中高年以降になるとなにかと耳にする機会の多くなる血糖値。健康診断で少し異常があっても、症状が乏しいため放置しがちですが、「最悪の悲劇」を向かえるケースも……MYメディカルクリニック横浜みなとみらい院長の山本康博先生が、53歳男性経営者の事例をもとに高血糖がもたらすさまざまな疾患について解説します。

「血糖値」は高すぎても低すぎてもキケン

私たちの体はブドウ糖や脂肪を主なエネルギー源として活動していますが、血液のなかを流れているブドウ糖の濃度のことを「血糖値」といいます。健康な人の場合、空腹時の血糖値はおおよそ80~100mg/dL程度、食後は若干高い値を示します。

食後の血糖値が上がった状態になると、膵臓からインスリンが分泌されます。また、血糖値をあげるグルカゴンアドレナリン、コルチゾール、成長ホルモンなどのホルモンにより、狭い範囲の正常値が常に保たれていることが一般的です。

しかし、インスリンが十分に分泌されなかったり、インスリンの働きが悪かったりすると慢性的な高血糖状態が続き、この状態を「糖尿病」と呼びます。

反対に、血糖値が必要量以下の値になっている状態を、「低血糖」と呼びます

低血糖になると大きく影響を受けるのが脳で、血糖値が50mg/dl未満になると脳がエネルギー不足になり、強い空腹感や冷や汗、ふるえ、動悸などが起こり、重症になると意識がなくなります。

このように、血糖値は高すぎる場合も低すぎる場合も大変危険な状態なのです。

健康診断「異常」も放置…53歳経営者Aさんの悲劇

Aさんは53歳、男性の会社員(中小企業の経営者)です。3年前の健診時の検査値は、身長170.3cm、体重81kg、BMI 28.3、空腹時血糖142mg/dlで、健康診断で異常を指摘されました。生活習慣改善と医療機関受診を勧めたものの、受診されず。

今年4月の健診時には、体重78kg、空腹時血糖213mg/dl、HbA1c7.8%(もう1つの糖尿病の指標は6.5%が目安)となっていました。そこで、健診結果の返却時に治療の必要性を説明し、再度継続受診を勧めましたが、それ以降の来院はありませんでした。

同年11月、かぜで来院。体重73kg、HbA1cは8.5%になっていました。他院への受診はしていなかったものの、自分なりに食生活や運動には気をつけているとお話ししていました。

診察したところ、この時点ですでに糖尿病による足の神経障害、動脈硬化が進行し、右足指の血流が低下しており、足指の壊疽を起こしかけていました。糖尿病による神経症、下肢の血流障害として入院加療を行いましたが改善せず、最終的には足指の切断手術を行うことになってしまいました。

このように、慢性的に血糖値の高い糖尿病を放置しておくと、血管が脆くなりさまざまな合併症を引き起こします。血管が脆くなり損傷することで酸素や栄養がうまく行き渡らなくなることから、全身のあらゆる臓器・器官に影響を与えます。

糖尿病が引き起こすさまざまな「合併症」

糖尿病の合併症は、細い血管に起こる「細小血管障害」と太い血管に起こる「大血管障害」に大きく分けられます。

最悪失明するケースも…「細小血管障害」の特徴

細小血管障害には「糖尿病網膜症」、「糖尿病腎症」、「糖尿病神経障害」があり、これらは糖尿病の罹患期間が長くなるにつれて発症率が高くなっていきます。これら3つの合併症の特徴は以下の通りです。

<糖尿病網膜症>

高血糖によって網膜の毛細血管に障害が起こり、十分な血液が供給されない状態です。目のかすみや視力障害、眼底出血による突然の視力低下などが起こり、最悪の場合失明するケースもあります。

<糖尿病腎症>

糖尿病によって、腎臓のろ過機能を担う糸球体に異常が生じ、体内の老廃物や水分、塩分の排泄がうまくできず、最終的には血液透析や腎移植が必要になります。

<糖尿病神経障害>

手足のしびれ、感覚鈍麻、大腿部の筋萎縮、筋力低下、顔面神経麻痺、たちくらみ、異常発汗、胃のもたれ、便秘、下痢、動悸、勃起不全など、障害が起こっている神経によって異なった症状があらわれます。糖尿病患者の約40%がこれらの神経障害を持っているといわれています。

脳梗塞心筋梗塞を引き起こす「大血管障害」 

一方、太い血管で起こる大血管障害では、「動脈硬化」が引き起こされます。

動脈硬化が脳の血管で進行すると「脳梗塞」、心臓で進行すると狭心症心筋梗塞、足の血管で進行すると「閉塞性動脈硬化症」になります。それぞれの部位での特徴は以下の通りです。

<脳>

糖尿病患者は、糖尿病でない患者に比べて脳梗塞の発症リスクが2~4倍高くなっており、若い世代に多いのが特徴です。

<心臓>

狭心症心筋梗塞を起こしやすく、神経障害を伴うために無痛のケースが多いです。近年では日本人の発症頻度の増加が問題となっています。

<足>

健康な人に比べて3倍近くのリスクで、「閉塞性動脈硬化」を発症します。一定の距離を歩くと足が痛くなったり、冷えやしびれを感じたり、重症の場合では安静にしていても痛みを感じ、やがて末端の皮膚潰瘍や壊死を生じるケースもあります。

