「眼瞼下垂」は、その名の通りまぶたが下がってきて目が見にくくなる病態のことである。発症頻度が高い疾患のため、悩まれている方も多いだろう。「美容医療国際職人集団」と言われるJSAS会員であり、高須克弥医師の孫弟子にもあたる医療法人美来会理事長、九野広夫医師。九野氏は、美容医療の他院修正専門医院を立ち上げ、これまで数多くの不幸な医療事故や医療過誤を目にしてきた。本連載では九野氏に、従来のハイリスクな全切開(挙筋短縮術や前転法)ではない、「非切開式次世代の眼瞼下垂治療法」および「切開瘢痕の(メスを用いない)新治療法」について解説いただく。

次世代の非切開式眼瞼下垂治療法

皆さん、一度考えてみて下さい。もしも全切開せずにその必要な分の縫合だけができれば、(前々回のコラム「名医や専門医に「眼瞼下垂」と診断されても、保険診療でも「上瞼の全切開」(挙筋短縮・前転法)がNGな理由」で述べた)不可逆的で重篤な全切開のリスクを背負わずに眼瞼下垂が治療できる筈ですね?

挙筋短縮法・前転法はハイリスク!今は代替法(新挙筋法)が存在する

当院では2007年開業以来、独自に開発した新挙筋法とそれを基軸にした他の術式の組合せで、全ての仮性眼瞼下垂と一部の真性眼瞼下垂を過去全症例、全切開せずに治療できています。

考えてみれば、全切開を要する従来の眼瞼下垂治療手術では瞼の深部組織まで切開や展開をしても結局行う施術の要は糸で結紮しているだけですから、余計な切開をせずに目的部位に必要なだけの腱膜リフトができれば、充分眼瞼下垂を治療することができる筈です。

しかも、先天性眼瞼下垂の大半は幼少時に手術を完了しているため、疾患や外傷による真性眼瞼下垂の一部と、殆どの方が当てはまる仮性眼瞼下垂の全てが新挙筋法の適応対象となり得ます。

どうしてそんな技術が今まで存在しなかったのか?

従来から(現在でも)、多くの医師の間で埋没法だけでは「眼瞼下垂」は治せないと思われ続けていました。それは、従来の殆どの埋没法が挙筋腱膜とは全く連動しない「瞼板法」と呼ばれる手技だったからです。

瞼板法とは主に二重形成のみを目的とする埋没法の一種で、予定する二重ラインと(瞼に対して)垂直に埋没糸を貫通させて結紮する技法を指し、垂直Loop結紮の概念枠内のみで技法が多岐に派生する歴史がありました。

開発当初から30年以上もこれら全てを総称して「埋没法」と呼ばれていましたが、今世紀に入り「挙筋法」という呼称が次第に定着し従来の埋没法は「瞼板法」として分類される様になりました。

挙筋法とは?

「挙筋法」の名付け親は真崎医院の真崎先生ですが、当初は挙筋法そのものがまだ浸透していませんでした。

2005年頃から筆者が開発し始めた際は、その挙筋法を知らずに全く異なるアプローチから本法の原案着想に辿り着いていたものの、埋没糸を挿入する方向が「瞼に対して垂直ではない」という基準に則り、2007年開業以降に先駆者に敬意を払って「新挙筋法」と命名しました。

実はその後に気付いたのですが、挙筋法では主に瞼中央付近に2点(安定した同一角度)で固定しつつ挙筋腱膜内外角には挿入しない手法であるのに対し、新挙筋法の標準術式が(図の様に)腱膜内外角にまで及ぶ4点固定である点と、「垂直でない」挿入角度に企図したグラデーションをつけている点(「挙筋度」という概念)が全く異なっていました。

因みに腱膜内外角に同時に糸を遠さなければ、中央のみしか挙上できず三角目になってしまいがちです。

眼瞼下垂治療の代替法である新挙筋法とは?

本法で用いる埋没専用糸は、糸1本に5円玉を40枚ぶら下げる実験をしても切れなかった極細の日本製7-0特殊糸です。それを丁寧に6重結紮していますので、術後に切れることや結び目が外れるリスクはかなり低く改良されています。更に、瞳とは接しない角度から1点で挿入するため、瞼の裏側から糸が露出して角膜を損傷するリスクとも無縁になりました。

結び目も閉眼時の瞼に透けない様な工夫もされています。但し、全切開をせずに個別ごとに異なる(同一人物でも左右で異なることもあります)挙筋腱膜に対しては、位置、方向(挙筋度)、深さを間違いなく的確に1回でできるかどうかの特別な職人技術が毎回問われます。

つまり、紋切型のマニュアルでは無く、毎回異なる術式をする必要があります。

更に全切開を伴わない他の(マイクロ切開脱脂やZ形成目頭切開)技術(※)を新挙筋法に組み合わせると、殆どの眼瞼下垂が治療できるだけでなく、クボミ・タルミ・多重ラインの修正・任意の二重ラインの幅や形・開眼度の調整・睫毛の形・瞼全体の左右差を更に改善させることも充分に可能です。

