《鬼畜》なぜ4歳女児の腹をハサミで割いたのか…? 逮捕歴25回の男(58)が明かした「あまりに歪んた欲望」 から続く

「ひいいいっ!」――河川敷を散歩していた男が見つけたのは、ポリバケツに入れられた人間の切断遺体だった……。のちに21歳、デートクラブで働く女性とわかる彼女はなぜ殺されたのか?

 ノンフィクションライターの小野一光氏の新刊『昭和の凶悪殺人事件』(幻冬舎アウトロー文庫)より一部抜粋してお届けする(全2回の2回目/前編を読む)

*登場する人物名や店舗名はすべて仮名です。

◆◆◆

5個のポリバケツから見つかった死体

 昭和50年代の年末にその事件は発覚した。

 近畿地方B県B市の河川敷を散歩していた戸田隆は、5個の蓋がされたポリバケツ野ざらしになっているのを見つけ、その一つをなにげなく棒で突いて倒した。

「ひいいいっ!」

 倒れたバケツの蓋が外れ、そこから明らかに人間のものだとわかる、切断された胸部と臀部(でんぶ)が出てきたのだ。

 戸田は慌てて河川敷から公衆電話のある場所へ向かうと、110番通報した。

 すぐにB警察署から捜査員が駆けつけ、県警本部からも捜査員が集まった。ポリバケツはすべてB警察署に移され中身が取り出されたが、それらは手首から先のない両腕に両足、肉片や臓器などで、被害者の特定に必要な頭部と両手は見つからなかった。

 ただちに捜査本部がB警察署に設置され、本格的な捜査が始まった。

 バラバラ死体は、翌日には大学病院で解剖され、その結果、死体は血液型A型の女性で、年齢は10代後半から30代。死後すでに2、3カ月が経過していることが判明した。

 ただ残念なことに、死体には手術痕や傷あと、あざ、ほくろなど、本人特定に繋がる特徴は見当たらなかった。

被害者は18〜22歳の女性

 バラバラの死体から被害者を特定するために、身長を推定する作業が始まった。

 当初は身長158から175センチメートルという大きな幅しか割り出せなかったが、整形外科医の協力を得て、バラバラになっている骨格を継ぎ合わせ、女性の平均値と比較するなどした結果、身長165センチメートルからプラスマイナス2、3センチメートルという推定身長に辿り着いた。また、年齢についても子細に検討して、18歳から22歳であると推定された。

 一方で、遺棄現場周辺への聞き込みで、ポリバケツはもともと遺棄場所から西に50メートルほど先の竹藪内に捨てられていたが、発見の2日前に竹藪の所有者が不法投棄されたゴミだと判断して、河川敷に動かしていたことがわかった。

 さらに竹藪などの捜索で、ポリバケツのほかにポリ袋とロープ、金鋸(かなのこ)の刃、生理用ナプキンなどが発見され、これら遺留品の販売経路が捜査されることになった。

 すると、すべての物品を揃って購入できるのは、X県Y市であることが判明したのである。

 そこで、X県内での行方不明者との照会作業を続けたところ、同年夏に母親からX県警に捜索願が出されている、21歳の高木綾という女性が浮上した。

 彼女は年齢のほかに、身長が165センチメートルで、Y市に居住しているなど、捜査本部が探していた被害者の条件と共通している。

 そこで綾についての身元確認の捜査を続けたが、思うように進展しない。捜査が膠着(こうちゃく)するなか、ある捜査員が声を上げた。

「綾さんは高校に行ってたし、どこかで胸部のレントゲン写真は撮ってないですかね」

 ただちに綾の母親に問い合わせたところ、高校一年時にY市内のN総合病院で、レントゲン写真を撮影していた事実が明らかになった。捜査員が同病院に赴(おもむ)いて写真を探し出してもらったところ、1枚の写真が発見され、提出を受けたのである。

 その写真の画像は複数の大学の専門家によって死体の胸部レントゲン写真と対照された。すると、脊椎(せきつい)の曲がり状況や肋骨各部の特徴的形状から、発見された死体はN総合病院で撮影された、綾のレントゲン写真と同一人物である可能性が極めて高いという鑑定結果が出たのだった。

「ここはひとつ、被害者は綾さん一人に絞ってやってみよう」

 捜査本部内でそうした決定が下され、彼女の家族から綾の所持品の提出を受け、身元確認作業が進められた。すると、ノートの1冊から足紋と思われる紋様が発見されたのである。その紋様を死体の足紋と対照したところ一致。その結果から死体は綾のものであると断定された。

