H・G・ウェルズの小説、「宇宙戦争」(1898年)には、火星人がタコのような容姿を持つ火星人が描かれていたが、実際に、宇宙からやってきたという説があるほど、タコは無脊椎動物でありながら高い知能を持つ異質な存在だ。
なぜ無脊椎動物で複雑な脳を獲得できたのは、タコやイカなどの頭足類だけだったのか? これは生物学の長年の謎だ。
ある国際的研究チームが、その答えを解明する重要な発見をした。
彼らの研究によると、タコの高い知性は、神経組織の「マイクロRNA」のレパートリーが大幅に増えたことと関係があるようだ。こうした進化は、人間などの脊椎動物で起きたものと同じなのだという。
マックス・デルブリュック・センターのニコラウス・ラジェフスキー教授は、この発見について「人間とタコをつなぐもの」とし、複雑な脳の発達には、マイクロRNAが基本的な役割を果たしていると考えられるそうだ。
人間とタコの進化の歴史を遠くさかのぼると、知性などほとんどない原始的なイモムシのような共通祖先にたどり着く。
その後、私たちとタコは袂を分かち、片や背骨を持つ生物へ、片や背骨を持たない生物へ、それぞれ別の道を歩み始める。
そして脊椎動物(とりわけ霊長類をはじめとするほ乳類)は、大きく複雑な脳を発達させ、さまざまな認識力を発揮するようになった。
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一方、無脊椎動物はそうはならず、知能という点では大きく水をあけられたようだ。しかし例外いる。タコをはじめとする頭足類である。
では、なぜ無脊椎動物の中で、頭足類だけが複雑な脳を獲得できたのか? これは生物学の長年の謎だ。
タコは中枢神経系と末梢神経系の両方を持つ。後者は独立して機能するため、腕は切られてもなお動くことができる / image credit:Unsplash
タコの多様なマイクロRNA
これまでのタコの遺伝子の研究から、彼らの体内ではRNA(リボ核酸)編集がよく行われていることが明らかになっている。これはタコがRNAを再コード化する幅広い酵素を利用できるということだ。
これについて詳しく調べるために、ラジェフスキー教授らは、死んだタコの組織サンプルを分析してみることにした。
そして意外なことが判明する。RNA編集がたくさん起きていたのは確かだったが、その場所が予想と違っていたのだ。
だが何より興味を引いたのは、メッセンジャーRNA(mRNA)と比べてとても小さく、タンパク質を合成する情報を持っていない「マイクロRNA(miRNA)」というRNAの仲間が劇的に増加していたことだ。
[もっと知りたい!→]またしてもタコの凄さが露呈。8本の触手は脳からの指令がなくても独立して意思決定ができる(米研究)
そうした新しいmiRNAのほとんどは脳の神経組織にある。
それらは進化を通じて、タコの体に保存されてきたようだ。ラジェフスキー教授らによれば、それらは頭足類にとって有利なもので、重要な機能を担っているだろうという。
生産するタンパク質について指示を携えたメッセンジャーRNAと違い、miRNAが携える情報は、RNAの小さな断片のものだ。そうした断片は、メッセンジャーRNAに結合することでタンパク質生産に影響を与える。
タコの体にはそうした結合部位もまた保存されており、このことからも新たに拡充されたmiRNAの大切さがうかがえるという。
無脊椎動物でもとりわけユニークなタコ
タコに見られるmiRNAの拡充は、動物では3番目に大規模で、脊椎動物を除けば最大の増加事例であるという。
たとえば、同じ軟体動物であるカキは、タコとの共通祖先と別れてから新たに5種類のmiRNAしか獲得していない(そして知能も高くない)。一方、タコは90種類も獲得している。
タコは無脊椎動物の中でもとびきりユニークな存在だ。
中枢神経である脳と独立して機能する末梢神経系がある。だから、腕が切り落とされたとしても、その腕には感覚が残っており、動くこともできる。
タコだけが複雑な脳を発達させられたのは、貝殻を開けるなど、そうした腕を意図的に使っているためかもしれない。
好奇心が旺盛で、記憶力も良く、タコの高い知能はそこかしこからうかがえる。人を見分けることができるし、眠っているときに体の色や構造を変化させることから、夢を見るとも考えられるそうだ。
この研究は、『Science Advances』(2022年11月25日付)に掲載された。
References:What octopus and human brains have in common / written by hiroching / edited by / parumo
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