つまり個別にアレンジするだけで複合的な瞼の諸問題に対して一度に平均、一石五鳥以上の効果を引き出すことができるのです。これは、全切開を伴う手術や他の術式では一度には解決できていなかった効能のバリエーションです。

当院において仮性眼瞼下垂症例では、2007年の開業以来一切の全切開を伴う手術(挙筋短縮術・挙筋前転法・眉下切開・切除法・前額リフト術など)はもはや不要となっています。

寧ろ、新挙筋法では眼瞼下垂が治るだけでなく、目頭から目尻まで揃えて左右の瞼ごとで挙上度を微調整することまでできる上に、取り返しのつかない重篤な後遺障害を残しません。新挙筋法は埋没法の一種ですので傷跡は針穴だけで済み、万一の場合でも埋没糸を針穴から抜去、またはやり直す(リバーシブル)こともできます。

従って、ハイリスクな全切開(挙筋短縮術や前転法)を受ける前に先ず、ローリスクで低費用の新挙筋法を試みることは充分理に適っています。

陥凹と高度タルミがある眼瞼下垂症例を全切開や脂肪注入せずに治療した例

症例:51歳女性

他院手術歴:なし

御希望:加齢による目の周りのタルミとクボミや縮緬ジワを改善し眼が大きく開けるようにしたい。

脱脂した脂肪を涙袋とゴルゴラインに注入して欲しい。

当院治療法:両側。上眼瞼マイクロ切開脱脂術&当院オリジナル新挙筋法4点固定法&完全オーダーメイドZ形成目頭切開&経結膜下眼瞼脱脂術&脱脂した脂肪を(涙袋・インディアンゴルゴ)ラインに)注入。

治療合併症:内出血・炎症(発赤・熱感。・腫脹)・線維化等、ごくまれに糸露出・感染・後戻り・麻酔アレルギー

Dr.コメント:

この症例は、上眼瞼のクボミとタルミと皮膚の厚み、眉・目の間の距離にそれぞれ左右差があり、しかも一見すると上眼瞼陥凹症に見られながらも術前シミュレーションにて余剰皮膚が収まらなかった方です。

タルミ収納スペース確保のために上眼瞼脱脂を併用しましたが、挙筋法がなければ決して到達し得ない発想です。更に、蒙古ヒダのツッパリも開眼の妨げになっていて、結果的に御本人様の御希望レベルとのギャップを埋めるべく上記複合手術で最大限の開眼が得られました。

加えて、脱脂した脂肪を涙袋とインディアンラインに注入することで目元の一層の若返り効果を引き出しています。

「瞬きができる」眼瞼下垂の方は全て、新挙筋法+α(※)で治療可能

もっとシンプルに言えば、瞬きができる(挙筋が麻痺していない)眼瞼下垂の方は全て、新挙筋法の適応(つまり充分に治療可能)になります。尚、必要時には適応や患者さまの御希望等を見極めたうえで(マイクロ切開脱脂やZ形成目頭切開)技術(※)を組合せた手術を行います。

何故なら、眼瞼下垂の原因が神経や筋肉levelでは起こっておらず、多くが挙筋腱膜の弛緩、上眼瞼のタルミや陥凹、脂肪過多、蒙古ヒダの牽引、そして全切開を伴う手術によって生じた医原的眼瞼下垂だからです。

しかし解剖学書通りの瞼の構造を持っている人間なんていない上に、下垂の度合いのみならず皮膚、眼窩脂肪、眼輪筋の厚みや密度に至っては個人差の幅が広く、左右差まであります。或る年度の学会の会場では他院の医師に「透視能力がなければ切らずに治すなんて不可能だよ」と言われたこともありました。

確かにその通りで私も最初はここまでできるとは思っていませんでした。

実は透視能力が無くとも、4D(立体構造+動的次元)の個別オーダーメイドデザインを徹底して職人技術を陶冶していく内に、大抵どんな瞼構造の眼瞼下垂の方々の治療もできる様になってきただけなのです。

シミュレーション時に個別の瞼ごと、瞼を折り畳ませる最適解を出した際、その位置と折畳む方向と深さを同時にメモリーし、それを忠実に再現させるポイントに糸を挿入して結紮する技法を、毎回ひたすら応用することに尽きます。

一部の真性眼瞼下垂の方も治療可能

更に最近では真性眼瞼下垂症例に対しても、新挙筋法を試みて一部に良好な結果を得ることができています。

一見、真性眼瞼下垂に見える方々の中にも、挙筋は正常に運動するが挙筋腱膜が未発達である場合、挙筋の運動が相対的に弱いだけの場合、挙筋の麻痺が(脳神経疾患などで)一時的な場合などは、新挙筋法の適応となって根治できた方が多数いらっしゃいます。

