癌治療でも外科でも、救急の現場でも美容分野でも、「医療の名の下の犠牲」が発生する構造が、残念ながら日本の医療にも存在する。これらは何故発生し、どう事前に防げるのか。「美容医療国際職人集団」と言われるJSAS会員であり、高須克弥医師の孫弟子にもあたる医療法人美来会理事長、九野広夫医師に解説いただく。氏は、美容医療の他院修正専門医院を立ち上げ、不幸な医療事故や医療過誤を数多く目にしてきたその道のスペシャリストである。

術式そのものに根源的欠陥が内在するため健康被害を招く恐れ

元来、眉上・眉下切開、前額リフト術は瘢痕が目立つだけではなく、眉毛や頭髪生え際の永久的脱毛や上眼瞼の不自然な形状および開閉眼障害、感覚・運動神経麻痺等を来す(他の健康被害を招く)リスクが高い手術なので、当院ではNG指定しています。ハイリスクのみならずこれらの手法そのものに眼瞼下垂治療効果の限界と根源的欠陥が内在しているのです。

多くの医師は、眉上・眉下切除デザインを紡錘形(笹の葉状)にするか、曲線の平行四辺形様にして縫合しますが、もう一段の工夫をしなければ縫合線は得てして「直線的に」なってしまいがちです。

仮に縫合線を曲線にしつつ眉毛直下の目立たないところにうまく隠せたとしても、今度は上眼瞼の形状に問題が出てきます。目尻に向かって程度が増す瞼の実際のタルミグラデーションと、眉上・眉下切開のデザインは実は根本から一致していません。

先述のデザインで切除する目的は、縫合の断端部位でドッグイヤー化を避けるためですが、どうやっても両端付近の切除幅が狭く(細く)なることが必定となり、故に大きく挙上できるのが概ね瞼の中央付近のみになってしまうのです。そうすると必然的に目の形が三角形になり、目頭と(最も下垂し挙上させたい筈の)目尻側の余剰皮膚が取り残され、却って不自然な上眼瞼の形状を医原的につくってしまいます。

上眼瞼のタルミや左右差は、この様に(決して平面構造ではない)奥行きのある組織構造から考えなければならない特異的な部位ですが、実は眉下の部位だけが眼瞼下垂の原因ではありません。加齢や外傷等によって生じる(側頭部を含む)前額の陥凹や前額皮膚の下垂が、見落とされがちな複合原因の1つなのです。

眉上・眉下切開や前額リフトは修正手術の悪循環に陥るリスクが

眉下のみを左右同等に切除しても別の左右差が生まれ、過剰切除されてしまえば閉眼障害やドライアイになります。さらに過剰切除を修正しようとして上眼瞼に皮弁移植等をされてしまうと、皮弁壊死や感染が生じずにうまく生着したとしても尚、今度は皮膚の質感や厚み、色味や体毛密度がおかしくなってダブついた蛇腹になるか、つぎはぎの重い瞼(元以上の眼瞼下垂になることも)になってしまいます。

これでは修正をすればするほど地獄めぐりです。もはや整容的・審美的とは程遠く、機能障害を発症する可能性もある本末転倒な事象です。仁術である筈の医療が、いつの間にか人為的な機能障害と醜形を大量発生させる場になってしまっているのです。

この様に「治療」と言う名の下の巧妙な「すり替え」が医療の現場で常態化しています。医師も患者も二次元平面人であるのなら(つまり似顔絵師が描く様な平面デザインだけで済むのなら)それで成立しますが、瞼の構造は上眼窩骨下縁に向けて斯くも奥行きを含む3D+動的次元(=4D)を持っています。尚、当院では皮膚移植や切開をせずに閉眼障害を治す技術が既に開発されています。

