昨今、「ユーロ・スタイル」と呼ばれるドレスアップされたトラックが増えています。従来のいわゆる「デコトラ」とは何が違うのか、イベントで関係者にハナシを聞いたら業界の切実な事情を変えようとする動きも含まれていました。

欧州製トラックによく似合う「ユーロ・スタイル」

車をデコレーションする文化は世界中で根付いていますが、それはスポーツカーなどの小型車に限らず、大型車、すなわちトラックにも当てはまります。日本では、個性的なパーツや塗装を施したトラックは、「デコトラ」などという通称で知られており、2021年の東京パラリンピック開会式でも演出のひとつとして注目を集めていました。一方、海外でもトラックを飾る文化は存在しており、特に欧州トラックの場合は、「ユーロ・スタイル」という呼び名で知られています。

このユーロ・スタイル、最近では日本国内でも目にするようになっており、ドイツダイムラー・トラックやスウェーデンボルボスカニアなどといった外国車をヨーロッパ流にデコレーションするのが増えています。

では、実際にそういったヨーロッパ流のデコレーション・トラックに乗る人たちはどういった心持ちで愛車を運転しているのか。現場の声を聞くために、滋賀県で行われたトラック・イベントに行ってハナシを聞いてきました。

伺ったのは2022年11月19日(土)と20日(日)、滋賀県米原市の奥伊吹モーターパークで行われた「みんなのトラックフェス」です。このイベントはヨーロッパ製トラックを数多く扱う「ヨシノ自動車」「セノプロトラックス」「トランスウェブ」「キャリオン」の4社が共同で開催したもので、会場にはスカニア社やボルボ社の車両を中心にトラックが約120台も集結。天候にも恵まれたことで、女性同士や家族連れなど多くの人が来場し賑わっていました。

なかにはキャブ全塗装トラックも!

トラックが100台以上並んでいるだけでも圧倒されますが、各トラックにはそれぞれ個性的なデコレーションが施されており、その見た目の美しさはトラック好きでなくても楽しめるほど。ここに集まった多くのトラックは、単なる仕事のための道具ではなく、オーナーやドライバーが愛情と手間を注いで作り上げた自慢の「作品」だといえるでしょう。

話によると、ユーロ・スタイルの特徴は一言で表すなら、今風のスタイリッシュなビジュアルだそう。一般に広く知られた和流の「デコトラ」は、巨大なバンパーやバイザーなどのパーツ類を装着し、原型のトラックが持つフォルムを覆い隠すような派手なドレスアップを施しているのが多く、キャブの塗装や荷台などに描かれたイラストも、浮世絵を始めとした日本画などの和流デザインが多用される傾向にあります。

一方ユーロ・スタイルは、ベースとなるヨーロッパ製トラックが元から持つデザインを生かししつつ、エアロやバー・パーツ、作業灯などを装着して部分的にドレスアップするのが特徴で、塗装も車体全体を基準にしてトータルコーディネートしている印象を受けました。

会場に展示されていたトラックも、仕事用の車両では中々見られない色をまとったトラックが多く、光輝材(いわゆるメタリック系塗装)を含んだ明るいカラーリングが目立ちます。なかにはスポーツカーで使われている塗料を用いたものや、重ね塗りを行うキャンディ塗装(複数回の塗装が必要なので手間と費用が掛かる)まで施した、「こだわりのクルマ」までありました。

また、運転席部分のキャブ側面などにはロゴや図柄を入れたトラックも多く見受けられました。ヨーロッパ製トラックはもともと運転席周りの空間が広いためキャブ部分が大きく、それに加えて空気抵抗を低減させる目的のエアロパーツも最初から装着されていることが多いため、国産トラックよりも車体表面の面積が広くなっています。ここを大きなキャンパスのようにして塗装と模様でデコレーションするのです。

カスタム総額は外国製高級SUV以上!