神経や筋肉が麻痺をしているのかどうか、薄く繊細な挙筋腱膜が充分に発達して存在しているかどうか、医師が診察してもMRIで検査しても(脳疾患など他に原因が判明する場合を除いて)殆どの場合、厳密な責任病変部位を特定できないことも少なくありません。

自験例ですが挙筋腱膜を完全に離断されていた方や、従来法の眼瞼下垂治療手術後に発症した「医原的眼瞼下垂」の症例でも治療に成功した症例がございます。

全切開を伴う従来法でも治らなかった眼瞼下垂を新挙筋法で治療した症例

症例:40歳男性

他院手術歴:37歳時、全切開を伴う眼瞼下垂治療

御希望:3年前の治療でも治らなかった右側の眼瞼下垂を根治させたい。

当院治療法:右側のみ。当院オリジナル新挙筋法2針4点固定法

治療合併症:内出血・炎症(発赤・熱感。・腫脹)・線維化等

ごくまれに糸露出・感染・後戻り・麻酔アレルギー

Dr.コメント:

他院で3年前に受けた全切開を伴う眼瞼下垂手術(短縮術か前転法かは御本人様も聞いていないとのことでしたが)でも何故根治できていなかったかと言えば、恐らく挙筋腱膜の短縮が上手くいかなかったか術後の硬化した瘢痕が瞼の挙上の妨げになっていた可能性があったからでしょう。

再切開すると却って眼瞼下垂が悪化すること(医原的眼瞼下垂)さえあるため、修正目的であっても禁忌だと当院は考えます。

術後15ヵ月経過しても尚、右側の二重ライン幅が左側と比較して少しだけ広く見えていますが、僅かな線維性の瘢痕がまだ挟まっている状況です。蒙古ヒダのツッパリもあったため、互い違いのラインを1本化しながら開眼度を左側に合わせるための挙筋度を調整して、この方の瞼にベストマッチングする手術を行いました。

新挙筋法では4Dデザインによる開眼度の左右差調整もでき、過去の症例のDATA集計によると4点固定以上の1回目の手術で(原因によってマイクロ切開脱脂やオーダーメイドZ形成目頭切開を併用することがございますが)眼瞼下垂の根治率が9割前後、再発率が1割未満です。

術後2ヵ月前後すれば、瞼の折り畳みや開閉眼が安定してくる傾向があり、永続的な治療効果も充分に見込めます。仮に眼瞼下垂が再発または多少挙上が不足した場合でも、2点以上の追加固定で更に安定化を図ることができています。そして最終的には過去全例、根治に至っています。

三日月形の皮弁切除を行わずに眼瞼下垂を治療した例

全切開をせずに治療した開眼度に左右差のある若年性眼瞼下垂症例

症例:30歳女性

他院手術歴:なし

御希望:体重が減少したきっかけで、眼が開きにくくなってきた。以前より左側が開きにくいが、この際に両方とも眼瞼下垂を治したい。

当院治療法:両側完全オーダーメイドZ形成目頭切開LEVELⅢ&当院オリジナル新挙筋法4点固定法

治療合併症:内出血・炎症(発赤・熱感。・腫脹)・線維化等、ごくまれに糸露出・感染・後戻り・麻酔アレルギー

Dr.コメント:

この症例は、生来の眼瞼下垂兆候(特に左側)があったものの、痩せたことがきっかけで眼瞼下垂が進行した方です。

蒙古ヒダのツッパリが明らかで、上眼瞼にクボミと僅かなタルミが認められていますが、傷跡を目立たなくさせる目的と同時に(特に左側内側の睫毛の挙上度を確保する目的で)オーダーメイドZ形成デザインを(蒙古ヒダの裏側mm以下単位で)施しました。

左内眼角の上下方向に蒙古ヒダが放物線状に存在しているため、従来(他院)ならその放物線に沿った三日月形の皮弁切除をされてしまう様な典型例ですが、それだと瘢痕拘縮のため却って眼瞼下垂が悪化します。当院では傷跡を目立たなくさせる命題と牽引を上手く解除することを同時に満たす、彼女の左瞼の特性に最適な曲線Zデザインを施し、その通りに切除して新挙筋法の開眼効果と連動させています。

従来とは比較にならない医師の技量が必要とされる

ここで最も重要なのは、当院の新挙筋法のオーダーメイドデザインは瞼平面上の折り畳み位置のみならず、折畳ませる位置と方向と深さ、開閉眼の動きまで個別にデザインに反映し、必要時には左右で異なる4Dデザインを行っているため、医師側に要求される技術の幅と高さが(従来の埋没法と比較にならない程の水準で)要求されるという点です。

従来の単純な4点固定(瞼板)法とも挙筋法とも文字通り次元が異なります。今思えばですが、それは開発者責任と他院で失敗されてきた患者さまたちの痛切な思い、そして他の医師ではそう簡単にできないからこその使命感が無ければ、辿り着いていなかった技術だったのかも知れません。

九野 広夫

医療法人美来会 理事長

(※写真はイメージです/PIXTA)