仕事に関連するポジティブで充実した心理状態である「ワーク・エンゲージメント」。「活力」「熱意」「没頭」の3つが揃った状態と定義されています。近年の従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する取り組みのなかで、心身の不調に対する予防だけでなく、精神的にポジティブな側面を向上させることへの注目度が高くなっており、ワーク・エンゲージメントを活性化するための取り組みが始まっています。そこでニッセイ基礎研究所 村松容子氏がワーク・エンゲージメントと生産性の関係をアンケート調査から明らかにしていきます。

1―健康経営政策の長期ビジョン

1.国による健康経営推進の現状

従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する「健康経営(R)*1」の取組が重要となってきており、経済産業省の健康投資WG(ワーキンググループ)では、企業や健康保険組合等による健康投資・健康経営の促進を図ってきた。2014年度から毎年実施している「健康経営度調査」に回答する法人数は、年々増加しており、2021年度は大規模法人部門で2,869件、中小規模法人部門で12,849件と、いずれも過去最多となっていることからも関心が高まってきている様子が伺える。

「健康経営度調査」の結果は、法人の健康経営の取組状況や、取組みの経年変化を分析するのに使用されるだけでなく「健康経営銘柄」の選定や「健康経営優良法人」の認定に使用されている。こういった国の顕彰制度は、健康経営実践、および取り組み内容や取り組みレベルの可視化を目的として推進されてきた。

今後、更なる推進に向けて、健康投資WGでは、健康経営の実践によって従業員の業務パフォーマンス(アブセンティーイズムやプレゼンティーイズム*2、ワーク・エンゲージメント)の評価等、効果を可視化していくことが重要としており、株価や業績等の環境の裏付けとあわせて、健康に関連する業務パフォーマンスへの状況や変化についても評価・分析を進めていく必要があるとしている*3

*1:「健康経営(R)」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標。

*2:アブセンティーイズムとは、病欠や休職など勤務ができていない状況を言う。プレゼンティーイズムとは、出勤しているにも関わらず、何らかの健康問題によって業務効率が落ちている状況を言う。

*3経済産業省 健康・医療新産業協議会 (2021年12月1日)第4回健康投資WG「事務局説明資料(今年度の進捗と中長期的な方向性)」より。健康経営の更なる推進に向けて、評価結果(フィードバックシート)等の開示をホワイト500の必須要件とする等、健診受診率、喫煙率、高ストレス者率等といった定量的な指標の開示を促進したり、健康経営のスコープを自社だけでなく「サプライチェーン」や「社会全体」に広げることを促進するとしている。

2.ワーク・エンゲージメントの概念

ワーク・エンゲージメントとは、オランダのSchaufeliらによって、2002年に確立された概念で、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態として、「仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)」、「仕事に誇りとやりがいを感じている(熱意)」、「仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)」の3つが揃った状態として定義される。近年の健康経営では、精神的不調の予防だけでなく、精神的にポジティブな側面を向上させることへの注目度が高くなっており、ストレス対策と共に、ワーク・エンゲージメントの活性化対策を進めていくことが有効とされている。

ワーク・エンゲージメントの概念は、「活動水準」「仕事への態度・認知」という軸を用いて整理されることが多い(図表1)厚生労働省による「令和元年版労働経済の分析」では、「バーンアウト燃え尽き)」は、「仕事に対して過度のエネルギーを費やした結果、疲弊的に抑うつ状態に至り、仕事への興味・関心や自信を低下させた状態」とされており、「仕事への態度・認知」について否定的な状態で「活動水準」が低い状態にある。

「ワーカホリズム」は、「過度に一生懸命に強迫的に働く傾向」とされており、「活動水準」が高い点がワーク・エンゲージメントと共通しているが、「仕事への態度・認知」が否定的な状態にある。

「職務満足感」は、「自分の仕事を評価してみた結果として生じるポジティブな情動状態」とされており、ワーク・エンゲージメントが仕事を「している時」の感情や認知を指す一方で、職務満足感は仕事「そのものに対する」感情や認知を指す点で差異があり、どちらも「仕事への態度・認知」について肯定的な状態であるが、後者は仕事に没頭している訳ではないため「活動水準」が低い状態にある。ワーク・エンゲージメントについては、「仕事への態度・認知」について肯定的な状態であり、「活動水準」が高い状態にあることから、バーンアウト燃え尽き)の対極の概念として位置づけられている。

