2022年11月29日、政府・与党が、富裕層の相続税対策として活用されてきた「タワマン節税」について、タワマンの相続税評価額を引き上げる等の方向で検討を始めたことが明らかになりました。与党の2023年度税制改正大綱に盛り込まれる見込みです。本記事では、タワマン節税のしくみと、何が問題とされているのか、想定される見直しの方向性、および懸念される点について解説します。

「タワマン節税」が節税になるしくみ

タワマン節税とは、相続税固定資産税の軽減を目的として、タワーマンションの「高層階」を購入することをいいます。これにより、現預金等の財産として保有するよりも、相続税評価額を大幅に抑えることができます。

相続税評価額等が抑えられる理由は、タワマンは「土地」と「建物」のそれぞれについて、不動産のなかでも評価額がとりわけ低く抑えられるからです。

◆不動産は一般的に相続税評価額が低い

すなわち、まず、不動産(土地、建物)はただでさえ法令上、評価額が低く抑えられるしくみになっています。

なぜなら、不動産は、通常、居住の場、事業を行う場等として利用されるものであるため、税負担を重くすべきではないと考えられているからです。

他の財産と同じように相続税を課税してしまうと、相続人に過大な負担を課することになります。それを防ぐためです。

タワマン節税の問題点を考えるうえで、この趣旨がきわめて重要です。

不動産の相続税評価額は以下の通りです。

・土地:路線価

・建物:固定資産税評価額

「路線価」は市場価格の80%程度、「固定資産税評価額」は市場価格の70%程度です。

マンションは、住戸ごとに「建物」と「敷地(底地)」に分解され、それぞれについて評価額が計算されます。

また、底地については、「小規模宅地等の特例」の要件をみたすと、そこからさらに50%または80%差し引かれます。

以上に加え、タワマンには以下の特徴があります。

・タワマンは底地の持ち分が狭い

・高層階ほど「相続税評価額」が割安になる

それぞれについて説明します。

◆タワマンは底地の持ち分が狭い

まず、タワマンは通常の不動産(土地建物)と比べて底地の持ち分がきわめて狭くなります。

どういうことかというと、マンションの底地の相続税評価額は、各住戸の床面に応じて均等に割り振られます。したがって、住戸が多ければ多いほど、あてがわれる底地は細分化され、住戸ごとの底地の面積が狭くなります。

タワマンの場合、マンションのなかでも特に住戸の数が多いので、さらに住戸ごとの底地の面積が狭くなります。したがって、土地の相続税評価額は著しく低く抑えられます。

しかも、上述の「小規模宅地等の特例」を用いれば、そこからさらに50%または80%が差し引かれることになるのです。

◆高層階ほど「相続税評価額」が割安になる

次に、建物の部分については、高層階ほど「市場価格」と「相続税評価額」の乖離が大きくなり、相続税評価額が割安になります。

すなわち、タワマンは高層階ほど人気があるため、市場価格が高く設定されています。

ところが、建物の相続税評価額は、住戸ごとの床面積に応じて均等に割り振られることになっています。したがって、高層階の住戸を購入した場合、市場価格がきわめて高いにもかかわらず、相続税評価額は著しく低いということになります。

ただし、この点については2017年の税制改正で一定の是正措置がとられました。すなわち、2018年以降に建てられた20階建て以上のマンションの税法税金について「高層階の相続税評価額の引き上げ」と、「低層階の相続税評価額の引き下げ」による補正が行われました。

これにより、建物全体としての相続税評価額はそのままに、以下の式が成り立つよう、各住戸に評価額が割り当てられるようになったのです。

1階の評価額+0.25%×(階数-1)

たとえば、30階建てのタワマンであれば、1階と30階を比べると、30階のほうが1階より7.25%高くなるということです。

ただし、それでもなお、高層階のほうが有利であることに変わりはありません。低層階と高層階の差はこれよりもはるかに大きいからです。

タワマン節税の何が問題視されているのか?

