犯罪に関する報道で、しばしば聞かれる法令用語の一つに「脅迫」があります。また、よく似た用語として「強迫」という言葉が使われることもあります。同音異義語であるこの両者にはどんな意味と違いがあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

「恐怖を感じさせる」点は共通だが…

Q.まず、「脅迫」という言葉の意味について教えてください。

佐藤さん「法律用語としての『脅迫』は、『脅迫罪』(刑法222条)のように刑法の中で使われる言葉であり、『恐怖心を生じさせる目的で害を加えることを通告すること』といった意味です。

脅迫罪は、相手またはその親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対し、害を加える旨を告知すると成立します。害悪の告知は一般に、人に恐怖を感じさせる程度であることが必要です。例えば、『殴るぞ』『恥ずかしい写真をばらまいてやる』『家に火をつけてやる』などの発言は脅迫罪に問われる可能性がありますが、仲良し同士で遊んでいる最中に、冗談で言ったような場合には、怖がらせる程度の脅迫ではないとして、罪に問われない可能性が高いです。

なお、客観的に、恐怖を感じさせる程度の害悪の告知があれば、結果的に相手が怖がらなかったとしても、脅迫罪は成立します。脅迫罪の法定刑は、『2年以下の懲役または30万円以下の罰金』です。

脅迫罪以外にも、『強要罪』(刑法223条)のように、条文の中で『脅迫』という言葉が使われることもあります。強要罪は、脅迫または暴行を用いて、人に義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨害したりすると成立し、法定刑は『3年以下の懲役』です」

Q.次に、「強迫」という言葉の意味とは

佐藤さん「法律用語としての『強迫』は、『強迫による意思表示は、取り消すことができる』(民法96条)のように民法の中で使われる言葉であり、『違法な害悪を示して恐怖心を生じさせ、その人の自由な意思決定を妨げること』といった意味です。

先述の『脅迫』の場合と同様、例えば『ここにサインしないと殴るぞ、恥ずかしい写真をばらまいてやる、家に火をつけてやる』などと言って、何らかの契約をさせたような場合、『強迫』によって自由な意思決定が妨害され、無理やり契約させられたといえるでしょう。そのため、その契約は後から取り消すことができます」

Q.つまり、「脅迫」「強迫」の違いとは何でしょうか。

佐藤さん「『脅迫』と『強迫』はいずれも、相手を怖がらせるような言動のことであり、先述したように『殴るぞ』といった発言は、『脅迫』にも『強迫』にも当たる可能性があるなど、両者が重なり合うこともあります。

両者の違いは、『脅迫』は刑事上の用語であり、『強迫』は民事上の用語であるということでしょう」

オトナンサー編集部

「脅迫」と「強迫」の違いって?