幼いころ、電車のおもちゃで遊んだ経験はあるだろうか。
 私はときどき電車のおもちゃを買ってもらうことがあった。リアルな模型からデフォルメされたものまで様々だが、幼い自分にとっては見た目の忠実さに関わらず、それはおもちゃではなく本物の車両“そのもの”。線路をつなげて遊んだ時、私は確かに鉄道の車掌であり、鉄道経営者でもあった

 つい最近、そんな童心を少し思い出させてくれるゲームと出会う。RAILGRADE』というシミュレーションゲームだ。日本に拠点を置くインディスタジオ「Minakata Dynamics」によって生み出されたこのゲームは、90年代にPCで流行した経営シミュレーションを土台としながら、ミニチュア電車へのささやかな憧憬を思い起こさせる作品だった。本稿ではそんな『RAILGRADE』の魅力をお伝えしよう。

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(画像はRAILGRADE ダウンロード版 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)より)

文/植田亮平

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工業を発展させる王道経営シム

 冒頭で述べたように、本作のジャンルは経営シミュレーションである。つまり、このゲームは電車でGOシリーズのような「鉄道を走らせること」に主眼を置いたゲームではなく、電車を走らせることによって工場や街を発展させるというゲームプレイが主となっている。

 本作の舞台は地球から離れた遠い惑星だ。プレイヤーはこの惑星で工業生産を担う企業「ナカタニ化学」の一員「ヨシダ」となり、インフラの崩壊によってすっかりダメになってしまった工業の復興を担っていくこととなる。経営シミュレーションゲームにしては珍しくかなりナラティブの部分に力を入れており、ナカタニ化学の上司である「サイトー」とのユーモアあふれるやりとりはささやかながらゲームプレイに彩を与えてくれている。

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 実際のゲーム画面はこのような感じ。本作は自由な経営を行うタイプのシミュレーションというよりも、ゴールとなる目標を達成していくことで一つずつステージをクリアしていくステージクリア型のシミュレーションだ。ステージを進めていくごとにチュートリアルやゲームプレイ上の要素が追加されていくので、事前知識はほとんど必要ないだろう。箱庭型のコロニーが1ステージとなっており、ステージごとに決められた目標をいかに早くこなすかのタイムでスコアが変動する。

 目標は様々で、「街の人口を増やす」「鉄鋼を輸出する「少ない資源から電力を生み出す」など多種多様だ。

 より詳細なゲームプレイを紹介しよう。
 下の画面の目標は、産業施設である画面中央の製鉄所に原料である鉄と石炭を届けることだ。

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 画面右側の施設が鉄鉱山、画面左側が炭鉱となっており、施設のレベルに応じて一定間隔で資源を生産してくれる。このステージでは以上の2つの施設と製鉄所の間に適切なインフラを敷かなければならない。

 さて、ゲーム中でプレイヤーが取れる行動は非常に多い。画面左下のUIにはその一覧が表示されている。「線路の敷設」「駅の建設」「列車の製造」「製造物の撤去」などだ。線路は列車の通り道となる、このゲームの最も基本的な要素だ。その次は駅だ、駅は各施設の周辺に線路に沿うように建設でき、駅に列車が止まった際最寄りの施設へ積んでいる貨物を運び込む役割を持っている。線路だけ敷いても、駅がなければ何の意味もないということだ。

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 列車の編成はプレイヤーが好きに決めることができる。より高いスコアでのクリアを目指すなら、貨物と機関車の比率や機関車のパワー、あるいは予算などを考えながら、より効率的な編成を組んでいく必要がある。

 また、一度製造した線路や駅、電車などは撤去することもできる。撤去した場合プレイヤーが使える費用が一部払い戻されるので、どのようなお金の使い方をするかが重要となる。また、工業製品の生産や輸出などを行うと収入を得ることができ、列車や設備などが増えるとそれを維持するための運営費が継続的に引かれていく。

 さて、二つの資源生産施設と製鉄所の間のインフラを整えても、その施設で働く人間がいなければ施設は稼働しない

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 これが施設のメニューだ。製鉄所には労働者を最大8人まで割り当てることができ、割り当てられた人数によって施設の生産力は上がっていく。メニューUIには製品を製造するうえで必要な資源と、生産効率などを示した式が表示されている。また、施設は必要額を投資すればレベルアップさせることも可能なほか、一時的に生産力を向上させる促進剤を使用したり、電力や水などの生産を促進する資源が供給されれば生産力が増す仕組みになっている。

 このステージでは省かれているが、こうした施設で働かせる労働力はそのコロニーの街の人口に応じて増減する。より労働力を増やしたい場合は労働者の住む街から発展させねばならず、そのために必要となる資源や製品をまず街へ輸出しなければならない。

