経営環境は厳しさを増す一方ですが、危機感の薄い企業が多いようです。そんななか「企業の生き残りのためにDXが必須」と盛んに謳われていますが、では実際、何割の企業が、どの程度進んでいるのでしょうか? データをもとに紐解いていきます。

国内企業の「DX」推進における深刻な現状

独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が毎年公表している『DX推進指標 自己診断結果 分析レポート』では、企業自身による自己評価結果を『DX推進指標』とそのガイダンスに基づいた次の6段階で集計しています。

レベル0:未着手

レベル1:一部での散発的実施

レベル2:一部での戦略的実施

レベル3:全社戦略に基づく部門横断的推進

レベル4:全社戦略に基づく持続的実施

レベル5:グローバル市場におけるデジタル企業

対象となった企業は、下記集計をみてもわかるとおり、1次産業を除くほぼ全産業、かつ、従業員規模や売上規模的にも日本全体を網羅しています。

分析対象となった305社のうち、レベル3未満の企業の割合が91.5%という驚くべき結果となっています。さらにいえば、「ほぼなにもしていない」という企業が全体の3割を超えていることに強い危機意識を持たざるを得ません。経産省のそのほかのレポートも確認してみましたが、ほぼ同様の結果となっています。

回答企業が完全に重なっているわけではありませんが、日本情報システム・ユーザー協会が2020年にまとめた資料をみても、日本企業全体の危機意識はいまひとつ薄いようにみえます。欧米で起こっている「ディスラプターによる既存ビジネスモデルの破壊」をみれば、経営革新、DX推進の切迫度はもっともっと高いはずです。

DX推進のため、押さえておくべき重要ワード

日本の現状を打破し、DXを推進するためにはさまざまな技術や開発手法を採用していく必要があります。

誰でも、AI(人工知能)やクラウドはご存知でしょうが、IoT(モノのインターネット)などになると、「耳にしたことはあるけど……」となりそうです。さらに、ようやく5G(第5世代移動通信システム)の普及が始まったばかりと思っていると、既に次の6G(第6世代移動通信システム)に関する話題が出てきたり、アジャイル開発、ローコード開発、マイクロサービス、コンテナ化……と続くと単語を覚えるだけでも大変です。

自らシステムを作るということでなければ、詳細までを知る必要はありません。まず、それぞれの単語の概要と概念を押さえて行きましょう。触りだけ少し書いてみると、次のようになります。

■クラウド

クラウド・コンピューティングを略した言葉。インターネット上にサーバやネットワークが仮想的に存在するという概念。インターネットで繋がっているデータセンターにサーバがあるのとは別の考え方。Amazon Web Service(通称AWS)やMicrosoft Azureを筆頭とした契約さえすれば誰でも使えるパブリック・クラウドと特定の企業や団体などに属するプライベート・クラウドに大別される。

一般的にはクラウドというと前者を指すことが多い。月間数十ドルも払えば、それなりのサーバをインターネット上に構築・維持が可能となり、システム開発時の初期コストを大きく下げることができる。

■仮想化

ハードウェアの振る舞いをソフトウェアで実現する概念。たとえば、サーバの仮想化は、サーバと呼ばれるハードウェアコンピュータ機器)の動きをソフトウェアで再現することで、1台の大型コンピュータのなかに、小型コンピュータが何十台も動いているように見える状態を作ることが出来る。サーバだけでなく、ネットワーク機器なども仮想化することも可能。

仮想化によって作られたサーバとネットワークのうえに、自分たちで作ったソフトウェアを載せて動かすことが出来る。勿論、さまざまな開発者が作った市販アプリケーションも同様。

■AI(人工知能

映画「2001年宇宙の旅」にでてくるHAL9000のイメージが強すぎるのか、AIはなんでもわかってしまうという誤解がありそうが、そんな夢のようなコンピュータはいまのところ存在しない。

ただし、エキスパートシステムといって、人間が登録した知識データベースから瞬時に情報を引き出すだけだった昔のAIと違って、最近の人工知能ディープラーニングという新しい手法のもと、莫大なデータから自分で法則をみつけだすということができるようになった。おかげで、株価予想や天気予報だけでなく、小説を書き、作曲をし、絵まで描く。末恐ろしいと感じる人が増えていることも事実だ。人類がSkynetに滅ぼされる日が来るのだろうか?

これ以外にも、押さえておくべき単語は、ざっと挙げただけでも以下のように多数あります。

・PoC(概念実証)

・IoT(モノのインターネット)

・5G/6G(第5世代/第6世代移動通信システム)

・アジャイル開発(短期間開発手法)

・ローコード/ノーコード開発(新規開発時のプログラム開発を減らす手法)

・CI/CD(継続的な開発とリリースの考え方)

マイクロサービス(システムを分割するという開発の新しい考え方)

コンテナ化(仮想化の新しい考え方)

ブロックチェーン仮想通貨から始まったデータ保管方法)

・DAO(仮想通貨技術を応用した分散システムの考え方)

・XR(AR/VR/MRなどの総称)

メタバース(仮想空間を元にした新しい世界観)

・デジタルツイン(仮想空間でリアル空間を再現する技術)

ブレインコンピュータインターフェイス(脳とコンピュータを接続する技術)

・ゼロトラスト(新しいセキュリティ対策概念)

・EDR(Endpoint Detection and Response)

・SoE(System of Engagement)

・SoR(System of Records)

・SoI(System of Insight)

まずはDXに関する重要な単語を押さえ、喫緊の課題である日本企業のDX推進に取り組んでいくべきです。

河田 京三

HOUSEI株式会社

DX推進室室長

(写真はイメージです/PIXTA)