(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)

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 山際大志郎前経済再生相、葉梨康弘前法相に続き、寺田稔総務相も辞任に追い込まれた。

 旧統一教会とのただならぬ深い関係、死刑執行に関するとんでも発言、政治資金を扱う総務省のトップが政治資金規正法に違反するような行為をしていた等々、3人の行状はどれもがあきれ果てたものばかりだった。

 岸田文雄首相は、そのたびに「丁寧に説明責任を果たしてもらいたい」と、なんとかの一つ覚えのように繰り返してきた。だがこの3人の辞任理由をどう説明するのか。山際氏の場合なら、「旧統一教会とのズブズブの関係を、具体的に、正直に語りなさい」とでも言うなら、まだ分かる。だがこれができないから辞任に追い込まれたのだ。丁寧な説明など無理ということだ。

 葉梨氏の場合も同様だ。葉梨の問題発言の内容というのは、「法務大臣というのは、朝、死刑のはんこを押して、昼のニュースのトップになるのはそういう時だけという地味な役職だ」「外務省法務省は票とお金に縁がない。法務大臣になってもお金は集まらない。なかなか票も入らない」というものだ。

 これをどう説明しろというのか。説明など聞く必要もない愚かな発言だ。即刻、罷免するしかないものだった。森喜朗元首相などはその最たるものだが、自民党政治家はパーティーや講演会などで“受け狙い”で舌禍事件をよく引き起こす。葉梨氏の場合もその典型だ。

 寺田稔前総務相の場合はどうか。関連する政治団体「寺田稔竹原後援会」が故人を会計責任者として収支報告を行っていた。それだけでなく11月21日朝日新聞によると、その後援会の2014~2020年の代表者欄に下見勝二氏の名前が記載されていたのだが、下見氏は「ここ10年近く後援会の仕事はしておらず、収支報告書に自分の名前があることも知らなかった。こんなめちゃくちゃな話はない」と憤っている。

 これも丁寧な説明というものではない。いかに杜撰(ずさん)な政治資金収支報告書だったかというだけのことだ。

辞任ドミノは続くのか

 3人で終わりかと思ったら、また出てきた。秋葉賢也復興相だ。

 秋葉氏は、選挙で公職選挙法にのっとって報酬を払うことができる車上運動員(俗に言うウグイス嬢など)に公設秘書を登録し、報酬を支払っていたことが判明した。だが選挙運動の原則はボランティアである。ましてや給料をもらっている秘書が選挙運動を積極的に行うのは当然のことであり、報酬を上乗せするというのは普通あり得ない。

 見解を問われた岸田首相も「自分の秘書を車上運動員として使ったことは一度もなかった」と答弁している。

 車上運動員や運転手、事務員など報酬が認められた仕事以外に報酬を支払うと買収と見なされ、政治家本人にも連座制が適用され失職することもある。現に、電話作戦の人に報酬を支払ったため失職した国会議員もいる。軽い問題ではないのだ。

 昨年(2021年)の衆院選で秋葉氏の次男が選挙区内で秋葉氏の名前が入ったタスキをかけ、まるで影武者のような行動を行っていたことも判明している。また旧統一教会との関係でも接点が新たに判明した。自民党内からも「公職選挙法の問題はまずい」「常識的に考えれば切った方がいい」という声が上がっているという(11月26日朝日新聞)。

 それにしても寺田氏といい、秋葉氏といい、「法相は金にならない」発言をした葉梨氏といい、なんという姑息で小さな政治家なのか。昔の自民党議員は、こんなチマチマしたことはやらなかった。これで「国家国民のため」などと言えるのか。

 小選挙区制を導入する際、心配されたことの1つが、公認権を持つ党執行部が力を持ちすぎるということだった。みんなが上ばかり向いている“ヒラメ議員”になるからだ。現に今の自民党はそうなっている(日本共産党は、選挙制度にかかわらず執行部が絶対的な力を持っているが・・・)。

一番説明責任を果たしていないのは岸田首相

 4人の大臣の問題で一番説明責任を果たしていないのは、実は岸田首相である。

 岸田首相が言ったのは、「説明責任を果たすように」ということと、「辞任の申し出があったので認めた。任命権者として、厳しい反省の上に再出発しなければならない」と言うことだけだった。3回連続で「任命責任を重く受け止めています」と平然と言える岸田首相というのは、相当な鉄面皮である。普通なら恥ずかしくて、あんな平然とした態度はとれないものだ。

 しかし、これでは説明責任を果たしたことにはならない。少なくとも、なぜ罷免ではなく、辞任の申し出があるまで待ったのか。野党はもちろん、与党内からも罷免の声は上がっていた。だが岸田首相はそうしなかった。それはなぜなのか。

 最低限、これぐらいははっきり説明する責任がある。そうでなければ、「任命責任を重く受け止めています」というのもその場限りの口先だけということになる。

支持率が下がり続ける最大の責任は首相自身にあり

 岸田内閣の支持率がどの調査でも最低を更新し続けている。旧統一教会自民党の抜き差しならない関係が明るみ出たこともその大きな要因である。安倍元首相の国葬儀も大きい。それ以上に大きな要因になっているのは、岸田首相自身の首相としてのあり方であろう。

 10月に行われた産経新聞FNNの調査では、「支持しない」という理由に、「実行力に期待できない」と回答した人が51%に上っている。朝日新聞の調査では、「岸田首相は、リーダーシップを発揮していると思いますか」という問いに対して、69%の人が「発揮していない」と回答している。支持率低下の最大の要因がここにあるのだ。

 なぜ実行力やリーダーシップに疑問符がつけられているのか。問題のある3大臣を罷免にしなかったこともある。だが、それより大きいのは、岸田首相が何をやろうとしているのか国民にはさっぱり伝わってこないからだ。

 たとえば総額39兆円という過去最大規模の総合経済対策を閣議決定した。これによって2023年1月から9月までの光熱費・ガソリン代負担を4万5000円程度軽減することが盛り込まれた。産経・FNNの調査では、「とても期待する」「ある程度期待する」が48.5%になっている。だが「あまり期待しない」「まったく期待しない」が50.7%に上っている。朝日の調査でも、「あまり評価しない」「まったく評価しない」が50%になっている。

 岸田首相が世界を飛び回り、国政にも懸命に取り組んでいることを国民は知らないわけではない。だが評価はしていない。なぜか。肝心の何をやっているのかが見えてこないからだ。

 最近ニュースを見てつくづく思うのだが、バイデン大統領やマクロン仏大統領などの話からは何をしようとしているのかが伝わってくる。

 だが岸田首相にはそれがない。旧統一教会問題でも、岸田首相自身が厳しく糾弾し批判したことはない。安倍氏と旧統一教会の関係の調査もしない。これでは旧統一教会の被害者救済と言っても信用されないのは当然なのだ。

 だから総合経済対策にしても、巨額の予算を組んだが、一言で言えばバラマキだ。これで支持率を上げようと考えているとすれば本末転倒もはなはだしい。そもそもこの財源はどうまかなうのか。国民はそこが知りたいのはそこだ。

 全国旅行支援を来年も続けると言うが、この支援を使えるのは金と時間に余裕がある一部の人だけだ。国民は、なんでももらえるならありがたいと思っているわけではない。

 岸田首相率いる宏池会は、池田勇人(故人、元首相)が立ち上げ、大平正芳(故人、元首相)らが引き継いできた。池田氏や大平氏は、国民を説得し、惹きつける力があった。なぜその力があったのか。政治に真剣に取り組んできたからだ。岸田首相には、この政治姿勢を学んでもらいたい。

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