一般に、ワーク・エンゲージメントの高さは、離職率の低さ、個人の労働生産性、仕事に対する自発性や他の従業員に対する積極的な支援、顧客満足度と正の相関があることが知られている*4。ワーク・エンゲージメントを高めるメリットとして、従業員のモチベーションが上がり、組織全体が活性化することがあげられる。相互作用があり、同僚や上司への波及効果が期待できることがあげられる。ワーカホリズムについては、仕事の生産性が高いケースもあり、その本質に関して、研究者間では一概に悪いとは評価しておらず、統一した見解はない。

また、本人も自覚していないケースもあるほか、ワーク・エンゲージメントとワーカホリズムには、弱い正の相関があることが知られている。しかし、ワーカホリズムが長く続くと心身に悪影響を与えかねないことから、この両者を区別して理解することで、ワーク・エンゲージメントが高い労働者が、ワーカホリック労働者に転換しないように、企業はマネジメントしていくことが重要とされている。

*4:例えば、厚生労働省令和元年版労働経済の分析」等。

3.業務パフォーマンスの評価・分析の現状

現在、従業員の健診受診率、ストレスチェック受検率等といった法人による健康経営の実施状況や、適正体重維持者率、血圧リスク者率等といった個人の健康のアウトカムは、健康経営度調査で収集している。しかし、アブセンティーイズム、プレゼンティーイズム、ワーク・エンゲージメント等の従業員の業務パフォーマンスは取得していない(図表2)

特に、ワーク・エンゲージメントについては、取得していたとしても、法人によって測定方法が異なり、比較できる状況にない。一方、一般的に使われている尺度ではないが、「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」と「自分の仕事に誇りを感じる」は、厚生労働省による「新職業性ストレス簡易調査票」の質問票に含まれているため、健康経営度調査に回答している法人の約1/4が調査している。

そのため、経済産業省では、ワーク・エンゲージメントについて法人間での比較が可能なデータを収集することを目標として、これらの設問のデータを保有している法人に対して、健康経営度調査で結果を回答してもらうこと(評価には影響させない)や、一般的に使われている測定方法の採用を促すこと、複数の主要な測定手法を併存させてそれぞれのデータを集めていくこと等を検討している。

2―アンケート調査によるワーク・エンゲージメントと生産性の関係分析

ワーク・エンゲージメントと生産性には正の相関があるとされる。そこで、以下では、ニッセイ基礎研究所が実施している「被用者の働き方と健康に関する調査」の結果を使って、ワーク・エンゲージメントと生産性の関係を確認する。

まず、1年分のデータを使って、ワーク・エンゲージメントが高い従業員で、生産性が高いことを確認する(分析1)。次に、3年にわたり調査に回答した人のデータを使って、ワーク・エンゲージメントが上がった従業員で、生産性も上がっていることを確認する(分析2)。

1.「被用者の働き方と健康に関する調査」の概要

「被用者の働き方と健康に関する調査」は、ニッセイ基礎研究所が2019年3月から毎年実施しているインターネットによるアンケート調査である。調査の対象は、全国の18~64歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女である。全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布を、国勢調査の分布に合わせて回収している。回収数は、2020年調査は6,485件、2021年調査は5,808件、2022年調査は5,653件だった。

2.分析1「単年におけるワーク・エンゲージメントと生産性の関係」

分析1では、2022年3月の調査に回答した5,653人のデータを使って、ワーク・エンゲージメントと生産性の測定方法、および生産性に影響すると考えられるストレス状況の判定、ワーカホリズムの状況の測定方法を示し、ワーク・エンゲージメント、ストレスの状況、ワーカホリズムの状況と生産性の関係を分析する。

(1) 使用する変数の概要

(i) ワーク・エンゲージメントの測定

本稿では、ワーク・エンゲージメントの測定に、「仕事をしていると活力がみなぎる気がする」「職場での自分の役割に誇りを感じる」「仕事にのめり込んでいる・夢中になってしまう」への回答を使う。