前額への異物挿入は顔面神経を損傷するリスクも

また、前額(またはコメカミ)リフトや前額(またはコメカミ)にシリコンプロテーゼ・ゴアテックス等を挿入する術式も高い危険性を孕んでいます。脱毛に加えて三叉神経前頭枝損傷による知覚障害や、眉が挙上できなくなる等の顔面神経を損傷するリスクを常に有しているだけでなく、眉が挙上したまま(常にビックリしたような表情に)固定されてしまうケースも散見されます。

数年~10数年後に異物周囲の陥没が進行し異物が浮き出てくることが多く、その際にもっと大きな異物への置換手術を勧められることがしばしば見受けられます。するとますます、先に述べたリスクの種類や程度は増大の一途を辿ります。

つまり、全切開を伴う上眼瞼手術や眉上・眉下切開、前額リフト術式、異物を用いた手術等では利点がかなり限られているのに対して、そのリスクやデメリットは全く釣り合いが取れないほど甚大であると言えるのです。

他院 前額異物挿入手術の医原的合併症の治療 症例

症例:57歳女性 左眉下・右眉上切開創より前額のシリコンプロテーゼ挿入後から32年以上右眉が挙上できなくなった症例

他院手術歴:1986年25歳時 東京の形成外科開業医院にて額にプロテーゼ挿入。顎先にもプロテーゼを挿入していた時期もあるが、既に抜去されていた。2000年39歳時に顎下吸引、顎にヒアルロン酸注入(1回)。

方法:額プロテーゼ抜去&凹凸修正

リスク・合併症:内出血・炎症(発赤・熱感・腫脹)・線維化等、ごく稀に感染・後戻り・麻酔アレルギー

Dr.コメント:この方の前額に挿入されていた(凹凸が顕著になっていた)シリコンを抜去する際、右眉下の瘢痕を利用して最短経路でアプローチして抜去しましたが、すでにシリコン周囲には高度な線維化と石灰化が見られ、シリコンそのものは劣化して砕かれていました。

患者さまご本人も右の眉が充分挙上できない(※中央の写真)ことに気づいていましたが、眉付近の切開や異物挿入によって不可逆的障害が生じ得ることが判る症例です。

優秀である筈の日本の外科医の世界で、何故ここまで問題が大きくなってきたのか?

こうした従来の方法を芸術的にまで昇華させた形成外科学的伝統技術ならば、先天奇形や機能障害、外傷や腫瘍切除後等に苦しむ患者さまたちに対して、(被るリスクよりも得られるメリットが上回る等の)厳格な基準を設けて充分に整備されたうえで、適応される余地が充分に残されるべきです。もちろん技術伝承は必要不可欠な陶冶の歴史と発展の可能性を具有します。

しかしながら眼瞼下垂治療に携わる医師たちによる適応の恣意的拡大解釈や、切開・異物の乱用および独善的手術によって、様々な合併症で患者さまを苦しめている事例が数多く存在しています。「これしか治療法が無い」と言う集団的思い込みが悪しき惰性の因習となって加害者集団を形成しているという、典型的な“時代”の構造問題をもっています。

従来法の致命的な欠陥や、治せない合併症がありつつも規制されず従来法がまかり通っていた背景には、「眼瞼下垂を治してあげたのだから、その引き換えにその程度の合併症は仕方がない」という医師側の勝手な観念が存在し続けていたからなのではないでしょうか。

ですが「仕方がない合併症かどうか」は本来、全手段とあらゆる功罪の情報を与えられたうえで、患者さまご自身が自由に選択する自己決定権に属する事象の筈です。医師たち個々人を批判したいのではなく、被害を被った患者さまたちの代弁者として、現状から脱却するための新技術と合併症治療法を啓蒙する必要性があると私は考えています。

限界と構造的欠陥がある眉上・眉下切開、前額(またはコメカミ)リフト術そのものを見直し(或いは捨てる英断をし)、厳格な適応基準を設けてアウフヘーベン弁証法的解決)をしなければならない“新時代”が来ているのです。

眼瞼下垂治療の有効で低リスクな代替法とは?

