長らく低金利環境が続く日本では、資産形成のために「外貨建て保険」を利用している人が少なくありません。しかし、その仕組みをよく知らずに加入し、トラブルに発展するケースが後を絶たないと、FP Officeの橋本徹氏はいいます。「注意すべきキーワード」を鵜呑みにしてしまった3人の事例をもとに、保険加入時の注意点についてみていきます。

金利低迷を背景に…加入者が増えている「外貨建て保険」

日本では銀行金利の低下を受け、生命保険を使って資産形成を行っている人は多い。特に「外貨建て保険」は銀行預金に比べ利回りが有利な場合が多く、貯蓄・資産形成目的で加入するケースも多くみられる。

しかしその一方で、加入者の増加に伴い、外貨建て保険に関する苦情・相談件数が増えてきている。いったいなにが起きているのだろうか。

注意したい「3つのキーワード

「外貨建て保険」とは、外貨で保険料を支払い、満期金や保険金も外貨ベースで確約されている保険のことだ。為替相場の変動により損益が発生する仕組みになっている。

独立行政法人国民生活センターによると、2018年度の苦情・相談件数は「538件」と、2014年度に比べ3倍以上となっている。相談者の年齢をみると、その半数以上を70歳以上が占めていることがわかる。

そして、その相談内容の多くは、為替変動リスクや手数料の負担を理解しないまま加入したことに起因しているようだ。

私がしっかり管理するので、内容は気にせず任せてくれれば大丈夫です

設計上は支払い期間を長くしてありますが、3年で支払いを止めるので大丈夫です

定期預金みたいなものなので大丈夫です

--

外貨建て保険に加入済みの方で、上記のような言葉を聞いたことがあるなら注意が必要だ。

もちろん保険期間中に支払いを止めた方が有利な場合や、外貨ベースでみれば定期預金に近い商品もあるだろう。しかし大切なことは、その仕組みを加入者がしっかりと理解しているかという点だ。

ここからは上記3つのキーワードを鵜吞みにした3人の事例をもとに、注意すべきポイントをみていこう。

1.「気にせず任せてくれれば大丈夫ですから」

友人から保険営業マンを紹介されたAさん。特に保険に加入するつもりはなかったが、資産形成はしたいと思っていたので会うことにした。説明を聞いてみると、「外貨建て保険で保障と貯蓄を兼ねよう」という内容だった。

任せてくれれば大丈夫です。安心してください」と言われ、友人も同じ営業マンの勧めで加入していたこともあり加入することに。

そして数年経ったころ、営業マンから新商品が発売されたので案内したいと連絡が入った。

会ってみると、「以前加入したものより新商品のほうが有利」とのこと。魅力的な内容だと感じたが、新しい保険に加入する資金がないことを伝えると、「前の契約を解約してから新しい商品に加入すればいい」と提案された。

不安はあったものの、前回同様「任せてくれれば大丈夫ですから」の言葉を信じ、営業マンの提案通りに解約。その後新商品に加入した。

加入後にふと不安になり調べてみると、解約した商品で大きく損をしてしまっていたことが発覚。保険商品は解約に伴うデメリットがあり、営業マン側に当然説明する義務がある。

今回のケースでは営業マンがAさんに適切な説明を行ったとはいえず、営業マン側に責任があるといえる。

一方で「任せてくれれば大丈夫」を信用しすぎず、自身で加入前に商品内容やメリット・デメリットを理解しておくことは必要である。

2.「設計上は支払期間を長くしてありますが3年で止められます」

まとまった手元資金1,000万円の運用を考えるBさん。株式投資や投資信託を始めることも考えたが、知識がなく信頼できる相談先もなかったため、担当の保険営業マンに連絡した。

営業マンから提案された保険は、「333万円(年払い)を10年間支払う」というプラン。保険設計書を確認すると、支払い総額は「3,333万円」となっている。

Bさんは不思議に思い、「そんな資金はない。運用したいのは1,000万円だ」と伝えた。

すると保険営業マンは「支払いは3年で止められるので大丈夫。1,000万円以上払うことはない。3年で支払いを止めても将来的に利益が確保できる仕組みなので安心してほしい」と説明。

