸。
「悪質な印象操作を止めて」警鐘を鳴らす
ねむさんはVR機器であるVIVEシリーズの公式アンバサダーにも就任し、執筆活動として著書『メタバース進化論』を手掛けるなどソーシャルVR文化・メタバース文化の振興に大きく寄与している。一連の問題に関してねむさんは弊社の取材に対し以下のように綴った。
(ねむさん)
近年メディアがメタバースの危険性を過剰に煽ったり、政府がやけに規制に前向きだったりと、実際のユーザーの感覚からかけ離れた議論があちこちで起こっていることに、一ユーザーとして強い危機感を持っていました。私達が公開したレポート「メタバースでのハラスメント」はそうした状況に一石を投じ、地に足がついた議論のきっかけとなることを祈って全世界900名のユーザーの協力のもと実施した調査結果をまとめたものです。このことは取材を受けた際に読売新聞の記者の方にも繰り返し説明をしました。それにも関わらず「セクハラ横行」「対策急務」「とにかく気持ち悪い」と過剰にメタバースの危険性を煽りメタバースのイメージを不当に悪化させかねない記事にされてしまったこと、非常に悲しいです。
残念ながらメタバースにハラスメントは存在します。しかし、それは人と人とか触れあう世界である以上ゼロにはできないものです。レポートでは、その程度に関わらず「他のユーザーから不快な思いをさせられる不適切な行為」を全て「ハラスメント」として定義しています。現実世界でこの条件で統計を取ったらハラスメントの経験率はほぼ100%に近い値になるはずですし、それと比べたらメタバースにおけるハラスメントの経験率は決して高いものとはいえないと私は考えます。程度としても重大なもののの割合は決して多くはありません。また、メタバースではミュートやブロックなど現実世界にはない自己防衛手段が充実しており、そういったものを駆使してユーザーが自分を守っていることもレポートから明らかになりました。「セクハラ横行」と過度に危険性を煽るような状況ではないと思います。
もちろん、だからといってメタバースでのハラスメントに課題がない訳ではありません。現実以上に様々な人種・性別・国籍の方が交流する世界であり「互いに思いやりをもち、相手の立場に立って行動することが大事」だと数多くのユーザーが答えていました。同時に、「自由を妨げる規制をメタバースに持ち込まないでほしい」と懸念する声が非常に多く、規制に対しては非常に慎重に議論を進めるべきで、「対策急務」というような緊急性のある状況ではないと思います。
今回読売新聞には、私のインタビューと共に掲載するという約束を反古にされ、偏向した恣意的な取り上げ方だと感じたため、情報提供者として取り下げを要請しましたが、担当記者に問い合わせても全く相手にされませんでした。数多くのメタバースユーザーの方がTwitterで挙げてくれた数多くの懸念の声を直接伝えることで、はじめて読売新聞を動かすことができました。みなさん本当にありがとうございます。
また、メディアの方には、仮想世界といえどそこで生きる人々にとってはかけがえのないものであることを改めてしっかりと認識し、アクセス数稼ぎの悪質な印象操作を止めて、公正な報道を心がけて頂きたいです。
その後の掲載社の対応だが、結果として本件に関して多くの共感者の声を集めることができ、当該記事は要請に応じて削除されることとなった。併せて本日16時頃にキュレーション記事が掲載されたライブドアニュースのツイートも削除された。
取材協力:バーチャル美少女ねむ(@nemchan_nel)さん
※本記事は取材協力者からの掲載の許可と確認を得た上で配信しており、コメントは原文で掲載しております
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