たとえばスカニアは、神獣グリフォンを自社エンブレムに用いており、トラックにもそれをモチーフにした巨大なロゴマークを純正オプションとして用意しています。ユーロ・スタイルではそれを発展させ、オリジナルロゴをデザインしてボディに入れたり、エアブラシによる1点モノのスプレーアートを描いたりするオーナーまでいるといいます。

ゆえに、会場ではユーロ・スタイルの輸入パーツを扱うショップが企業ブースとして出展しており、パーツの実物も展示されていました。パーツのメーカーはトラックと同じくヨーロッパが中心で、たとえばドイツの「ライトフィックス」、イギリスの「ケルサ」、イタリアの「アシトイノックス」、スウェーデンの「トゥルックス」などが作るドレスアップ・パーツを見ることができました。

ユーロ・スタイルの定番パーツはバー・パーツだそう。代表的なものではキャブの天井部分に付けるハイ・バー、キャブ前面のグリル周辺に付けるミニ・バーもしくはマルチ・バー、バンパー下など車体下部に付けるロー・バーなどがあり、これにライトを装着するのが定番のドレスアップ手法だそうです。

また、運転席の窓に取り付けるバイザーや、キャブ上部に付けるサインボード、トラックでは定番のホーンなどもあり、既製品でもバリエーションが豊富で、これらを自由に組み合わせることで、トラックごとに個性あるデコレーションを行うことが可能です。

一般的にヨーロッパ製のトラックは国産のものよりも車体価格は割高です。会場に展示されたトラックは、そのような外国車に手間と費用の掛かるデコレーションを施していることから、トータル金額はちょっとした外国製高級SUVを上回っているでしょう。

自己満だけじゃない「人材確保」と「広報効果」も

なぜユーロ・スタイルのオーナーたちは、そこまでしてこのようなトラックを作り乗っているのでしょうか。

あるオーナーにハナシを聞いたところ、やはり一番の理由は自身がトラック好きだからというものでした。そして、次に挙げていたのは、意外にも「人材確保」と「広報効果」という企業ならではの理由でした。スカニアボルボのトラックはドライバーから見ても魅力的でブランドイメージも高いため、それに乗れるというのはある種の憧れになっているそうです。

イベントを主催した「ヨシノ自動車」でトラックのカスタム部門「ファストエレファント」のディレクターを務め、今回のイベントでは運営の中心のひとりとして活動していた中渡瀬アルフレッド氏は次のように話してくれました。

「トラックというのは仕事で使うのが一番の目的です。ですが、ここに展示されたようなカッコいいトラックは、いろいろな意味でモチベーションを高めてくれます。運転するドライバーさんがトラックに愛着を持ってくれれば、それは安全運転に繋がり、最終的には会社全体の業務改善にも繋がります。加えて、トラック自体が注目されるので広報効果もあり、若いドライバーや現役ドライバーの目標にもなっているといえるでしょう。このイベントを展示会ではなく、ドライバーも参加して交流できる“フェス”というスタイルで実施しているのは、そんなカッコいいトラックが集まり、ドライバーや参加者がモチベーションを高め合って業界を盛り上げて欲しいという思いからです」。

トラックドライバーは、地味な仕事内容や長時間労働などのネガティブなイメージが強く広まってしまったからか、少子高齢化の進む昨今、人材確保にきわめて苦労しています。実際には、新しい技術の採用や法規制の変更などによって労働環境の改善は進んでいるものの、一度付いてしまった悪い印象は中々拭うことはできません。

ユーロ・スタイルのトラックはそんな業界のイメージを改善し、次代を担う青少年がトラックドライバーに関心を持つ、その入り口となる重要な存在だと、今回のイベントを取材して筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は実感しました。

主催団体のひとつ「セノプロトラックス」のデモトラック。スカニアの車両運搬トラックをフルエアロ仕様にしている。同社はトラックのカスタムを専門に行う会社で、ユーロ・スタイルの世界では名前の知られた存在(布留川 司撮影)。