私は大丈夫?…血糖値の数値を知る検査方法

血糖値の正常値は、空腹時で110mg/dl以下です。

健康な人であれば食後に血糖値が上がっても、インスリンの分泌で再び正常値に戻りますが、糖尿病の疑いのある高血糖の人はこの働きがうまく作用せず、高い数値を示し続けます。

血糖値の数値を知るための検査は、食事の影響によって変動する血糖値を3つのタイミングで測定します。

・随時血糖検査

食事と無関係に血糖値を測定します。数値が200mg/dL以上ある場合は、糖尿病型と診断されます。

・空腹時血糖

10時間以上絶食した状態の血糖値を測定します。126mg/dL以上ある場合は、糖尿病型と診断されます。

ブドウ糖負荷試験

10時間以上絶食した状態の血糖値を測定し、75グラムのブドウ糖を飲んだ後30分、60分、120分の血糖値を測定します。

※明らかに糖尿病の自覚症状がある患者には、さらに高血糖を引き起こす可能性があるためこの測定方法は行いません。

血糖コントロール成功の秘けつは「食事と運動」

糖尿病治療のための血糖コントロールを成功させるには、食事の習慣を見直す食事療法と、運動習慣を身につける運動療法が欠かせません。以下に、血糖コントロールに有用として実際に行われている食事療法と運動療法の内容を解説します。

食事療法…体格にあった量をバランスよく摂取

その人の体格にあった適性量のエネルギーを、栄養バランスよく摂取することが基本です。1日当たりの適切な摂取エネルギー量は、以下の計算式で算出できます。

身体活動量×標準体重(身長×身長×22)

なお身長はメートル換算で、身体活動量は座り仕事が多い人なら「25~30」、立ち仕事が多いなら「30~35」、力仕事が多いなら「35以上」を目安に計算します。

たとえば座り仕事で身長162cmの人の場合、1日あたりの適性エネルギーは、以下のように計算できます。

例)25×(1.62×1.62×22)=1443.42kcal/1日当たり

また、食事内容と食べ方にも工夫が必要です。三大栄養素をバランスよく摂れるよう、先ほど求めた1日の摂取エネルギー量のうち50~65%が炭水化物、20~30%が脂質、13~30%がタンパク質になるよう心がけましょう。

例)座り仕事の162cmの人の場合、およそ炭水化物で720~930kcal、脂質で280~430kcal、タンパク質で185~430kcalずつ摂取すべきと考えられる。

なお、急激な血糖値の上昇を避けるために食事は1日3回規則正しく、できるだけよく噛みしっかり時間をかけて食べるようにしてください。

運動療法…無理のない強度を「継続」で効果UP

血糖コントロールに有効な運動の目安は「他人とおしゃべりをしながらでも続けられる程度の負荷」です。

具体的には、以下のような運動を1回あたり10~30分程度、週に3~5日以上行うといいとされています。

•8,000~10,000歩を目標とした散歩、またはウォーキング •人と話しても続けられる程度の、ゆっくりとした軽めのジョギング •水中での歩行や、水泳 •簡単なストレッチや体操 など

糖尿病の運動療法は、長期間継続して行ってこそ効果を発揮します。食事療法とセットで、体調を見ながら無理のない範囲で始めてみましょう。

「薬」を服用する場合の注意点

食事療法と運動療法を続けても血糖値が下がらない場合は、内服薬または注射で血糖コントロールを行うことになります。糖尿病治療に使われる内服薬と注射薬、それぞれの特徴は以下の通りです。

血糖コントロールに使われる「内服薬」

インスリンの分泌量や働きを調整したり、また糖の吸収・代謝の速度に働きかけることで、血糖コントロールを目指す薬物です。

さまざまな種類があり、含まれる成分によって作用する臓器・時間・副作用なども異なるため、医師が患者の状態にあわせて適切なものを処方します。近年は多くの新薬が登場しており、以前より血糖値のコントロールや合併症の予防効果が高くなっています。

血糖コントロールに使われる「注射薬」

自分で注射することで血糖コントロールをする、インスリンを使った注射薬です。特にⅠ型糖尿病患者に有効な投与方法で、作用する時間によって超即効型・即効型・中間型・混合型・持続型などの種類があります。なお、インスリン注射の一部種類では妊婦・胎児への安全性も確認されています。

薬物療法は、食事と運動による血糖コントロールを補助するための治療法です。薬の利用には副作用もあり、低血糖や合併症の原因となるリスクもあるため、必ず食事療法・運動療法と一緒に継続して行うようにしましょう。

おわりに…まずは自分の血糖値を知って、異常の早期発見を

高血糖は初期は症状に気づかず、いつの間にか重篤な状況になってしまうことも珍しくありません。生活の質を落とすような怖い病気にならないために、ぜひ自分の血糖値を知る機会を作りましょう。

山本 康博

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい

院長

(※写真はイメージです/PIXTA)