脳には「とっさに使う神経回路」があり、その回路は人によって異なります。例えば何か問題が起こったとき、「ことのいきさつ」から根本原因に触れるタイプか、「今できること」に集中するタイプか。両者は対話スタイルも異なり、このすれ違いがコミュニケーションストレスを生み出すといいます。人工知能研究者・黒川伊保子氏の著書『職場のトリセツ』(時事通信社)より、「この世の『対話』には2種類ある」を見ていきましょう。

共存すべきなのに、対話の相性が悪すぎる2つのタイプ

「ことのいきさつ」派が使う神経回路を、プロセス指向共感型と呼ぶ。とっさにプロセスに意識が行き、共感で対話を進めるからだ。

「こんなことがあって、あんなことがあって…」としゃべる人は、「そうか」「わかるよ」「たいへんだったね」あるいは「いいね」「よかったね」などの共感ワードで話を進めてもらうと、“記憶の再体験”がスムーズに行き、答えを得やすい。

「今できること」派が使う神経回路を、ゴール指向問題解決型と呼ぶ。とっさにゴールに意識が行き、目の前の問題を解決すべく、話を進めるからだ。

目の前の人のことばから、感情と主観を取り除き、客観的事実だけをつかもうとする。つまり、感情の揺れに任せて記憶を語る「ことのいきさつ」派の話は、ほとんど無駄話に聞こえてしまうのである。このため、「何の話だ?」「で、結論は?」と切り返さずにはいられない。

事実確認(「いつ」「誰が」「何を」「どこで」「どのように」「なぜ」などの確認)を怠らず、結論を急ぎ、「きみもここが悪い」「こうすべきだった」などのアドバイスを素早く打ち出せる。職場会話の見本のような会話方式である。

「今できること」をすみやかに遂行するには、これ以上の会話方式はない。しかしながら、深い気づきや思いがけないアイデアにはなかなか至れない。このため、職場の脳が「今できること」派に偏ると、発想がシュリンクして、「いいアイデアが出ない」「勘が働かない」集団になってしまう。

「ことのいきさつ」派と、「今できること」派は共存すべきなのだが、いかんせん、対話の相性が悪すぎる。互いに歩み寄るテクニックが不可欠なのである。

上司と部下の会話がすれ違う根本原因

職業人の年齢層だと、「ことのいきさつ」派は女性に圧倒的に多く、「今できること」派は男性に圧倒的に多い。年齢で傾向が出る理由は、この脳の選択が「生殖と生存」のためになされるからだ。

なお、この2者の対立は、男女に限らない。

上司と部下の会話においては、上司はゴール指向問題解決型、部下がプロセス指向共感型の回路を使っていることが多い。たとえ、上司が女性、部下が男性であってもだ。

上司がゴール指向問題解決型なのは当たり前だ。管理職の役割が、まさにそれだから。

部下がプロセス指向共感型になるのは、「先輩の背中を見て、仕事のコツを学ぼう」としているからにほかならない。プロセス指向共感型の回路は、右脳と左脳の連携回路である。右脳(感じる領域)と左脳(顕在意識)を連携させて、目の前の人の息づかい一つ、所作一つ、ことば一つ見逃すまいとしているのである。だから、子育て中の女性はこれを駆使し、「慕っている上司」の前に立った部下も、これを使う。

このため、上司は部下の話を「要領を得ない」と感じがちだし、部下は上司を「わかってくれない」と感じやすい。夫と妻の間に起こるコミュニケーションストレスが、ここにも生じてしまうのである。

10年ほど前までは、女性の管理職が少なく、男性上司VS女性部下が圧倒的に多かったため、これは男女問題だと思われてきたが、今や女性上司と男性部下というセットも少なくない。女性は、自分が立場によって、問題解決型になっていることも意識しておかなければならない。

思い返してほしい。部下でなくても、実家のお母さんの長い話にうんざりして、「お母さん、何の話?」「私にしてほしいことから言ってくれない?」「グズグズ言ってないで、早く医者に行けばいいのに」などと切り返してはいないだろうか。

母親は、娘に共感してもらって、今日の「もやもや」を晴らしたいのに、忙しい娘は、それがわかっていても付き合えない。あるいは、小中高生の娘の要領を得ない話にうんざりするキャリア母だっているに違いない。

女性だって、ゴール指向問題解決型=「今できること」派に切り替わることは多々ある。「今できること」派へのアドバイスも読み飛ばさないでほしい。

他人の話は「共感」で受ければ間違いない

実際の対話において、相手の脳がプロセス指向共感型なのかゴール指向問題解決型なのか、いちいち判定するのは煩わしいし、わかりにくいときもある。なので、「人の話は、共感で受ける」と決めてしまったらいい。たとえ、「今できること」派であっても、初動が共感であることに悪い気はしないから。

共感型の話を、共感で受けると、次のようになる。

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部下「3ヵ月前に、私が顧客先のA部長にこう言ったら、ああ言われて、そうしたら…」

上司「そうか。たいへんだったね。何かあったの?」

部下「実は、先ほどこんなやり取りがあって、ひどいんです」

上司「こういうこと、あるんだよな。先に確認しておけばよかったね」

部下「たしかに、私も配慮が足りなかったです。では、こうしてみます」

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問題解決型の話を、問題解決で受けると、次のようになる。

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部下「顧客との間にこんなやり取りがあって、どうしたらいいでしょうか」