2022年3月に行った調査におけるこれら3つの質問に対する回答の分布を図表3に示す。いずれも「どちらとも言えない」が半数程度を占めて高かった。残り半数程度についてみると、「仕事をしていると活力がみなぎる気がする」「仕事にのめり込んでいる・夢中になってしまう」では、「あてはまらない」と「あまりあてはまらない」の合計が3割弱で、「あてはまる」と「ややあてはまる」の合計を上回っていた。「職場での自分の役割に誇りを感じる」では、「あてはまらない」と「あまりあてはまらない」の合計と「あてはまる」と「ややあてはまる」の合計がいずれも25%弱で同程度だった。

ここでは、「あてはまる」~「あてはまらない」に対して順に5~1点を配点し、3つの質問の合計点をワーク・エンゲージメント得点とする。ワーク・エンゲージメント得点の分布は図表4のとおりで、全体の平均は8.6点(標準偏差2.6点)だった。以下では、3~8点を「低ワーク・エンゲージメント」、9点を「中ワーク・エンゲージメント」、10~15点を「高ワーク・エンゲージメント」とする。

(ii) 生産性の測定

生産性の測定には、東大1項目版として知られる「病気やけががないときに発揮できる仕事のできを100%として、過去4週間の自身の仕事を評価してください。」という自分が考える仕事のパフォーマンスを問う質問への回答を使った。生産性の分布は図表5のとおりだった。およそ半数が病気やけががないときに発揮できる仕事のできと比較して100%、およそ3割が80~99%と自己評価しており、全体の平均は84.1%(標準偏差23.8)だった。

(2) 分析1の結果~ワーク・エンゲージメントが高い従業員は生産性も高い

(i) クロス集計の結果

ワーク・エンゲージメント(低、中、高)別の生産性の平均を図表6に示す。低ワーク・エンゲージメントで81.6%、中ワーク・エンゲージメントで84.1%、高ワーク・エンゲージメントで87.2%と、ワーク・エンゲージメント得点が高いほど生産性も高い、すなわち従業員自身が高いパフォーマンスで働けていると認識していた。

続いて、生産性に影響を及ぼすと考えられているストレスの状況とワーカホリズムの状況について、生産性との関係をみる。ストレスの状況は、「職業性ストレス簡易調査票(57問)」を使用し、素点換算表*5から高ストレス者を選定した。高ストレス者は1,097人(全体の19.4%)だった。

また、ワーカホリズムは、「過度に働くことへの衝動性ないしコントロール不可能な欲求」「仕事中でなくても頻繁に仕事のことを考える」などの特徴が指摘されていることから、本稿では、同様の概念である「家にいても仕事のことが気になってしかたがないことがある」への回答を使った。「家にいても仕事のことが気になってしかたがないことがある」への回答は、「あてはまる」が242人(全体の4.3%)、「ややあてはまる」が1,043人(〃18.5%)、「どちらともいえない」が2,580人(〃45.6%)、「あまりあてはまらない」が1,010人(〃17.9%)、「あてはまらない」が778人(〃13.8%)だった。

ストレスの状況や「家にいても仕事のことが気になってしかたがないことがある」への回答別の生産性の平均を図表7に示す。その結果、高ストレス者で、それ以外の人と比べて生産性は低い。また、高ストレス者で生産性が低いのと同程度に「家にいても仕事のことが気になってしかたないことがある」に「あてはまる」と回答した人の生産性は低かった。

*5:厚生労働省ストレスチェック実施プログラム「数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法(https://stresscheck.mhlw.go.jp/material.html)」

(ii) 回帰分析の結果

ワーク・エンゲージメント、ストレスの状況、「家にいても仕事のことが気になってしかたないことがある」への回答を説明変数とし、生産性を被説明変数とした重回帰分析の結果を図表8に示す。「家にいても仕事のことが気になってしかたないことがある」に対する回答が「あてはまる」を1、「ややあてはまる」「どちらともいえない」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」を0とした。性、年齢、職業*6、仕事内容*7*8は調整変数として投入した*9

重回帰の結果からも、ワーク・エンゲージメントと高ストレス、「家にいても仕事のことが気になってしかたないことがある」に「あてはまる」は、それぞれ独立に生産性と関係があり、ワーク・エンゲージメント得点は生産性と正の関係があり、「家にいても仕事のことが気になってしかたないことがある」に「あてはまる」人、また、高ストレス者は生産性と負の関係があった。

