11月21日放送の「エルピス―希望、あるいは災い―」(毎週月曜夜10:00-10:54、フジテレビ系)第5話で、拓朗(眞栄田郷敦)がついにえん罪を決定づける真実にたどりつき、再審請求棄却を覆せる可能性が高まった。

【写真】ヨリを戻しレストランで食事する恵那と斎藤…

■再審棄却と共に特集も中止に…

同作は、スキャンダルのせいで落ち目のアナウンサー・浅川恵那(長澤まさみ)と彼女に共鳴した仲間たちが、連続殺人事件のえん罪疑惑を追う中で、一度は失った“自分の価値”を取り戻していく姿を描く社会派エンターテインメント。作品中で扱われている事件は、実在の複数の事件から着想を得ている。

また、タイトルの「エルピス」とは古代ギリシャ神話で、さまざまな災厄が飛び出したと伝えられる「“パンドラの箱”に残されたもの」で、「希望」とも「厄災」とも訳される言葉。真相に迫っていく過程で恵那らはさまざまな「希望」を見出すが、自身やその周囲に「災い」も降りかかる。“えん罪の再調査”というパンドラの箱を開けてしまった彼らが行き着く先はどちらなのか…という意味が込められている。(以下、ネタバレを含みます)

死刑囚・松本(片岡正二郎)の再審請求が棄却され、えん罪疑惑を追う企画も評判が良かったのに突然打ち切りを言い渡される。納得のいかない拓朗(眞栄田郷敦)はしつこく理由を尋ねたが、プロデューサーの名越(近藤公園)は答えなかった。そして、再審棄却以来抜け殻になっている恵那は、表情も変えず、何も言わずにそれを受け入れた。

■目撃証言のウソを暴こうとする拓朗

しかし、どうしても諦められない拓朗は、一人で行動することに。松本の逮捕の決め手となった目撃証言がどうも引っかかる。複数の目撃者からの「被害者は背の高いロン毛の男と山に入っていった」という証言はいつのまにか消え、たった一人の「松本を見た」という証言だけが採用されたのだ。

この証言をした西澤(世志男)を調べることにした拓朗は、手当たり次第に彼について尋ね回った。自身の過去のトラウマと向き合い、見て見ぬ振りをしてきた自分の弱さを自分に突きつけてしまった今の拓朗は、何かにのめりこんでいる間は苦しさを忘れられるのだ。そうやってがむしゃらに動き始めて1週間。西澤の息子・健太と自分の息子が同級生だった、という人物にたどり着き、健太の小学校の同窓会に潜入。健太は来ていなかったが、彼の親友を介して電話で話すことができた。

えん罪を裏付ける決定的な証言

健太の母・由美子は西澤と離婚して、子どもたちと共に西澤のDVから逃れるために名古屋にいた。由美子は震える声で西澤の証言は「ウソです」と答えた。「主人はその時刻、家で酔っ払って寝てました」と言い、だから、八頭尾山で松本の姿を見たはずがないのだ、と。さらに、証言して以来“アサベ商事”から毎月30万円が振り込まれている当時の通帳を見せた。西澤は「給料」と言っていたが働いている様子はなく、“アサベ商事”という会社も存在していなかった。幼い子どもへ暴力をふるうのを恐れてこれまで言わなかったが、子どもが成人した今、真実を告げるために拓朗に会いに来た彼女は「申し訳なかったです」と嗚咽しながら謝罪を繰り返した。

たった一人で真実の扉を開けた拓朗。出演者をナンパしたことを盾にさくら(三浦透子)に脅されてしかたなく始めた、「国家権力になんて勝てっこない」と諦めかけた、そして再審請求が棄却されて絶望的な状況になっていたえん罪疑惑の追及を、彼は自力で成し遂げたのだ。

■拓朗のVTRを見た恵那は…

そして拓朗は、恵那がしたように「フライデー☆ボンボン」で流すVTRを、由美子の証言のものにすり替えた。だが、同じ手に二度も引っかかるわけがなく、本番では元から予定されていたものが流された。

本番が終わるや否やスタジオに怒鳴り込んできたチーフプロデューサーの村井(岡部たかし)から拓朗が作ったVTRを見せられた恵那は、衝撃的な真実に息をするのも忘れるぐらい釘付けになった。そして拓朗に電話して、すぐに会いたいと告げた。

拓朗はそのとき、出演者のあさみ(華村あすか)とラブホテルにいたが、「どうしても今すぐ話したい」と言う恵那に従い、あさみを諦めてファミレスにやってきた。恵那は「ごめんなさい」と頭を下げた。自分が情けなかったこと、真実の追及から逃げたこと、闘いもしないで負けに甘んじたこと…拓朗のVTRを見て、恵那はやっと目が覚めたのだ。「君は、本当にすごいことをしたね」と言う彼女に対し、「また真実は闇に葬られて終わった」と吐き捨てる拓朗。

斎藤(鈴木亮平)に言われた通り、斎藤を通して報道に持っていけばよかったのかと悔やむ彼に、「そんなの何もかも全部吹き飛ばせるぐらい決定的で最強の真実を君は掴んだの。本当に松本さんを釈放できるかもしれない」と、恵那は拓朗の目を見つめて告げた。しばらく沈黙が流れた後、拓朗が口を開いた。「雑炊食っていいですか?」。拓朗は雑炊を食べながら自分が空腹だったことに気付き、睡眠不足であることも思い出した。事件と共に拓朗の“夜”も明け始めたのだった。

■役者・眞栄田郷敦の覚醒

一心不乱に雑炊をかきこむ拓朗を見て、何だかとてもほっとして泣きそうになってしまった。そして前回と今回に渡った「岸本拓朗の成長物語」を、緊張感と共に見守っていたことに気がついた。トラウマと向き合った後、別人のように目つきも顔つきも変わり、四六時中張り詰めた空気を発散しながら取り憑かれたように動き回っていた、ここ2話の眞栄田郷敦は“演技”や“役作り”を超えていた。私たちが見ていたのは“演技する眞栄田郷敦”ではなく“岸本拓朗”そのものだ。台本上の人物だった岸本拓朗が眞栄田の体を借りて動き、話している…そんな気持ちにさえなった。

眞栄田にとって「エルピス」は、確実に代表作になるし、ターニングポイントにもなるはずだ。岸本拓朗も覚醒したが、役者・眞栄田郷敦も覚醒した。今回、ただの「イケメン若手俳優」ではなく、とてつもないポテンシャルの持ち主だと証明した。彼に対する認識が変わった視聴者も多いはずだ。新局面を迎える第6話以降ラストまで、まだまだ新たな面を見せて私たちを魅了してほしい。

◆文=鳥居美保/構成=ザテレビジョンドラマ部

えん罪疑惑特集の中止を一方的に言い渡され、納得のいかない拓朗/(C)カンテレ