有限責任事業組合(LLP)は法人格を持たない組合です。コストとリスクを抑えながら運営できるメリットがあります。まずはその特徴や注意点をみていきましょう。

有限責任事業組合とは

法人格のない有限責任事業組合は、共同事業の実施を想定し2005年に創設された組織形態です。株式会社との違いや、注意点を理解するために、まずは基本的な特徴を確認します。

営利目的で設立される法人格のない組合

有限責任事業組合は営利目的の組合です。しかし株式会社のように会社法で認められているわけではなく、有限責任事業組合法で認められています。そのため『法人格』はありません。『有限責任』『内部自治』『構成員課税』の三つが特徴といえます。組合員がそれぞれの能力・技術・ノウハウなどを発揮しながら、共同事業を実施するための組織です。

企業の連携などで活用される

企業や個人が共同事業を行うとき、リスクの少ない方法として選ばれるのも有限責任事業組合の特徴といえます。万が一事業がうまくいかなくても、組合員の負担は出資の範囲内のみです。

そのためスピーディーに事業を実施しやすいでしょう。海外でも導入され、共同事業が盛んに行われるようになったそうです。『企業同士の共同研究開発』『異業種の企業で実施する共同事業』『産学連携』などでの活用が期待されています。

民法上の任意組合や株式会社との違いは?

有限責任事業組合についてより詳しく特徴を把握するために、任意組合や株式会社と違う点を見ていきましょう。どのような特徴があるのでしょうか?

出資額までの有限責任

任意組合は『無限責任』のため、組合の負債の全てに責任を負わなければいけないのに対し、有限責任事業組合は『有限責任』です。そのため事業が立ち行かなくなったとしても、責任を負うのは出資額の範囲にとどまります。

無限責任のように、全ての負債を返済するよう求められることはありません。組合員が出資した金額を諦めれば済むため、うまくいかなかったときのリスクが小さい方法です。

構成員課税

『構成員課税(パス・スルー課税)』という特殊な課税方式を採用しているのも、有限責任事業組合ならではといえます。株式会社では利益が出ると、まずは会社に課税されます。

一方、有限責任事業組合は、利益が出ていても組合には課税されません。利益をまず組合の構成員である出資者に分配し、出資者へじかに課税します。そのため通常実施する確定申告とは、手続きが異なる点に要注意です。

出資比率によらず利益を自由に分配可能

株式会社であれば、利益の分配は通常出資金の割合に応じて行われます。有限責任事業組合では、利益の分配を行うときに自由な分配が可能です。ただし自由に分配するには、下記3点を満たしていなければいけません。

●全員が同意している

●分配の割合を書面にしている

●書面に決定した割合にした理由を記載する

組合員の中には、出資金は少ないけれど、技術力で事業に大きく貢献した人もいるでしょう。全員の同意さえあれば、技術力を考慮した利益の分配が可能です。もちろん出資比率に応じた分け方もできます。

意思決定がスムーズ

取締役会や社員総会といった機関は、有限責任事業組合には必要ありません。組合員全員の合意で、業務に関するあらゆる意思決定が可能です。そのためスピーディーかつスムーズに、重要事項を決められます。

また全員一致による意思決定は原則で、それ以外の方法でも決定可能です。ただし以下のケースでは、全員一致か組合員の2/3以上の同意で決めなければいけません。

●重要な財産の処分や譲り受け

●多額の借入金

設立前に知っておきたい注意点

任意組合や株式会社と異なる特徴を持つ有限責任事業組合を設立するときには、将来の展開も考えた上で決めましょう。単にコストとリスクが低いという点だけでなく、注意点も考慮した上での検討が必要です。

株式会社への組織変更はできない

有限責任事業組合に法人格はありません。そのため設立後に法人格の必要な株式会社への移行はできない決まりです。

どうしても途中で株式会社に変更しなければいけないときは、一度組合を解散し、株式会社を設立し直さなければいけません。手続きに手間がかかるため、スタート時から先々を考え組織作りをするとよいでしょう。

契約は組合員の肩書付き名義で行う

組合が契約する際は、『組合員の肩書』を付けた名義を記載します。有限責任事業組合も民法組合の一つです。そのため『有限責任事業組合 代表者OO』で契約します。たとえば金融機関の口座を開設するときも、組合員の肩書付きの名義でなければいけません。また不動産の購入時には、組合員全員の名義で登記が必要です。

リスクを抑えて新たな事業を展開しよう

新たな事業を始めるとき、リスクとコストを低く抑えるには有限責任事業組合が向いています。万が一事業がうまくいかなくても有限責任のため、組合員は出資した金額の範囲内でしか責任を問われません。

また利益が出ても法人税は課されず、組合員に直接課税されるパス・スルー課税のため、税金の負担を抑えやすいでしょう。特に他社と共同で実施する事業であれば、有限責任事業組合を利用するのがおすすめです。

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