*6:職業は、公務員(一般)/公務員(管理職以上)/正社員・正職員(一般)/正社員・正職員(管理職以上)/契約社員(フルタイムで期間を定めて雇用される者)/派遣社員(労働者派遣事業者から派遣されている労働者)とした。

*7:仕事内容は、管理職・マネジメント/事務職(一般事務、コールセンター、受付等)/事務系専門職(市場調査、財務、秘書等)/技術系専門職(研究開発、設計、SE等)/医療福祉、教育関係の専門職/営業職/販売職/生産、技能職/接客サービス職/運輸、通信職/その他 とした。

*8:年収は、300万円未満/300~700万円未満/700~1,000万円未満/1,000~1,500万円未満/1,500万円以上/収入はない/わからない・答えたくないとした。

*9:投入した変数はいずれも強い相関はなく、多重共線性はないものと考えた。

3.分析2「ワーク・エンゲージメントの変化と生産性の変化の関係」

分析1では、ワーク・エンゲージメントを測定する質問も、生産性を問う質問も、同じアンケート調査で行っている。したがって、例えば、どういった質問に対してもポジティブに捉える人と、どういった質問に対してもネガティブに捉える人がいた場合、企業からみた「生産性」が同様であっても、前者はワーク・エンゲージメントを測定する質問にも生産性を問う質問にもポジティブに回答しているのに対して、後者はいずれもネガティブに回答してしまっていて、客観的な評価になっていない懸念がある。

そこで、こういった個人の特性の影響を軽減するために、分析2では、2020~2022年の3年にわたって調査に回答した3,418人*10のデータを使って、個人にみられる特性が、この3年間で変わらないと仮定し、2020年と2022年の2時点におけるワーク・エンゲージメント、ストレスの状況、ワーカホリズム状況の変化と、同じく2時点における生産性の変化との関係を確認する。

*10:この3,418人は、全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布が必ずしも国勢調査の分布にそっていない。

(1) 使用する変数の概要~ワーク・エンゲージメント等の変数の2020~2022年における変化

2020~2022年おけるワーク・エンゲージメント得点、高ストレスかどうか、「家にいても仕事のことが気になってしかたがないことがある」に「あてはまる」かどうかの変化を図表9に示す。

ワーク・エンゲージメントは、変化なしは34.6%で、30.7%が悪化(得点が低下)し、34.6%が改善(得点が上昇)していた。ストレスチェック(職業性ストレス簡易調査票(57問))で高ストレスに該当するかどうかでは、78.1%が変化なしだった。悪化(高ストレスに該当していなかった人が、該当するようになった)は10.0%、改善(高ストレスに該当していた人が、該当しなくなった)は11.9%だった。「家にいても仕事のことが気になってしかたがないことがある」は49.3%が変化なしで、「あてはまる」に該当していなかった人が該当するようになった割合は25.9%、該当していた人が、該当しなくなった割合は24.9%だった。

(2) 分析2の結果 ~ワーク・エンゲージメントが上がっている従業員は生産性も上がっている

(i) クロス集計の結果

ワーク・エンゲージメント得点、高ストレスに該当するか、「家にいても仕事のことが気になってしかたがないことがある」への回答の変化と生産性の変化の関係を図表10に示す。

2020~2022年にかけて、全体では、生産性は+0.67%でほとんど変化はなかった。2020年と比べて2022年のワーク・エンゲージメント得点が上昇した人、ストレスチェックで「高ストレス」に該当しなくなった人、「家にいても仕事のことが気になってしかたがないことがある」に「あてはまる」ではなくなった人で、生産性は上がっていた。反対に、ワーク・エンゲージメント得点が低下した人、ストレスチェックで「高ストレス」に該当するようになった人、「家にいても仕事のことが気になってしかたがないことがある」に「あてはまる」ようになった人で、生産性は低下していた。

(ii) 回帰分析の結果

続いて、3年間とも調査に参加した人を対象として、生産性を被説明変数とし、ワーク・エンゲージメント、ストレスの状況、「家にいても仕事のことが気になってしかたないことがある」への回答を説明変数として、固定効果モデルによる推計を行った*11。職業*12、仕事内容*13、年収*14、調査年は調整した。「家にいても仕事のことが気になってしかたないことがある」に対する回答が「あてはまる」を1、「ややあてはまる」「どちらともいえない」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」を0とした。