仕組みはいまいち理解できなかったが、その営業マンとのこれまでの信頼関係もあり加入手続きを行った。

3年後、Bさんは営業マンの言う通り支払いを止め、資金を引き出そうと思い営業マンに連絡。すると、その時点では解約金が支払額を大きく下回っており、おおよそ7年は経たないと利益が出てこないということがわかった。

さらに、「支払期間中の為替変動があり、支払った保険料は1,000万円を超えている。利益も為替レートによって左右されるため、円に換算していつプラスになるのかは明確に回答できない」と営業マンから説明を受けた。

Bさんは、「加入時にこの説明を受けていたら加入していなかった」と嘆く。

「平準払保険」と「一時払保険」

Bさんの加入した保険は「平準払」と呼ばれるものであり、「加入から何年間または何歳まで保険料を支払う」という加入方法である。平準払保険の場合、加入後10年程度は解約金が支払保険料を下回る商品が多い

※ 下回る期間は、商品や加入条件によって大きく異なるため注意が必要。

保険には「一時払」という加入方法もあり、Bさんの意向・目的により近かったのは一時払商品だったと推察する。

営業マンの勧める保険が自身の目的と合致しているか、特に運用目的の場合は解約するタイミングによっては大きく損をする可能性があるということもしっかりと加入前に確認することが大切である。

3.「定期預金みたいなものなので大丈夫です」

65歳を迎え、退職金を受け取ったCさん。すぐに使うあてもなく、運用にも興味があったため預けていた銀行に相談に出向いた。すると担当者からは、「一時払保険の利回りがいいですよ」と提案を受けた。

提案された商品は「外貨建て保険」。仕組みも完璧には理解できず、為替リスクなどの不安もあったことから加入を見送ると伝えると、担当者から「これは定期預金みたいなもので毎年利息も受け取れます。利息でお孫さんにプレゼントを贈ってあげる方もたくさんいらっしゃいますよ」と押され、Cさんは加入を決断した。

1年が経ったころ、急に自宅のリフォーム資金が必要になったCさんは、保険を解約したいと申し出た。しかし、解約金を試算してもらうと、預けた額より大幅に減っている。

担当者からは「加入してから一定期間は支払額を下回っている。さらに為替も加入時より円高になっており、解約金が減少してしまった」と説明された。

Cさんは「定期預金のようなものだと言っていた。定期預金が元本割れするなんて聞いていない」と訴えたが、「加入時にリスクなどはしっかりとご説明しています。重要事項にも同意の署名を頂いております」と突き返された。

Cさんは解約金が減ってしまったことを受け入れることができず、憤っている。結果的に、リフォーム資金は借り入れることになってしまった。

外貨建て保険に必ず存在する「リスク」 

生命保険の性質上、払い込んでまもないころは解約金が少ない場合がほとんどであり、退職金であれ余剰資金であれ、すべてを保険に入れてしまうと資金の流動性は失われてしまう。

また外貨建て保険であれば、必ず為替リスクが存在する。長期間保有していても外貨ベースで満期金や保険金が決まっているため、為替の影響により円で受け取る場合は支払った額より少なくなってしまう場合があることは理解しておく必要がある。

特に最近の円安で保険料が高くなっている場合は注意が必要だ。たとえば米ドル建て保険の場合、決まった米ドルで保険料を納めるため、円換算保険料は円安になればなるほど高くなる(毎月$100の保険料であれば、1ドル=100円の時は10,000円、1ドル=150円のときは15,000円となる)。

こうした場合、加入時より支払い保険料が高くなり、支払い自体が困難になってしまうケースも少なくない。なんとか払い続けたとしても、満期金や保険金を受け取る際に円高になっていたらと思うと……。

当然、外貨建て保険にも多くのメリットがあり、一概に「悪い商品」と判断するのは乱暴だ。メリット・デメリット、仕組みや解約金の推移など適切な説明を受け、自らもしっかり理解したうえで販売されるようになれば、苦情・相談件数も減少していくのではないだろうか。

橋本 徹

FP Office

ファイナンシャルプランナー  

(※写真はイメージです/PIXTA)