『彼らが本気で編むときは、』(17)、『川っぺりムコリッタ』(公開中)などの荻上直子監督最新作『波紋』が2023年初夏に公開決定。主演の筒井真理子を始め全キャストと特報映像が一挙解禁となった。

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監督、脚本を務めた荻上が「私の中にある意地悪で邪悪な部分を全部投入したような映画になりました」と語る本作。庭に作った枯山水の手入れを毎朝の習慣にする須藤依子。彼女は、“緑命会”という水を信仰する新興宗教に傾倒し、日々の祈りと勉強会に勤しみながら、一人穏やかに暮らしていた。そんなある日、長いこと失踪したままだった夫、修が突然帰ってくる。震災、老々介護、新興宗教、障害者差別…、世の中に起こっている得体の知れない闇は須藤家に縮図となって現れ、全てを押し殺した依子の感情が発露される時、絶望からエンタテインメントへと昇華していく。

主人公の依子を、多数の受賞歴を持ち、気品ある女性の役から悪女役までその圧倒的な存在と演技力で世界に強烈な印象を残し、国内外問わず注目されている筒井が演じる。また、失踪した依子の夫、修を演じるのは、冷徹なヤクザ役からよき父親役まで、多様なキャラクターを見事に演じる日本を代表する名俳優、光石研。そんな2人の息子、拓哉役には『ヤクザと家族 The Family』(21)、『劇場版 きのう何食べた?(21)で第45回日本アカデミー新人俳優賞を受賞するなど、演技力の高さから活躍の場を広げている磯村勇斗。

また依子を取り巻く人々として、“緑命会”という新興宗教の代表を努める橋本昌子役のキムラ緑子、信者である小笠原ひとみ役の江口のりこと、伊藤節子役の平岩紙が集結し、絶妙に笑いを呼ぶキャラクターを体現。依子のパート先のスーパーの迷惑な客、門倉太郎役を柄本明、依子と同じスーパーのパート先の清掃員、水木役を木野花、依子の隣人、渡辺美佐江役を安藤玉恵など、日本を代表する俳優陣が揃った。

このたび解禁したスチール写真は、美しく高貴な紫色のタイトルに反し、キャストの面々はモノトーンで映しだされる。まるで依子を中心にこれから起こるさまざまな絶望が波紋のように広がる様子を表現している。また特報映像では、依子が憎悪を剥きだしにした表情で夫、修に対する恨みを表すシーンから始まる。そして修の「俺、さっさと死ぬわ」という一言から一変し、声を上げて甲高く笑うシーンがとても印象的である映像となり、ラストの“絶望を、笑え”という言葉が衝撃を与える。

荻上がずっと温めてきたというオリジナル作品『波紋』。人生最高の脚本と自負する本作に日本を代表する俳優陣からなる物語に期待は高まるばかりだ。

■<キャスト&スタッフコメント>

■●筒井真理子(須藤依子役)

「最近は“壊れてゆく女性”の役が続いていたので、荻上監督の作風から想像するとご一緒させて頂ける機会はないかと思っていました。ですのでとても嬉しかったです。脚本を読んだ時、監督が醸しだす穏やかな空気の中に潜む日常の些細な棘、ビターな社会風刺が溶け合っていて目を見張りました。演出も人間の細部を見抜く力が的確で、身をゆだねることができ安心でした。いまは先の見えない不穏なものに覆われているような時代ですが、是非この映画を観て絶望に絡めとられず前を進む気持ちになっていただけたらと思います」

●光石研(修役)

「久しぶりに荻上組へ参加させて頂き、凄く嬉しかったです。監督は以前と変わらず、穏やかに粘り強く、俳優に寄り添い演出をしてくださり、安心して身を委ねる事が出来ました。脚本に関してはただ一言、『女性は怖し』。60年間、女性は聖母マリアだと信じて生きてきましたが、音を立てて崩れて落ちました」

●磯村勇斗(拓哉役)

「はじめに脚本を読んだ時、ひしひしと波紋のように迫り来る心理的恐怖を感じました。特に、筒井真理子さん演じる母、須藤依子を中心に、家族や取り巻く人物たちのやり取りは、怖いのだが、思わず笑ってしまうところが多く、荻上監督の描く世界は面白いなと、一気に引き込まれました。そして今作では、手話が必要な役でした。新たな言語に触れる機会を頂き、現場でも一つひとつ丁寧に確認しながら作り上げていきました。早くこの作品が皆様のところに届くのが楽しみです」

●荻上直子(監督)

「その日は、雨が降っていた。駅に向かう途中にある、とある新興宗教施設の前を通りかかったとき、ふと目にした光景。施設の前の傘立てには、数千本の傘が詰まっていた。傘の数と同じだけの人々が、この新興宗教を拠り所にしている。なにかを信じていないと生きていくのが不安な人々がこんなにもいるという現実に、私は立ちすくんだ。施設から出てきた小綺麗な格好の女性たちが気になった。この時の光景が、物語を創作するきっかけになる。

日本におけるジェンダーギャップ指数(146ヵ国中116位)が示しているように、我が国では男性中心の社会がいまだに続いている。多くの家庭では依然として夫は外に働きに出て、妻は家庭を守るという家父長制の伝統を引き継いでいる。主人公は義父の介護をしているが、彼女にとっては心から出たものではなく、世間体を気にしての義務であったと思う。日本ではいまなお女は良き妻、良き母でいればいい、という同調圧力は根強く顕在し、女たちを縛っている。はたして、女たちはこのまま黙っていればいいのだろうか?

突然訪れた夫の失踪。主人公は自分で問題を解決するのではなく、現実逃避の道を選ぶ。新興宗教へ救いを求め、のめり込む彼女の姿は、日本女性の生きづらさを象徴する。くしくも、本映画の製作中に起きた安倍元首相暗殺事件によりクローズアップされた『統一教会』の問題だが、教会にはまり大金を貢いでしまった犯人の母と主人公の姿は悲しく重なる。

荒れはてた心を鎮めるために、枯山水の庭園を整える毎日を送っていた彼女だが、ついにはそんな自分を嘲笑し、大切な庭を崩していく。自分が思い描く人生からかけ離れていく中、さまざまな体験を通して周りの人々と関わり、そして夫の死によって、抑圧してきた自分自身から解放される。

リセットされた彼女の人生は、自由へと目覚めていく。

私は、この国で女であるということが、息苦しくてたまらない。それでも、そんな現状をなんとかしようともがき、映画を作る。たくさんのブラックユーモアを込めて」

文/サンクレイオ翼

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