タワマン節税が問題視されているのは、主に以下の2点です。

1. 税負担に不公平がある

2. 富裕層が相続税対策のためだけに利用するケースがある

◆問題点1. 税負担に不公平がある

まず、上述したように、タワマンは建物の評価額が高層階のほうが低層階より相対的に著しく低くなっています。

すなわち、高層階は低層階よりも市場価格が著しく高いにもかかわらず、評価額はそれほど高く算出されません。

これでは、同じタワマンの低層階の住戸はもちろん、他のマンション、一戸建て等の不動産と比べても著しく不公平ではないかということで、問題視されているのです。

◆問題点2. 富裕層が相続税対策のためだけに利用するケースがある

次に、富裕層がもっぱら相続税対策のためだけに利用されている実態があるという指摘がなされています。

この点については、2022年4月に最高裁第三小法廷の判決(最判令和4年4月19日 相続税更正処分等取消請求事件)が下されています。

事案の概要は以下の通りです。

【事案の概要】

(1)被相続人(X)が亡くなる前に約10億円の借入をし、8億3.700万円のタワマンAと約5億5,000万円のタワマンBを購入した(総額13億8,700万円)

(2)相続開始から約9カ月後、相続人(Y)はタワマンAを5億1,500万円で売却した

(3)その後、相続人(Y)は相続税の納税申告において、税法上の評価方式を用い、タワマンAを約2億4万円、タワマンBを約1億3,366万円と評価したうえ(総額約3億3,370万円)、そこから被相続人(X)の借入金額約10億円を差し引き、相続税を0円として申告した

これに対し、国税庁は不動産鑑定による実勢価格で評価し直し、タワマンAを約7.5億円、タワマンBを約5.2億円と評価して税額を計算し、相続人(Y)に対し約3億円の追徴課税の更正処分を行いました。

相続人(Y)は、この処分を不服として訴訟を提起したのです。

この裁判は最高裁まで争われ、最高裁は、結論として、国税庁の処分を有効とし、相続人(Y)敗訴の判決を下しました。理由は、以下の事情から、「相続税の租税回避」の意図があからさまに認められたからというものです。

信託銀行が作成した稟議書に「相続税対策として不動産を購入するための資金」との記載があった

・被相続人(X)はタワマンA購入時すでに90歳と高齢であり、相続税対策以外に考えられない

・相続人(Y)が相続開始後、相続税の納税申告前に、マンションAを購入時の価格とそれほど変わらない額で売却した

すなわち、不動産の税法上の評価額が低いことをことさらに利用して、多額の借金をしてまで相続税対策を行ったことと、相続開始直後に物件が売却されたことをとらえ、もっぱら相続税逃れのために行われたと認定されたのです。

前述のように、不動産の相続税評価額が低く抑えられている理由は、不動産が通常、居住の場、事業を行う場等として利用されるものです。税負担を重くすべきでないと考えられているからです。

最高裁の判例は、もっぱら相続税対策のためだけに利用することは、上記趣旨を逸脱する行為であり、許容できないという考え方に立脚しています。

もちろん、上記趣旨は、相続税対策と必ずしも矛盾するものではありません。したがって、タワマン節税のすべてがNGとされたわけではありません。あくまでも、相続税を回避することだけを目的とした行為は、法の趣旨を没却するので、認められないということです。

考えられる見直しの方向性は?懸念される点は?

以上が、タワマン節税が問題視されている点です。ただし、「問題点2. 富裕層が相続税対策のためだけに利用するケースがある」ということについては、今後もケースバイケースで判断されることにならざるをえないと考えられます。

なぜなら、上述のように、不動産の相続税評価額を軽減する法の趣旨と相続税対策とは必ずしも矛盾するものではないからです。

すなわち、相続人の負担が過大にならないために法制度を利用して「相続税対策」を行うことは、法の趣旨に合致したごく正当な行為です。したがって、その域を逸脱してしまったものについてだけ、個別具体的に否認するという対応にならざるをえません。

より重大なのは「問題点1. 税負担に不公平がある」のほうです。すなわち、タワマンの高層階の相続税評価額が市場価格より著しく低くなっているということです。この点が、タワマンの高層階以外の不動産との公平を害するということです。

なお、今回はタワマン節税が俎上に載せられていますが、相続税評価額と市場価格に差があることに着目した「節税商品」「節税スキーム」は他にもあります。タワマン節税を皮切りとしてそういった商品・スキーム全般についてメスが入る可能性が考えられます。

建物の高層階と低層階の評価方法だけでなく、底地の面積を住戸の床面積に応じて割り振るという土地の評価方法についても、見直しの対象とされる可能性が大いにあります。

「課税の公平」という視点はきわめて重要です。しかし、見直しの過程において、相続人の過大な負担を避けるという意味での正当な相続税対策までもが制約されてしまうことになれば、それは「富裕層いじめ」となってしまいます。そのような事態にならないよう、私たち納税者・国民は、国税庁、ひいては政府・国会を厳しく監視していく必要があります。

(※画像はイメージです/PIXTA)