結果を図表11に示す。個人の特性の影響を排除しても、ワーク・エンゲージメント得点は生産性と正の関係があり、「家にいても仕事のことが気になってしかたないことがある」に「あてはまる」人、また、高ストレス者は生産性と負の関係があった。

*11:F検定、ハウスマン検定により固定効果分析が有効であることを確認している。変数間に多重共線性の問題はないことを確認した。

*12:職業は、公務員(一般)/公務員(管理職以上)/正社員・正職員(一般)/正社員・正職員(管理職以上)/契約社員(フルタイムで期間を定めて雇用される者)/派遣社員(労働者派遣事業者から派遣されている労働者)とした。

*13:仕事内容は、管理職・マネジメント/事務職(一般事務、コールセンター、受付等)/事務系専門職(市場調査、財務、秘書等)/技術系専門職(研究開発、設計、SE等)/医療福祉、教育関係の専門職/営業職/販売職/生産、技能職/接客サービス職/運輸、通信職/その他 とした。

*14:年収は、300万円未満/300~700万円未満/700~1,000万円未満/1,000~1,500万円未満/1,500万円以上/収入はない/わからない・答えたくないとした。

4.分析結果のまとめ

2022年の1年分のアンケート調査のデータによる分析から、ワーク・エンゲージメントが高い人は、高いパフォーマンスで働けていると認識していた。ただし、ストレスチェックによって「高ストレス」と判定される人や、「家にいても仕事のことが気になってしかたないことがある」に「あてはまる」人では、パフォーマンスと負の関係があった。すなわち、ワーク・エンゲージメントが高い人で生産性が高いと考えられるが、ワーク・エンゲージメントが高い状態であっても、過度なストレスはもちろん、家にいても仕事のことが気になってしかたない程没頭するのは、生産性にマイナスの影響がある可能性がある(分析1)。

続いて、2020~2022年の3年にわたって調査に回答した人のデータを使った分析から、3年間でワーク・エンゲージメントが上がった人は、生産性も高くなっていると認識していた。また、ストレスチェックによって「高ストレス」と判定されるようになったり、「家にいても仕事のことが気になってしかたないことがある」に「あてはまる」になる等、ストレスの状況やワーカホリズムの状況が悪化した人では、生産性が低下していた(分析2)。

これらの結果から、仮に生産性の評価が回答者によって異なっていたとしても、ワーク・エンゲージメントと生産性には正の相関があると考えられる。

3―アンケート調査によるワーク・エンゲージメントと生産性の関係分析(まとめ)

今回の分析から、ワーク・エンゲージメントと生産性には正の相関があることが確認できた。ただし、ワーク・エンゲージメント等の改善と生産性の向上についての因果関係はわからず、企業がワーク・エンゲージメントを高める取り組みを行うことによって、ワーク・エンゲージメントとパフォーマンスが上がっている可能性もあれば、自分自身のパフォーマンスが上がってきたと認識することによって、ワーク・エンゲージメントが高まったり、ストレスが軽減されている可能性もある。

ストレス軽減など精神的不調の予防だけに注目するのではなく、精神的にポジティブな側面に注目し、向上させることは、より活力のある職場を作り、個々のパフォーマンスを上げるために有効だと思われ、従業員個人の生産性を高めることを念頭に、ワーク・エンゲージメントを高める取り組みを行う企業が増えてきている。ワーク・エンゲージメントの改善によってパフォーマンスが上がることが期待できるだけでなく、ワーク・エンゲージメントが高い人は職場には活気をもたらし、周囲の従業員についてもそれぞれのパフォーマンスは高まると考えられ、職場にとってプラスとなり得ると考えられる。

一方で、従業員が自分自身でパフォーマンスの向上や悪化を判断できる環境も重要だと考えられ、ワーク・エンゲージメント向上に向けた取り組みを行うと同時に、企業が従業員に求める役割や業務量について、各従業員と共有することが必要だと考えられる。また、従業員自身が、いま、自分がどういう状況で働けているかを認識できるようリテラシーを高めて、自身の状態にあわせて仕事を調整することを申し出ることができるような環境を作っていくことも重要だろう。

(写真はイメージです/PIXTA)