認知症=高齢者というイメージが強いですが、若年性認知症の有病者は全国に3万5,000人と、決して他人事ではありません。もし、一家を支える大黒柱が認知症と診断されたら……みていきましょう。

高齢化と共に「認知症」の有病率は増加傾向

介護や支援を必要とする人は、年齢を重ねるごとに増えていくもの。厚生労働省『介護給付費等実態統計月報』によると、年代別人口に占める要支援・要介護認定者の割合は、70代前半では5.8%だったのが、70代後半では12.7%、80代前半で26.4%と4人に1人以上の水準となり、80代後半以上では59.8%と6割近くに達します。

また年を重ねると、さまざまな疾病のリスクが高まりますが、そのひとつが認知症厚生労働省による『日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究』によると、2020年、65歳以上の認知症有病率は16.7%。およそ602万人、高齢者の6人に1人程度が認知症有病者となります。

また認知症というと高齢者がなるもの、というイメージがありますが、高齢者とはいえない、65歳未満の人がなる場合も。一般に、65 歳未満で発症する認知症のことを「若年性認知症」と呼び、厚生労働省令和2年若年性認知症実態調査』によると、日本の若年性認知症者は推計3万5,700人。18~64歳の人口10万にあたりの有病率は、50.9人と、10年前の前回調査47.6人よりも増加しているといいます。また若年性認知症の過半数が、アルツハイマー型認知症です。

【年齢別『若年性認知症有病率』(推計)】

18~29歳:4.8/1.9/3.4

30~34歳:5.7/1.5/3.7

35~39歳:7.3/3.7/5.5

40~44歳:10.9/5.7/8.3

45~49歳:17.4/17.3/17.4

50~54歳:51.3/35.0/43.2

55~59歳:123.9/97.0/110.3

60~64歳:325.3/226.3/274.9

出所:厚生労働省令和2年若年性認知症実態調査』より

※数値は10万人あたりの有病率で、単位は人。左より男性、女性、総数

2021年に太陽生命が行った『認知症の予防に関する意識調査』によると、「最もなりたくない病気」として最も多かったのが「認知症」で、実に42.6%の人が回答しました。しかし認知症は高齢者には身近な病気ですし、高齢者でなくても他人事といえる病気ではありません。いつ、誰もがなってもおかしくないのです。

認知症でも「障害者手帳」を申請できる

厚生労働省の調査では、要介護者を介護している人は同居人が54.4%。そして最も多いのが「同居する配偶者」で全体の23.8%。続く「同居する子ども」が20.7%、「別居する家族等」」が13.6%、「介護事業者」12.1%と続きます。認知症だけに限定すると、その割合は異なる可能性もありますが、もし家族が認知症になったら、その妻、または夫が介護をするケースが多いといえるでしょう。

もし妻が、もし夫が、認知症と診断されたら……きっと大きなショックを受け、途方に暮れてしまうかもしれません。特に働き盛りで家族を支える人が若年性認知症になった場合、その不安は計り知れないでしょう。

たとえば、第1子が大学生くらいの年齢となり、教育費に住宅ローンにと、一番支出が増える40代後半から50代前半にかけて。大卒サラリーマン(正社員)の平均給与は、40代後半で月45.5万円、年収は推定740.8万円、50代前半で月50.9万円、年収は推定841万円。支出が多い一方、会社人として収入もピークになるころです。東京都『若年性認知症の生活実態に関する調査』(平成31年3月)によると、若年性認知症と診断された人のうち、発症前と同じ職場で働いている人は1人もおらず、7割近くが「退職」の道を歩んでいます。

一家の大黒柱が認知症と診断されたら、収入減は確実。そんな現状に、とても「安心してください」と気軽にいえるものではありませんが、認知症に関しては、さまざまな支援サービスがあり、それらを利用することで経済的な不安を軽減できます。

意外と知られていないのが「障害者手帳」。認知症で「障害?」と思うかもしれませんが、認知症は記憶障害などの症状により精神障害に位置づけられ、また身体障害を併発する場合もあり、「精神障害者保健福祉手帳」や「身体障害者手帳」を取得することができるのです。

基本的に申請できるのは、医療機関で認知症の診断を受けてから定期通院を続け、6ヵ月経過したあと。また障害者手帳は症状の重い順に1級、2級……と分けられ、等級によって受けられるサービスも異なります。

障害者手帳により受けられるサービスのひとつが「公共料金の割引」。「鉄道やバス、タクシーなどの交通機関」「博物館や動物園など公共施設の入場料」「NHK受信料」「携帯電話基本料金」などです。また「税の一部控除」も。「所得税や住民税」「相続税贈与税」「自動車税や自動車取得税」など。さらに「公営・市営住宅」に優先的に入居できたり、福祉手当が受給できたりという場合も。

障害者手帳の取得自体にはデメリットはありませんが、「障害者」というワードには、若い人ほど抵抗感をもつ人もいます。本人と家族の生活をサポートするものなので、一度申請を検討する価値はあるでしょう。

(※写真はイメージです/PIXTA)