(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

JBpressですべての写真や図表を見る

 米国の中間選挙で共和党が予想ほどの票を得られなかったことから、同党の主役となってきたドナルド・トランプ大統領への批判が広まった。トランプ氏の次回の大統領選出馬宣言に待ったをかけるような動きは、共和党内にもうかがわれる。民主党側では大手メディアを中心に従来の「トランプ叩き」が勢いを増している。

 ところが現実には、トランプ氏は共和党の最有力者の地位からも2024年大統領選の争いからも簡単には消えず後退もしない、という見通しが、手厳しいトランプ批判を続けてきたリベラル派の論客から発表された。トランプ氏の求心力や支持層はまだまだ強いという、トランプ否定派への警告だともいえるだろう。

反トランプの論客が「トランプ氏の凋落はない」

 今回の中間選挙でトランプ氏が果たした役割は大きかった。共和党側の上下両院候補のなかの特定人物多数を予備選の段階から支援した。「推薦」は200人以上に達し、そのうちの9割ほどが本選で当選したとされる。

 だがペンシルベニア州ジョージア州という重要州の上院選で、トランプ氏が支援する候補が勝てなかった。そのため、トランプ氏の「失敗」や「敗北」という評価が拡大されて広まった。その結果、トランプ氏が2024年大統領選に向けて正式に出馬表明したにもかかわらず、同氏の人気の退潮や国政第一線からの撤退までが推測されるようになった。

 ところがトランプ非難の有力論客として知られる民主党リベラル派の著名な政治評論家、ファリード・ザカリア氏が、11月中旬のワシントンポストに「トランプは簡単には消えない」と題するコラム記事を発表した。ザカリア氏は、反トランプ陣営が期待しているようにはトランプ氏の凋落はないとして、同氏の強さを改めて強調していた。

 この寄稿記事は、副題で「共和党員たちはトランプ氏を追放せねばならない」と記されたように、基本は反トランプの檄だった。だが、その記事のなかで詳細に列記されたトランプ氏の政治的強固さは注視に値する。

容易ではないトランプ氏の排除

 ザカリア氏のこの記事で、まず、2024年大統領選での共和党側の指名候補選びの展望を以下のように記していた。

共和党はロン・デサンティス(フロリダ州知事)、マイク・ペンス(前副大統領)、マイク・ポンぺオ(前国務長官)、ニッキー・ヘイリー(元国連大使)、リズ・チェイニー(前下院議員)らが立つことが予想されるが、なおトランプ氏は予備選の早期に最多票を集めることが可能だ。トランプ氏はどの州の予備選でも50%以上の支持票は得ないが、先頭走者となり続ける。〉

 その状況は、2016年に同氏が各州で平均40%ほどの得票率で予備選に勝利したパターンと同じとなる。

〈今回の中間選挙でトランプ氏やトランプ支持層に不利に働いた点は、前回の大統領選の選挙結果を否定していたことと人工妊娠中絶反対だった。次回の大統領選でもこの争点がトランプ氏への不利な要素となるという見方もある。しかし、この2点のために共和党離れをしたのは、そもそも無党派層と共和党穏健派だった。この2つの層は次回の大統領選の共和党側予備選に加わる度合いは少ない。つまり、これらの争点はトランプ氏の予備選での勝利の阻害要因とはならない。〉

トランプ氏への最有力対抗候補と目されるデサンティス氏も、次回の予備選ではトランプ氏との1対1の対決ではなく他の複数候補との競合となる。その結果、トランプ氏に勝つ公算が低くなる。ニューヨークタイムズなどの最新の世論調査では、共和党予備選での推定投票者のほぼ50%トランプ支持、25%ほどがデサンティス氏、6%がペンス氏支持
だった。予備選でデサンティス氏は反トランプの立場の他の複数の候補たちとも競うため、トランプ氏打破はますます難しくなる。〉

 ザカリア氏は以上の見解を表明して、共和党にとっても一般有権者にとっても、次回の大統領選への過程でトランプ氏を排除することは容易ではないという点を強調した。

「静観していてはトランプ氏を退場させられない」

 そしてザカリア氏は、共和党指導部への訴えを以下のように述べていた。

〈もしトランプ氏が人気を高め、次回大統領選への勢いを強めるとなると、勝馬に乗る現象も起きるだろう。現にかつて大統領選候補の1人だったテッドクルーズ上院議員は最近、「トランプ氏がまた共和党の指名候補となった場合、私は彼を熱心に支援する」と言明した。こうした可能性をなくすためには、共和党の指導層が考えを改めることが不可欠だ。〉

〈今の共和党指導層は、やがて一般の共和党支持者たちはトランプ氏への支持を減らし、脱トランプへと向かうだろうと期待して、事態を静観している。だが静観しているままではトランプ氏を退場させることはできない。共和党指導層が自ら積極果敢にトランプ氏を批判し、その支持基盤を削っていくような行動を起こさねばならない。〉

 ザカリア氏は共和党上層部に向かってこんなアピールを強調する。そのうえで同氏は、トランプ氏が米国の民主主義にとって危険な存在であるという民主党リベラル派の主張を繰り返し、米国の民主主義西ヨーロッパに比べていまだに成熟していないとも論評していた。

 だが、この記事でとくに興味深いのは、トランプ氏を正面の政敵だとみなす側の論客であるザカリア氏が、トランプ氏の政治生命の強さ、そしてトランプ支持層の堅固さを認めているという点である。否定しようのない米国政治の現実だともいえよう。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  塹壕で恐怖に怯えるロシア兵、ウクライナの斬進反復攻撃奏功

[関連記事]

米NWの衝撃報道、ロシアの「日本侵攻計画」は本当に存在したのか?

民主党善戦と報じられる米中間選挙、現実は下院掌握の共和党が「勝利」

「共和党ユダヤ人連合」総会でビデオ演説するドナルド・トランプ氏(2022年11月19日、写真:AP/アフロ)