(山田 珠世:中国・上海在住コラムニスト

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 数カ月前、上海のあるショッピングモールを家族で訪れたときのこと。お昼の時間になったので、うどんでも食べようということになり、何度か利用したことのある日本のチェーン店「丸亀製麺」に行ってみた。すると、別のお店に変わっているではないか。残念に思いながら、その場を後にした。

 半年ぶりに訪れた飲食店が別の店になっていたというのは、上海ではよくあることだ。とりわけコロナ禍以降は店の入れ替わりが激しくなっており、別段気に留めなかった。

 ところが9月にうどんチェーンの「はなまるうどん」が、中国から撤退すると発表。続いて、「丸亀製麺」が中国にある全ての店舗を閉鎖していたことも分かった。

 両社の中国からの相次ぐ撤退は、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の拡大が直接的な原因だろう。コロナ禍を受けて外食産業は世界的に打撃を受けている。とくに徹底的にコロナ感染を封じ込めるゼロコロナ政策を堅持する中国では、いまだ各地でロックダウンやマンション封鎖のほか外出制限などの措置がとられており、外食産業への影響の大きさは計り知れない。

 そんななか友人が、中国メディアに掲載された「ラーメンが『ラーメン』を殺す」という記事を送ってくれた。

 この記事は、日本のうどんやラーメンなどのチェーン店が、中国から撤退したり、事業が低迷したりしている実態を取り上げ、その理由として「日本の麺は中国の麺に勝てなかっただけだ」という見解を主張。中国の麺料理の価格の手頃さとメニューの豊富さを挙げ、この2点から、中国人が“日常的に食べる麺”としては中国の麺の方が適していると結論付けていた。今回は、「中国の麺」について考えてみたい。

ラーメンチェーン店が多額の資金を調達

 中国ではここ数年、国内のラーメンチェーン店への投資熱が高まっているらしい。個人経営のラーメン屋ではなく、ショッピングモールに入居するような全国的チェーン店だ。中でも、蘭州ラーメンの「陳香貴」「張拉拉」「馬記永」などが大きく注目されているようだ。

 調べてみると、これらの3ブランドは多額の資金調達を行っている。

 2020年7月設立の「陳香貴」は、現在までに5度の資金調達を完了しており、調達額は計4億元(約78億円)を超える。当初は1カ月に1店舗のスピードで新店舗を開業していたが、1カ月に12~15店舗のペースに加速させ、現在では237店に拡大しているという。

 同じく2020年8月設立の「張拉拉」も、すでに4度の資金調達で数億元を獲得している(4回目の1億元以外は金額非公開)。「陳香貴」と「張拉拉」の企業価値は共に1億元(約20億円)に上るとされる。2019年7月設立の「馬記永」も5度の資金調達を実施した(金額は非公開)。

 いずれのブランドも数億元単位の資金調達を行っているのだ。

 このほか、設立10年目のチェーン店「和府撈面」も勢力を伸ばしている。2019年時点で200店舗を展開しており、コロナ禍2020年には76店を開業。2022年5月には店舗数が400店を突破したという。

 店舗開業のスピードも、資金調達の規模も、中国ならではと言えるだろう。

中国人を引きつける魅力とは

 これらのチェーン店はどこも「五代にわたり伝承」「中華牛肉麺に負けない」「正真正銘の蘭州風味、200年の香り漂う」などのキャッチフレーズを打ち出してブランドを特色づけている。さらに、イチオシの“目玉商品”を前面に押し出し、セールスポイントを明確にしている。

 また、中国の伝統的な染付茶碗に木製れんげ、トレーなどを使用。若者たちの中で最近流行している、おしゃれな“中国伝統品ブーム”に乗っていると言われる。

 もっとも、客を引き付けるのは、やはり価格の安さとメニューの豊富さのようだ。

 調査会社のiiMedia Researchによると、調査対象者の約9割が、麺料理店での1回当たりの消費額は50元(約980円)以下だと答えた。16~30元の人が最も多く、全体の約44%を占めた。また約80%の人が、1回当たり50元以内に抑えたいと考えており、うち37.4%が16~30元に、33.3%が31~50元に抑えたいと答えたという。

 中国ブランドラーメンチェーン店の客単価は30~50元(約590~980円)。ショッピングモールに出かけて食事をする人にとっては、この程度が妥当なのだろう。

 中国の人たちは麺だけを食べるのではなく、結構な量のサイドメニューを一緒に注文することが多い。ニワトリの足や肉夾饝(中華風ハンバーガー)、羊肉の串焼き、もち米甘酒など、中国人好みのサイドメニューも数多くそろっている。

 筆者の自宅近くにも「馬記永」「陳香貴」「和府撈面」があり、いずれもショッピングモールに入居している。

「陳香貴」と「和府撈面」で食事をしたことがあるが、内装の雰囲気は心地よく、味も申し分のないものだった。ラーメンが1杯25元程度からとお手頃価格である。

 また、中国の人は家族で外出したり食事をしたりすることが多いが、「軽く食事でもしようか」となった際に麺料理は選ばれやすい。手頃な価格で、おいしく、そしてサイドメニューが豊富。この辺が中国人消費者の心をつかんでいるのだろう。

ショッピングモールのラーメンは「日常的に食べる麺」なのか

 さて、前出の中国メディアの記事によると、「日本の麺は中国の麺に勝てない」とのことだった。日本のうどん店やラーメン店は、ショッピングモールで増えている上記の中国のチェーン店に負けたということなのだろうか。

 筆者は、そうは思わない。iiMedia Researchの調査結果の通り、「麺を食べるなら低価格で抑えたい」というのが中国人の本音だとすれば、ショッピングモールで食べる麺は「日常的に食べる麺」ではないだろう。

 中国人の友人が、家族で「ラーメンを食べに行こう」となった際によく行く店の牛肉麺は17元(約340円)だという。冷菜などを頼んでも、1人当たりの単価は30元に満たないとのことだ。

 新興の麺料理チェーン店の客単価は決して低くはない。一食に30~50元かかるならば、日本の麺チェーンの価格とそう変わらない。

 新しいもの好きの中国人にとって、最初はいいかもしれないが、「日常的に食べる麺」になり切れなければ、生き残るのは難しいのではないだろうか。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  口コミサイトで物議、中国・上海のパクリ「一蘭」ラーメンを食べてみた

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