「手足を切って捨てれば身元はわかりはしない……」

「綾さんは事件に巻き込まれる直前、デートクラブで働いていたようだ」

 Y市内の高校を卒業してスチュワーデス(現キャビンアテンダント)を目指した彼女は、上京して英語の専門学校に通うなどしていたが、途中で生活苦からキャバレーで働くようになり、夢を諦めてしまう。やがて地元に戻り、レストランを経営する男性と見合い結婚をしたが、義母との折り合いが悪く、数カ月で離婚。それから職を転々とした末に、Y市内のデートクラブ「フラワー」で働くようになったのである。

 そこで捜査員が「フラワー」の経営者への事情聴取を実施したところ、次の話が出てきた。

あの子は×月×日にマッサージクラブ『ミラクル』の川越という男のところに、『前の恋人から取り立ててもらったおカネを取りに行く』と言って、普段着のまま出ていったきり、帰ってこないんです」

 綾は「フラワー」で働く前に、その川越伸也という男が経営する「ミラクル」で働いていたという。そこで綾の「前の恋人」である池田一郎を捜し出して聴取したところ、綾が彼に貸し付けていた現金215万円を、綾の代理で借金の取り立てに来た川越に手渡していた事実を突き止めたのである。

「綾さんに頼まれて、池田からカネを取り立てた川越が怪しい」

 捜査本部は、川越の身辺捜査を徹底して行うことにした。

 すると、川越が以前経営していたガラス店が、遺留品と同じ金鋸の刃を購入していたことが判明。さらに内妻とY駅の地下街果物店で購入した商品を梱包していたロープが、遺留品のロープと同じであることなどが明らかになった。

 川越は親しい友人に、次のようなことも口にしていたという。

「人を殺してバラバラにしたときには、手足を切って捨てれば、誰だか身元はわかりはしない……」

突如、行方をくらました川越

「B県警のデカが、バラバラ事件で俺のことを調べているらしい」

 捜査本部内で重要参考人として浮かび上がったのと時を同じくして、川越は内妻にそう言い残して姿を消していた。

 B県警はX県警の全面的な協力を得て、川越の行方を捜したが、なかなか成果を上げられない。X県警は川越が知人を脅して現金15万円を強奪していた事実を突き止め、強盗及び恐喝未遂事件の逮捕状を得て、足取り捜査を行うなどした。

 捜査が動いたのは、死体の発見から9カ月後のこと。X県警がY市内の友人宅に潜伏していた川越を発見し、逮捕したのである。

 B県警は捜査員をX県警に派遣。川越が強盗事件で起訴されるのを待って、取り調べが始まった。

「……」

 これまで強姦や傷害などで前科3犯の川越は、最初の3日間、一言も喋らずに完全黙秘を貫いた。

 しかし取調官は彼が真犯人であるということに自信を持ち、これまでに集まった捜査資料を提示しながら「仏を成仏させてやれよ」と、説得を繰り返す。

 取り調べが始まって1週間が過ぎた。すると、徐々に日常会話を交わすようになってきた川越が重い口を開く。

「58年の×月頃、B市内の国道を降りて、車で10分ほど走ったところの竹藪に綾の死体を捨てた。今日はこれくらいにしてくれ」

 その日、科捜研からは川越から採取した毛髪が、ポリバケツを梱包していたガムテープに付着していた毛髪と一致したとの報告があった。そのため、まずは川越を死体遺棄容疑で逮捕し、その翌日には完全自供を受けて、殺人・死体損壊の容疑で再逮捕したのだった。

頭部はすでに見つかっていた

「男に預けた215万円を使い込まれたので、取り返してほしい」

 経営していたマッサージクラブで働く綾からそう頼まれたことが、そもそもの犯行のきっかけだった。

 強面の川越は、すぐに綾の「前の恋人」である池田と交渉して現金の返済を受けた。しかしそのカネを、川越はマンションの家賃や飲み代に使い込んでしまう。

「約束が違うでしょ。人のカネを使い込むなんて人間じゃない。あんたの店がやってる違法行為、警察にみんな喋ってやる」

 川越がカネを使い込んだことを知った綾は、彼を口汚く罵(ののし)った。それで逆上した川越は、綾の横腹を蹴り上げたうえで馬乗りになり、首を絞めて殺害していた。

 続いて川越は風呂場でパンツ一枚の姿になり、彼女の遺体を包丁と金鋸の刃を使って切断。頭部と手については岸壁から海に投げ捨て、その他の部位はポリ容器に入れてB市の竹藪に捨てたのだった。

 彼女の頭部については、事件発覚の3カ月前にK市の海岸に打ち上げられ、身元不明の死体として扱われていたが、川越の証言を受けて綾の生前の顔写真と照会された結果、本人のものであることが確認された。

 こうした執念の捜査の結果、川越は事件発覚から1年半後に殺人と死体損壊遺棄罪で起訴されたのである。
 

(小野 一光)

前科3犯男はなぜ21歳女性をバラバラにする必要があったのか? 写真はイメージです ©getty