上司「そもそも、きみの確認不足だよな」

部下「はい」

上司「こうしてみて」

部下「わかりました」

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問題解決型の話を、共感で受けると、次のようになる。

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部下「顧客との間にこんなやり取りがあって、どうしたらいいでしょうか」

上司「こういうこと、あるんだよな。先に確認しておけばよかったね」

部下「たしかに、そうでした」

上司「では、こうしてみて」

部下「わかりました」

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共感型の話を、問題解決で受けると、次のようになる。

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部下「3ヵ月前に、私が顧客先のA部長にこう言ったら、ああ言われて、そうしたら…」

上司「それって、先に確認を取るべきだったよね。で、どうなったの?」

部下「実は、先ほどこんなやり取りがあって、ひどいんです」

上司「そもそも、こっちが甘かったんだから、ひどいも何もないでしょ」

部下「でも…」

上司「こうしてみて」

部下「…はい」

上司(わかったのかな…イライラ

部下(わかってもらえない…もやもや)

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おわかりだと思う。互いにストレスを抱えるのは、最後のケースのみ。

共感型の話に、いきなり問題解決で切り込むと、気持ちが着地できず、ストレスを生む。問題解決型の話を共感で受けると、相手の気持ちを慰撫して、信頼関係を深めることになる。他人の話は、相手が何型であっても、共感で受ければ間違いがない。

ネガティブな話は「わかる」で受ける

「たいへんだった」「ひどかった」「つらかった」「痛かった」などの苦労話は、基本「わかるよ」で受ける。相手のことばを反復して、「たいへんだったね」「ひどいよな」「つらかったでしょう」「そりゃ、痛いよね」と続けるのが理想的。

どうしても同意できないことなら、「そうか」「そうなんだ」と受ける。

ただし、目上の人の体験談やウンチクは、「わかる」ではなく「感心」や「賞讃」で受けたほうがいい。「そんなたいへんなことがあったんですね」「それを乗り越えるなんて、すごい」「えーっ、そうなんですか」「参考になります(勉強になります)」のように。

経験の少ない若手に「わかります。私も一緒」なんて言われると、格が違うだろう、と言いたくなってしまう。で、格の違いを知らしめるために、さらなる体験談やウンチクが加えられて、話が延々と長くなってしまうのである。

よく、「男性上司の話が長くて、困ってます」という女性が多いのだが、それは、女同士のように「わかる、わかる」系のあいづちを打ってしまうから。若い女性が「わかります~。たいへんですね」なんて言うと、「このたいへんさ、本当にわかってるのかな」と思われて、話が上乗せされてしまう。気をつけて。

ポジティブな話は「いいね」で受ける

ポジティブな話や提案は、「いいね」で受ける。たとえ、その提案を受け入れなくても、「いいね」で受けるのである。優秀な上司は、部下の欠点や提案の弱点に即座に気づいて、それを知らせてくれるが、共感型の部下にとって、「いきなりの否定」は冷たいからだ。

◆いきなり問題指摘に移る上司

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部下「部長、こんな提案があるのですが」

上司「その資材調達どうするつもりだ?」

部下「あ~、考えていませんでした」

上司「そこが大事だろ」

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◆提案してくれた気持ちをねぎらう上司

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部下「部長、こんな提案があるのですが」

上司「お、いいね。ところで、この資材調達、何かアイデアある?」

部下「あ~、考えていませんでした」

上司「もうひと頑張りしてみて」

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ゴール指向問題解決型の人は、「いいね」は、成果にしかあげられないと思っている。ゴールしていないのに「いいね」は言えない、と。

そんなことはない。「いいね」は、プロセスにだってあげられる。着眼点がいい、想像力がある、集中力がある、前向きだ、あきらめないタイトルがいいなどなど。人の上に立つ者は、部下の提案は「いいね」で受けると腹に決めたほうがいい。提案してくれた気持ちに感謝し、提案できるまでに育ったことを心の中で祝福する。

もちろん、「結果へのNO」は、クールに言ってかまわない。「いいねぇ、この着眼点。でも、プランには魅力がない。やり直し」でもいいくらいだ。

気持ちさえ受け止めてもらえれば、部下は頑張れる。「あの人、プロだから仕事にはほんっと厳しいんだ。けど、わかってくれてるから」と言われるボスになる。

黒川 伊保子

株式会社感性リサーチ 代表取締役社長

人工知能研究者

1959年長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒業。富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ(現富士通)で14年間にわたり人工知能(AI)開発に従事。その後、コンサルタント会社などを経て、株式会社感性リサーチを創業。独自の語感分析法を開発し、これを応用したネーミングで新境地を開いた。

AIと人間との対話を研究する過程で、男女の脳では「とっさに使う神経回路」の初期設定が異なることを究明。これらの知見を活かした著作も多く、ベストセラー『妻のトリセツ』(講談社)をはじめとするトリセツシリーズが人気を博している。ほかに『成熟脳』『共感障害』(いずれも新潮社)、『ヒトは7年で脱皮する』(朝日新聞出版)など。

(※写真はイメージです/PIXTA)