京都市立芸術大学の男性職員(Aさん)が、同僚からハラスメントを受けたとして、大学側に「告発」したところ、それから1年以上が経っても放置されたままの状況が続いている。

そのため、Aさんは今年9月、学長に対してハラスメントへの対応を求める嘆願書を送ったが、いまだ解決には至っていない。

Aさんは現在もフラッシュバックなどに悩まされているという。いったい、彼に何が起きたのか。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

【この記事には具体的なハラスメントの描写があります。お読みになる際には体調などご無理のないようにお願いいたします】

●「前からお前に腹を立てていた」1時間以上怒鳴り続け…

Aさんが勤務していたのは、京都市内にある大学の施設。もともと市立小学校だったが閉校し、大学が展示や制作、研究のための施設として使うようになったものだった。Aさんはその施設でイベントの企画運営を担当していた。

Aさんはもとから大学で雇用された職員だったが、この施設には大学が施設を管理し始めた2017年度以前に京都市教育委員会で再雇用され、2017年度からは京都市立芸大に雇用された元教員の男性職員もいた。

2017年7月、Aさんがいつものように自分の仕事部屋に出勤すると、施設管理を担当している元教員が突然、怒鳴ってきたという。それからAさんの部屋にずかずかと入り込み、開いていたドアの前に立ちふさがり、「前からお前に腹を立てていた」とさらに声を荒げた。

Aさんは何が起きたのかわからなかったが、ドアを閉めようとする元教員に対して、「ドアを閉めないでください」と言った。咄嗟に、密室で一対一になることを恐れたからだ。元教員は体育教師だったとのことで体格も良く、声も大きかった。Aさんは身の危険を感じた。

「人の家に来たら、挨拶するのは当然だ。なぜお前はそんなこともできない」

元教員はまた怒鳴った。Aさんには理解できなかったが、元教員は一方的に怒鳴り続けた。どうやら元教員は、あとからやってきたAさんの仕事が自分の職域と重なることに対して、不満を持っていたようだった。

「施設を自分の家だと思っているのはおかしい」「ドアを開けてほしい」「大声や威圧的な態度をやめてほしい」

Aさんは言ったが、元教員は聞き入れず、結局1時間以上、その仕事部屋に別の職員が出勤してくるまで居座っていたという。

●大声を出しながら廊下を追いかけてくる元教員

恐怖の体験から2日後、Aさんが仕事部屋にいると、元教員が勤務日ではないにもかかわらず、姿を現した。当時、施設内にほかの職員はいなかった。Aさんは恐れを感じた。

「たまたま忘れ物を取りに来ただけだが、お前に言いたいことがある」

元教員はそう言いながら、部屋に入り込もうとした。Aさんは「私に何か言うのが本来の用事ではないなら帰るべき」と言ってドアを閉めたが、元教員はそれでもドアを開こうとするので、押し問答をしなければならなかった。

2日前に1時間以上にわたって怒鳴られ続けたこともあり、Aさんは隙を見て部屋を出て廊下を走って逃げた。すると、元教員は大声を出しながら追いかけてきた。

Aさんはトイレに隠れ、別の職員に電話して危機的状況を訴えた。その後、別の職員が元教員に電話して帰るように伝えると、やっとAさんを追いかけ回すことをやめた。

「私以外の職員に自分の行為を知られることを気にしているようでした」とAさんは振り返る。その日以来、元教員と出勤が被ると、聞こえるように騒音を立てられるなど、嫌がらせを受けるようになったという。

●大学に訴えるも「これはハラスメントではない」

Aさんは、すぐに上司を通じて大学の総務広報課に相談し、両者にヒアリングがおこなわれた。元教員は事実を認めたものの、「(Aさんの)言葉づかいがなっていない」「(Aさんが)すぐに挨拶をしにこないといけない」といった理由から、自らの行為は正しいと主張していたという。

総務広報課からは「これはハラスメントではないから大学では対応することではないが、継続して一人での勤務も続けてほしい。あなたが個人的に裁判を起こせばよいのでは」と言われた。

Aさんは「事実を把握してもらえたので事態は好転するだろうと思っていたのですが…」と落胆したという。

その後も再三に渡り、直属の上司や大学側に対応を求めたが、元教員をAさんから引き離す配慮もなかったため、元教員と顔を合わせないように自ら出勤を調整しなければならなかった。

Aさんは翌年度、別の施設に移って1年間働いた。しかし、2019年度になってまた同じ施設に配置するという話が持ち上がり、Aさんはなんら事態が変わっていないことを懸念して、大学のハラスメント防止対策委員会に申立てをした。

「被害を思い出すこと自体がしんどかったです。フラッシュバックがあり、申立書を書くのにも半年ぐらいかかってしまいました。できるなら、誰かにサポートしてもらったほうがよかったと思います」とAさんは話す。

申立ては受理され、2021年5月にAさんに対するヒアリングがおこなわれた。しかし、このときには施設の取り壊しが始まっており、元教員はすでに雇用されていなかった。Aさんには、元教員に対するヒアリングがされたかどうかの報告も届いていない。

Aさんの申立てに対して、ハラスメント防止対策委員会は1年以上、対応をとらなかった。そのため、Aさんは今年9月、学長に対して嘆願書を提出した。学長からは「ハラスメント防止対策委員会に対し、早期に調査を終え報告をおこなうように伝えた」との返答があり、現在に至っている。

Aさんは「現状のような対応では、同じような問題が起きた時に学生や職員の安全な環境が保障されません。大学側には、きちんとした対応を求めたいです」と話している。

京都市立芸大「ハラスメントに該当するかも含めて調査中」

弁護士ドットコムニュース編集部は、Aさんが受けたと訴えているハラスメントについて、京都市立芸術大学に取材した(2022年11月18日時点)。

——このようなハラスメントが起きたことに対して、大学としてどう受け止めているか?

防止対策委員会として申立書を受理し、調査委員会を設置して、ハラスメントに該当する事案かどうかということも含めて調査を行っているところです。調査を経て防止対策委員会として結論を出し、大学としての措置を決定するため、現時点での回答は差し控えさせていただきます。

——取材によると、Aさんがハラスメントを受けた直後、上司や大学へ相談したところ、特に対策はされなかったそうだが、対応に問題はなかったか?

上記と同様、当時の対応の問題の有無についても現在調査中です。

——今年9月、Aさんは学長から「ハラスメント防止対策委員会に対し、早期に調査を終え報告をおこなうように伝えた」と回答があったとのことだが、現在どのような状況か?

現状及び報告時期の明言は致しかねますが、学長指示のとおり、鋭意進めておりますので御理解ください。

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