日本の鉄道オワコンとなろうとしている。世界一の鉄道技術を誇り、かつて鉄道大国と言われたニッポン。しかし人口減少や過疎化にともない、地方ローカル線の利用者は減少の一途をたどる。今年に入り、JR各社は相次ぎ赤字路線を公表し、悲鳴が聞こえてくる。


画像をもっと見る

■100円稼ぐのに経費2万円以上

今年7月、ローカル鉄道のあり方を議論する国土交通省の有識者会議が、赤字路線の存廃についての提言を示した。1kmあたりの1日の平均利用者が平時に1,000人を下回る路線について、国と自治体、事業者が改善策を協議する仕組みを設けることになった。

利用者の少ない路線は廃線とし、バスや、専用道を使うバス高速輸送システム(BRT)への転換などを検討する。存続させる場合は、観光列車の活用などで乗客を呼び込む策や、線路や駅を自治体が管理、事業者は輸送サービスに従事する「上下分離」について議論する。遅くとも3年以内に結論を出すことが想定されている。



たとえば先月24日、JR東が発表した最新の収支データ(2021年版)によると、1日の平均乗客数が2,000人未満の35路線66線区はすべて赤字だ。赤字額が最も大きかったのは、羽越本線(村上−鶴岡間)で49億9,800万円。収入が最も少なかったのは、久留里線(久留里-上総亀山間)で100万円だった。


また、陸羽東線(鳴子温泉−最上間)は、100円を稼ぐのに経費が2万31円がかかるという絶望的な現状である。(ちなみに陸羽東線は風光明媚でとても素敵なローカル線であり、筆者のお気に入りである。)

なおJR西日本も先月30日に収支(2019年~2021年度平均)を発表。該当する17路線30区間はすべて赤字だった。なかでも芸備線(東城−備後落合間)は、100円稼ぐのに経費が2万3,687円かかることが分かった。

我々は、これをどう捉えればいいのだろうか。


関連記事:神田愛花、田中要次の『バス旅Z』への本音に反応 「それありましたよね」

■7割「ローカル線を残してほしい」の衝撃

赤字だからといって、「じゃあ廃線で。ほなサイナラ」と簡単に切り捨てるわけにはいかない。今年150周年を迎えた鉄道は、これまで地域の足として人々の生活を支えてきた。

JRから名指しされたローカル線を有する各自治体では、会合が開かれるようになった。沿線の魅力をアピールして人に来てもらおうと、さまざまな取り組みを始めるところもある。JR姫新線を利用する高校生は、岡山・真庭市長に存続を求める1,200人分の署名を渡し、ニュースになった。

こうした赤字のローカル線について、全国の人はどう考えているのか。全国の男女600人に対して調査を行った。


「赤字のローカル線は廃止すべきだと思いますか?」という質問に対し、「廃止すべき」が27.0%、「存続すべき」が73.0%。圧倒的に存続を求める声が多かった。

年代別に見てみると、「存続すべき」と最も多く回答したのは30代で78.1%。一方で「廃止すべき」と最も多くしたのは60代以上で40.0%だった。年代ごとに上下はあれど、過半数が「ローカル線を残してほしい」と答えている。


■本音「乗らないけど、残してほしい」

赤字路線について、みんなどんな考えを持っているのか筆者の周りに取材を行った。30代女性は「地元の広島の路線が赤字らしい。高校のときに毎日乗った思い出がある。なくなってしまうは、悲しい」と話した。

また「ローカル線は、古き良き日本の風景という感じですからね。無くなってほしくないですね」という40代男性も。実際に「乗ることはあるか」と聞けば、「ないですね……」と回答し、気まずそうな表情を浮かべた。

鉄道ファンの40代男性は「皮肉なことに、普段は利用しないけど、廃線が決まった瞬間に、鉄道ファンどっと押し寄せるのはあるあるです。『こんな良い路線を廃止にするなんて!』と口を揃えて言うんですが、まぁ普段から利用していれば赤字になることもないわけで。難しいっすよね」と複雑な表情。

さらに50代男性は「鉄道は国防においても重要な位置付けだ」と指摘。「現に、ウクライナの戦争でも鉄道は活躍していると聞く。仮に北海道ロシアが攻めてきたとき、線路が使えなかったら、武器や弾薬が運べなくなるかもしれない。それでもいいんですか?」と、興奮ぎみに答えていた。

■赤字部門を切り捨てないと…

一方で、経済的視点でこの問題を考える人は、冷ややかな表情を浮かべる。

「​​JRは今や国鉄ではなく民間企業です。赤字部門があるなら、それを切り捨てる選択はビジネスとして当然でしょう。そもそも乗る人が少ないんだから、なくなっても誰も気にしませんよ」と語るのは40代男性。「税金を投入すればいいという声もあるけど、誰も利用しない電車のために、我々の税金が投入されるのもおかしな話です」と冷静に話す。

地方在住の30代女性は「ローカル線の存続を訴える会合に、参加者はみんな車で来てる、という笑い話を聞いたことがあります。地方は車社会が当たり前ですからね……。私も高校を卒業して以来、ほぼ乗る機会がありません。儲からないなら、廃線でもしょうがないのかなと」と淡々と語った。

人口減少が進み、利用客が減れば、鉄道がビジネスとして成り立たなくなるのは当然だ。「鉄道ってなんか良いよね」「なくなっちゃうのは寂しい」という気持ちがあるのはやまやまだが、そうした感情だけでは成り立たなくなっている。

ローカル線に乗る人は少なく、赤字路線が増えている」まずはこの現実を受け入れることが大切なのかもしれない。


■執筆者プロフィール

東香名子

Sirabeeでは、鉄道トレンド総研所長の東香名子あずまかなこ)さんの連載コラム【鉄道トレンド調査隊】を公開しています。毎回、鉄道に関する調査を行い、解説する連載です。今週は「赤字のローカル線は廃止するべきか」に関する調査を掲載しました。

・合わせて読みたい→『日本の乗れない鉄道に乗ってみた!』2時間SP 市川右團次らがナビゲート

(取材・文/東香名子

【調査概要】 方法:インターネットリサーチ 【調査概要】
方法:インターネットリサーチ
調査期間:2022年10月25日~2022年10月26日
対象:全国10代~60代男女600名(有効回答数)

赤字まみれのローカル線 それでも7割が「残すべき」と叫ぶワケとは…