(北村 淳:軍事社会学者)

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 中国は「パルスライン」と呼ばれている生産ラインをフル稼働させてJ-20マイティドラゴンステルス戦闘機を猛スピードで生み出しているようだ。

 パルスラインは、航空機の生産をスピードアップさせるための製造ライン方式であり、アメリカボーイングロッキード・マーティンなどが戦闘機や軍用輸送機の製造に採用している。エアバスもこの方式によって大型旅客機製造の効率化を図っている。

 J-20戦闘機アメリカF-22戦闘機ならびにF-35戦闘機に対抗するために中国が開発した第5世代ステルス戦闘機である。アメリカ軍(空軍、海軍、海兵隊)が、F-35戦闘機の調達を開始し、日本を中心として極東に展開する米海軍海兵隊、それにやがては米空軍にもF-35が展開することになるのを睨んで中国はJ-20の開発生産を急いだ。

 アメリカだけではなく日本や韓国もF-35の調達を始めたため、J-20の生産スピードは加速され、2022年春時点で中国空軍は少なくとも208機のJ-20を手にしたと推定されている。

 ただしF-35にはトラブルが続出しているため、アメリカ軍F-35調達は予定通りに進んでいない。ちなみにアメリカ空軍は1763機、アメリカ海兵隊は420機、アメリカ海軍273機の合計2456機を調達する計画であり、これまでのところ空軍には302機、海兵隊には114機、海軍には26機が引き渡されている。

 本コラム(「米軍嘉手納基地にとりあえずF-22配備、露呈するその場しのぎの対中戦略2022年11月10日)で指摘したように、沖縄の嘉手納基地から老朽化しつつあるF-15戦闘機を引き上げる穴埋めとしてF-35を配備するのが順当なはずであった。ところが米空軍としてはいまだにF-35を沖縄に配備するだけの余裕がない。そこで、性能的にはF-35よりも高性能ではあるもののすでに機体は若干古くなりつつあるF-221995年から2011年の間に製造された)を交代で展開させることとし、先日第一陣がアラスカから嘉手納に到着した。

 また、グアムの米空軍基地にもハワイ州軍のF-22を交代で前方展開させるともいわれている。

 このように米空軍は西太平洋方面へのF-22戦力移転を画策している。中国はその動きに対応して、ますますJ-20の生産を強化しているものと考えられている。

戦闘機戦力の老朽化に直面している米空軍

 もっとも、アメリカ空軍が嘉手納から撤収させるF-15戦闘機のみならず、いまだに新鋭F-35と置き換えられることなく使用されているF-16戦闘機も、老朽化とまではみなせずともすでに相当使い込んだ機体となってしまっている。

 航空機とりわけ超高速で様々に起動しながら飛翔する戦闘機の製造年・使用年数は、軍艦や軍用車両とは比べ物にならないほど重要な問題である。なぜならば、高度なメンテナンスや部品の交換などを頻繁に実施しても、長年にわたる運用過程で機体は摩耗し、戦闘機動能力が低下することは避けられないし、安全性も大幅に低下せざるを得ないからだ。

 たとえば、1970年代に開発され当時は世界最強の戦闘機といわれたF-15戦闘機は、設計当初は飛行時間4000時間あるいは年間270時間運用で15年間使用との計画だったという。しかしながら高性能かつ高価格であったため、米空軍当局は運用期限をまず6000飛行時間に延長し、引き続き8000時間に延長した。そして、すでに就役してから35~40年近くも経過している現在は1万5000時間も使用されている状態だ。

 このように設計当初の想定を超えて使用されているF-15戦闘機F-16戦闘機に関して、米空軍当局は、安全性確保の観点から、最高速度をマッハ2.5(F-15)・マッハ2.0(F-16)からマッハ1.6に制限せざるを得ない状況になってしまっている。

 このようにアメリカ空軍は、予定していたF-35の調達配備が大幅に遅れてしまっているため、戦闘機戦力の老朽化に直面してしまっているのである。

 こうした事情は海軍航空戦力や海兵隊航空戦力にとっても似通っている。

 かつては(といっても5~6年ほど前までは)、アメリカ軍の航空戦力(空軍・海軍・海兵隊)は圧倒的に世界最強であり、「極東戦域に限定してとはいえ、まさか中国軍に航空優勢を脅かされかねない現実的危惧に直面することなど、誰一人として考えだにしなかった」ものであった。アメリカ軍の航空戦力は、やはりかつては圧倒的に世界最強を標榜していたアメリカ海軍があれよあれよという間に中国海軍を脅威に感ぜざるを得なくなってしまった状況と似通っている、というよりは、さらに悪い状態となってしまった。

中国軍を見くびってはならない

 20世紀冒頭に「“東洋の猿”が軍艦を手にしても何ができる」と日本海軍を見くびっていたロシア海軍は、対馬沖海戦(日本海海戦1905年5月27~28日)で海戦史上最悪の完全なる敗北を喫してしまった。

 それから35年後の1941年12月7日ハワイ時間)、同じく日本の空母航空戦力を見くびっていたアメリカ太平洋艦隊は真珠湾で大損害を被ってしまった。

 同日、日本の戦闘機など玩具のように馬鹿にしていたマッカーサーが支配していたフィリピン駐屯アメリカ軍は、日本航空部隊の一撃によって航空戦力が壊滅し、引き続いてアメリカ軍はじまって以来の惨めな逃亡劇を強いられた。

 それから2日後(12月10日)、世界最強を自負しており弟子筋に当たる日本海軍など歯牙にもかけていなかったイギリス海軍は、東洋支配のシンボルであった戦艦プリンス・オブ・ウェールズ巡洋艦レパルス日本海軍航空隊の攻撃によって葬り去られてしまった。

 すでに10年ほど以前からアメリカ海軍情報局などの対中分析専門家たちは「中国軍を見くびるな」と警告しており、本コラムでもしばしば取り上げてきた。しかしながらワシントンDC政治家や政府・軍首脳陣の多くには、いまだに「西洋優位思想」がはびこっているようで、最前線の専門家からの「中国軍を見くびるな」は等閑視されてしまった。その結果が、米海軍首脳や米空軍首脳が慌てふためいているという現状である。

 日本には自らを手前勝手に「西洋の一員」とみなすという、要するに西洋崇拝主義の裏返し的思考が根強く存在している。その結果、アメリカという大樹の陰に身を寄せて中国軍事力構築努力を見くびってきた傾向が極めて強い。

 日本自身の軍事力は、航空戦力も海軍力もアメリカ軍とは比べることすらできないほど小規模だ。そのアメリカ軍が本気で中国航空戦力や海軍戦力に脅威を感じ始めているのである。日本としては、いつまでもアメリカにすがりついている時代ではないことを再認識しなければならない。

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