上眼瞼や眉、コメカミを含む前額を4Dで捉えた、有効で低リスクな眼瞼下垂の新治療法とは、(適応によっては数㎜しか切開しない上眼瞼脱脂や目頭切開を併用することがありますが)特殊な埋没法(新挙筋法)と自己組織充填技術です。先ず実例(30歳女性、11年後の経過を診た、当時軽度若年性仮性眼瞼下垂の治療例)を紹介します。

4Dハイブリッド 自己組織充填&新挙筋法 同時手術

症例:30歳日本&アジア系ハーフ女性 他院埋没法による軽度医原的眼瞼下垂

他院手術歴:25歳時 両瞼 上眼瞼脱脂&埋没法(LS法) 隆鼻 I型プロテーゼ挿入術

希望デザイン:下記写真の顔面デザインに加えて目尻切開および眼瞼下垂治療の新挙筋法デザイン

方法:VASER 通常モード脂肪吸引(頬~下顎)&全顔面自己組織(幹細胞)無制限注入&目尻切開&新挙筋法

リスク・合併症:内出血・炎症(発赤・熱感・腫脹)・線維化等、ごく稀に糸露出・感染・後戻り・麻酔アレルギー

Dr.コメント:この方は2010年8月20日に当院にて上記手術を行った全顔面モニター様です。当院HPに11年以上も掲載されている方ですが、その後年に2~3回程度別件のメンテナンスのために当院に通院されています。勿論この後には大きな美容整形手術は院内外でも全くされておりませんが、2021年9月20日にご来院された際の写真も得られました。

ご本人様曰く「メイクの仕方は年齢相応に変わったけど、あれから見た目が歳を取っていない気がします」と。軽度眼瞼下垂についてはこの時の手術1回のみで、上眼瞼の多重ラインとクボミとタルミが改善され、良好で自然な開眼度が継続されています。

全国の形成外科医・眼科医・美容外科医の先生方へ

医原的眼瞼下垂、過矯正、兎眼、ドライアイ、開閉眼障害、表情筋群の左右差や不随意運動、随伴頭痛等…先生方が行った全切開二重形成や眼瞼下垂治療で、前回の本連載記事でご紹介した数々の深刻な合併症の症例が全国で多発しています。

従来法に固執し反論する前に、先ずは先生方が行った眼瞼下垂治療後の多岐に跨る合併症を治す治療法(再切開や再切除、皮膚移植やステロイド注射、脂肪やヒアルロン酸等の注入、レーザー照射等を一切せずに、これら切開瘢痕やそれに随伴する様々な合併症を治す有効な方法)を術前に患者さまたちへご提示ください。

もしも、先生が「治せない」または「代案が無い」と仰るのなら、外科医にとって最も不名誉な「悪徳医師」の謗りを受け続ける覚悟が必要になるでしょう。患者さま方の術後の私生活や予後にまで責任が取れなければ、結局独善的で一方的な加害者に成り下がり、患者さまを全人的治療する資格は今後SNS世代から事実上剥奪され、淘汰されてゆくのかも知れません。

上手くいった成功体験だけをチャンピオン症例として挙げても、実際の被害者の面前では全くの無意味です。「経過をみましょう。少しずつ改善します」という逃げ口上の時間稼ぎフレーズは、本記事が公開された後の時代にはもう通用しなくなってくるでしょう。多くの患者さまは数ヵ月間も、時には数十年も泣き寝入りしているのです。目を背けずにこの機会にぜひ一度、真剣に考えてみて下さい。

今後本連載記事で切開瘢痕を治す新治療法についても述べて参りますが、それが開発されたからと言って挙筋前転法や短縮術、眉下切開等を安易に施術していいということにはなりません。私が開発した「メスを用いない切開瘢痕解除治療法」にも、やはり適応と限界、手遅れ、或いは治療回数が年余にわたる難治性症例も存在しているからです。

九野 広夫

医療法人美来会 理事長

(※写真はイメージです/PIXTA)