サラリーマンには確定申告未経験という人も多いが、副業をしている場合、申告義務が発生する可能性がある
サラリーマンには確定申告未経験という人も多いが、副業をしている場合、申告義務が発生する可能性がある

年の瀬が近付き、確定申告の季節が訪れようとしている。'18年1月に働き方改革で副業が解禁されて以降、副業人口は漸次増加。ウーバーイーツ配達員など、時間や場所を問わず自由に働けるギグワークを始めたサラリーマンも多いだろう。そこで、副業ビギナーが苦心する確定申告の注意点について、元国税調査官で税理士の松嶋洋氏が解説していく。

副業所得が20万円超の場合、サラリーマンでも確定申告をする必要があります。確定申告には「白色申告」と「青色申告」の二種類あり、青色申告の方が申請条件は厳しいですが、その分節税効果は大きくなります。

ただし、青色申告が認められる所得区分は「事業所得」「不動産所得」「山林所得」の場合のみ。副業所得は原則として「雑所得」に分類されるため、基本的には青色申告の該当者にはなり得ません。

しかし、ネットで検索すれば「副業で青色申告をする方法」などの記事が数多く出回っています。その理由は二つ。一つは雑所得と事業所得に明確な違いがないから。もう一つは、納税者が多すぎて税務署がすべてチェックしきれていないからです。副業での青色申告は、極めてグレーな世界で見過ごされているというのが現実なのです。

■収入300万円以下でも帳簿があれば青色申告できる!
 ただし二つの例外には要注意!

そこで、このような現状を是正すべく、国税庁は今年8月に「副業収入が300万円を超えない場合、原則として雑所得とする」という所得税基本通達の改正案を発表。しかし、パブリックコメントで実に7000件以上もの反論が寄せられ、10月には「300万円以下でも帳簿の保存があれば原則として事業所得にできる」と修正されました。

反対意見の主張は「収入で区切ると、本来救わなければならない層まで切り捨ててしまう可能性がある」ということ。一例として、起業当初は黒字化が難しいのに、1年目から300万円以上の結果を出さなければならないのは酷だということです。無論、お小遣い稼ぎ程度の副業であれば、本来は雑所得として切り捨てても構わないのですが、それでは昨今の副業推進に矛盾します。結果的に国税庁がグレーな部分を認めるという、極めて異例な事態が生じたのです。

フードデリバリー配達員など、ギグワークを副業として始めるサラリーマンも増加中
フードデリバリー配達員など、ギグワークを副業として始めるサラリーマンも増加中

とはいえ、国税庁もすべてを容認したわけではありません。たとえば、過去3年間の副業収入が300万円以下で、かつ給与収入など主たる収入に対する割合が10%未満の場合や、過去3年間の副業収入が赤字の場合などは、雑所得とされる可能性があります。特筆すべきはこの二点ですが、そのほかにも例外がホームページに明示されているので、事前にしっかりと確認しておきましょう。

まとめると、副業サラリーマンは、まず副業収入300万円を目標にし、達成できない場合も帳簿があれば原則としてOK。そして、ホームページをチェックして例外にあたる事例に該当しないよう注意することです。わからなければ、税理士に相談しましょう。青色申告の具体的な節税メリットについては省略しますが、まずは副業でも青色申告の恩恵が受けられる可能性があるということは覚えておきたいですね。

■経費は落ちるものではなく落とすもの。
 一括で落とせるラインは「10万円」

もう一つ、副業サラリーマンが気になる経費の落とし方についても解説します。

結論から言うと、「経費は落ちるものではなく、落とすもの」と心得ることです。

実は経費に関してもグレーな側面が大きく、本来、事業で使う部分がいくらか明確でないものは基本的に経費にはできないとされていますが、それはあくまで建前。必ずしも事業に必要ではなく冠婚葬祭などプライベートでも着用できるスーツは、よく経費で落とせないものの代表例として挙げられますが、事業でスーツを着用した証拠をすべて記録して正当な理由を説明さえできれば、税務署もなかなかダメとは言いづらいというのが本音です。つまり、準備さえ怠らなければ、ある程度は経費として落とせる余地があるということです。

ただし、一括で10万円を超える場合は目を付けられがち。なぜなら、10万円未満は「消耗品費」、10万円以上は一括で経費にできない「固定資産」と明確に扱いが異なるからです。そのため、経費を申請する際は必ず10万のラインを意識してください。

「副業とはいえダイナミックな経費申告も可能」と指摘する松嶋氏
「副業とはいえダイナミックな経費申告も可能」と指摘する松嶋氏

ここで少し内部的な話をすると、税務調査は2~3日で終わらせなければならない業務であり、税務署も10万円以下の経費を逐一チェックするための時間を取りづらいというのが本当のところです。そのため、収入300万円程度であれば、脱税は言わずもがな、経費のでっちあげや売り上げ除外などの不正取引を行わない限り、税務調査に来る確率は高くない。

また、そもそも年収300~330万円の所得税率は10%なので、たとえ4~5万円でダメと言われても追加で1万円納めればいいだけ。正常な範囲内であれば、一つひとつは大きくありません。皆さんはよく「税務調査が怖い」と言いますが、一度税務調査を受けたら当分は調査に来ないので、これくらいの時に来てくれるほうがむしろありがたいのではないでしょうか。

そのため、不正取引を一切行っていなければ、上記に注意して多少ダイナミックに経費を申告しても、問題になることは多くないというのが現実というわけです。

●松嶋洋
元国税調査官・税理士
2002年東京大学卒業。金融機関勤務を経て東京国税局に入局。2007年退官後は税理士として活動。税務調査対策のコンサルタントとして税理士向けセミナーの講師も務める。著書に『押せば意外に 税務署なんて怖くない』(かんき出版)など多数。

構成/桜井カズキ

サラリーマンには確定申告未経験という人も多いが、副業をしている場合、申告義務が発生する可能性がある