 また、プレイヤーはこうした施設を自分の手で建造することもできる。かなり大量の費用と建造に適した十分な立地を必要とする分何かと手間がかかるが、その恩恵はとてつもなく大きい。

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 ゲームでも現実でも、お金のやりくりというのはとても頭を悩ませてくるものだ。ゲームプレイ中、プレイヤーは常に上掲の画面左上に表示されている「資金」に注目していなければならない。銀行はそういった悩みを一時的に解消してくれる施設で、融資を受けて一時的に資金を増やしたり、逆に資金を預金してその利子を受け取ったりできる。賢い工業生産は賢い資金管理から常に生まれるというわけである。

 こうした雑多な要素を全て頭に叩き込み、効率を求めて整備と経営をやりくりしていくのは非常に気持ちがいい。こうした経営シムはエレクトロニック・アーツ『テーマパーク』Atariローラーコースタータイクーンなど偉大な先輩が存在するが、本作もそうした中毒性のある王道経営シムの流れを汲んでいる。

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 こうした経営シムの持つ問題として、「要素が多すぎて何をしていいか分からない」という問題が生じる場合があるが、『RAILGRADE』はステージクリア型のゲームであると同時に、クリアだけならそれほど難易度も高くなく、このジャンルの初心者でも容易に習得できる難しさになっている。もちろんジャンル経験者であればより効率を求めたゲームプレイやタイムアタック、サブクエストのコンプリートなどやり込める要素が用意されているので、初心者、経験者問わず手軽に遊べる塩梅となっているように感じた。

小さな列車を眺める快感

 実をいうと、『RAILGRADE』のゲームプレイは先ほど紹介した要素以外にも多くの要素が存在している。今回の記事では、全部の要素を一つ一つ細かく説明しているとキリがないので簡単な部分だけの紹介にとどめた。ここからは、ゲームの紹介以外の部分、つまりゲーム体験そのものの質感について思ったことをお伝えしようと思う。

 本作は頭を使いながら効率を突き詰めていく経営シムだが、実際のところプレイヤーはゲーム開始から終了まで常に作業に追われているわけではない。ステージ次第だが、効率の良いインフラを整備した後は、じっくりと資源や製品が運ばれるのを待つ時間が発生する。
 私は、この待機時間が、本作の最も個性的かつ最も魅力的なポイントなのではないかと思う。

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 すべての線路と施設を稼働させた後、電車が駅と駅を往来するのを眺める時間は、さながらジオラマセットを眺めているような気分である。ステージは小島のような小ささであり、Unreal Engineで描画される小さなオブジェクトの一つ一つがミニチュアのようで、心を癒してくれる。カメラの操作自由度がかなり高く設計されているのもそうした魅力を楽しむのに一役買っており、自身の設計した鉄道網が縦横無尽に島を交差するのは視覚的な達成感をプレイヤーに与えてくれるのだ。

 鉄道がコンセプトということもあり、鉄道好きにおススメであることは言わずもがなだが、ミニチュアジオラマ好きにもおススメしたい。その理由は、非常に凝ったフォトモード機能にある。

 本作はゲームプレイの最中いつでもフォトモードに切り替えることができる。フォトモードでは自由なカメラワークを用いて様々な角度から電車の動きを見ることができ、鑑賞する楽しみをプレイヤーに与えてくれる。

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 フォトモードではさらに様々な項目をいじることができる。例えば被写界深度の設定を変えれば、カメラのピントを電車や建造物、背景に合わせることができるし、カメラに特別なフィルターをかければ、自分だけの格別な雰囲気で列車の運行を見守ることができる。お気に入りのステージをフォトモードで遊べば、本作は単なる経営シム以上の体験を提供するゲームに生まれ変わることだろう。

 こうした設定を変更しながら高架線の下を眺めたり、資源を乗せた列車にカメラを近づけ追いかけたりしている瞬間、私は言いようのない懐かしさを感じたのだった。それは恐らく、小さい頃プラレールの線路を家の中に敷きながら、子供にとっては壮大な鉄道網を作り上げた頃の懐かしい情感であり、私のような経験を持っている人なら誰しもが持つ普遍的な感動であったに違いない。

 いずれにせよ、本作は本格的な経営シミュレーションゲームでありながら、電車というテーマの持つ魅力を最大限まで引き出している。さらに驚くべきは、両者を素晴らしい形で融合させていることだ。かつてPCで、右も左もわからぬまま初めて経営シミュレーションで遊んだ頃の記憶、あるいはもっと幼いころ、手のひらサイズの線路に大きな想像力を働かせていた頃の記憶・・・。そうした古き良き魅力を、大人になってしまったゲーマーに、そしてそうした魅力をまだ知らない今を生きる子供たちに届けたい。

 本作がNintendo Switchでリリースされていることにそういった意義すら感じるのは、果たして私だけだろうか。鉄道好き、経営シム好きには一押しの一作であると言っていいだろう。 

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