「子どもが泣き叫ぶのは愛情不足の証拠」…育児の問題をすべて母親に押しつける「呪いの発信者」とは から続く

「デマを流すのは簡単でも、デマを否定するエビデンス作るのって結構大変で、どうしてもセンセーショナルなほうが目についてしまいがちです」――新生児科医・小児科医の今西洋介さんインタビュー第2弾。

 子育てに悩む母親たちほど「反ワクチン」や「医療デマ」を信じてしまう理由とは?(全2回の2回目/前編を読む)

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なぜ医療デマは拡散してしまうのか?

――そもそも子育て中の方は、なぜデマを信じるのだと思われますか?

今西 育児は正解の無い世界だということが大きいでしょう。大きなトラブルがなくても不安になりがちなうえ、母親に負担や責任がのしかかっている。するとそこにヒュッと現れた人が断言調で力強く導いてくれると、その人についていってしまう心理があるのでは。

 ワクチンの場合も、真っ当な医療情報では科学的根拠のある部分しかはっきり言うことができず、わからない部分に関しては説明できません。ところが反ワクチンの人たちは、断言しますよね。不安を抱える母親たちは、「わかりづらい」より「わかりやすい」ものに流れていきます。

 また今は、コロナ禍で孤独を感じる母親たちが増えているのに、情報だけはバンバン入ってくる。間違った情報を選んでも、致し方ない状況だとは思います。正解がないのもまた育児の楽しさではありますが、その正解のなさにつけこんでくる商売もありますので。

――昨今の育児デマが拡散されるルートはやはりSNS

今西 もうほとんどがそうでしょう。SNSって平等に情報が行き渡りそうでいて、実際は全く違う。自分がいいねした情報や、フォローしている人の傾向でフィルターがかかり、ドツボにはまっていくしくみがある。SNSが発達する前は、地域の子育て広場とかが主催する講演会が、トンデモ寄りのものだったというのがよくあるパターンでしたが。

 あとは子連れで歩いていたら知らないおばあちゃんに話しかけられ、よくよく聞いたら宗教の勧誘だったというのもよく聞きます。今でもそれらの手口は存在しますが、個人のSNSが発達してきたことで、怪しい情報への窓口がどんどん広まっている。

 デマを流すのは簡単でも、デマを否定するエビデンス作るのって結構大変で、どうしてもセンセーショナルなほうが目についてしまいがちです。東日本大震災の後は、放射能の影響で奇形の子どもが産まれていると主張するデマがありましたね。事故とは無関係の奇形の子どもの写真をアップしたりして、悪質でした。放射能デマで有名な「甲状腺のがんになる」なんかは、そこから10年ぐらいかけて「そもそも検査しすぎだった」という事実がわかったんですよね。

 誤情報が拡散されるツールは、ネットだけではありません。過去には朝日新聞が子宮頸がんのHPVワクチンに対してアンチキャンペーンのようなことをしていたのに、今は何事もなかったように、推奨する記事を載せている。新聞の言うこと、本に書いてあることを絶対視する人たちは一定数いますが、一回入ってしまった情報を誰が打ち消すのか。情報の怖さを、日々感じています。

同調圧力の強さが「デマ」を強固にする?

――ママ友経由で偏った思想に出会うケースもよく聞きます。

今西 僕は母親の社会的なつながりに興味を持っているのですが、社会のつながり、ソーシャル・キャピタルを見ていくと、実は日本はそれがとても高い。ムラ的な感じです。財布を落としても返ってくる、みたいな。社会的なつながりが高い国=安全な国だということでもあります。

 例えば、地震などの災害時。社会的なつながりの強さによって復興が行われたり、隣の人が怪我したら助けたり。逆に低いのは、アメリカの一部地域です。低いとどうなるかというと、災害があると治安が非常に悪くなる。

 ニューオリンズを襲ったカタリナハリケーンは、典型的な例でした。もともと安全な都市だったのに災害後は犯罪が多発し、とても人が住めるような状況ではなくなってしまった。

 それと比べると、2011年東日本大震災は犯罪が増えたという情報もありますが、欧米ほどではありません。飢えても、スーパーできちんと並んだり。ところが裏を返せば、ソーシャル・キャピタルが高い=社会的なつながりが強いということは、出る杭は打たれ、同調圧力が強力だということでもあります。

 母親が集い同じ様にいたい気持ちから、ひとつの情報を皆で信じる。イデオロギーとして子どもを守りたいという気持ちで団結した結果、デマにハマるケースもあるでしょう。それは、学力とは関係ありません。勉強する力とリテラシーを判断する力は、まったく違うような気がしています。

 また、妊娠出産育児はスピリチュアルとの親和性も高く、そうしたビジネスからデマや迷信が刷り込まれるケースも山ほどあります。発達障害に効くマッサージや水など、さまざまなものが確認されています。自然派傾向のある新興宗教専属の小児科医がいるような地域もあるので、あらゆる場所から、偏った思想や誤情報、迷信が入り込んできます。

――情報を自分で見極めるコツはありますか。 

今西 公衆衛生学では、誤情報・デマを流したり、陰謀論を広めたりする人たちが求めるものの頭文字をとった「MICE(マイス)」と呼ばれる言葉があります。

 マネー(Money)はビジネス。イデオロギー(Ideology)は信条や政治的姿勢。コンプロマイズ(Compromise)は妥協や自己矛盾。エゴ(Ego)は、自我や承認欲求。疑わしい情報に出会ったら、その情報によってMICEを得る人がいないかどうか、MICEが動機になっていないかチェックしてみてください。

 僕はMICEの中で、一番大きいのはエゴかなという気がしています。例えば「ビタミンKシロップ」。産まれたあと赤ちゃんに飲ませる出血予防のシロップなんですが、月に2~3人は拒否するお母さんに出会います。ところがそういうお母さんファストフードが大好きだったりするんですよ。

 自分はファストフードを食べながら「添加物はダメ」と主張する。だから論理としては矛盾しているのですが、エゴによってその情報を信じている。子どもを思う気持ちからですので、責めるべきではないのですが、誤情報であることには変わりありません。#1でお話しした怪しい療法に手を出す医師の場合は、マネーですよね。

デマに振り回されないために

――自分で見極めるのは難しい場合はどうしたら?

今西 専門的な内容を分かりやすく一般の人に説明できる人=ミドルマンを見つけておくのがいいですね。最近ですと、研究者の成田悠輔さんとか。ああいう人たちは、難しいものを分かりやすく伝えられる技術がすごい。それをひとりに絞らず、複数チェックできるとなおいい。

 さらに子育てや出産の場合、ミドルマンは必ずしも医療者でなくてもいい。一般の方でそういう医療のリテラシーとか高い人、いますよね。例えば医療リテラシーの高いママ友とか。そういう人たちの役割って、すごく大切だと感じています。もう一つは公的機関。例えば厚生労働省や日本小児科学会とか。そういった公的機関が出す情報も、あわせて確認していきましょう。
 

(山田 ノジル)

なぜ母親たちは「医療デマ」を信じてしまうのか? 写真はイメージです ©iStock.com