「週刊少年ジャンプ」(集英社1990年42号から1996年27号まで連載されたバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』。明日12月3日に公開を控える新作映画『THE FIRST SLAM DUNK』の原作にしてコミックスシリーズ累計1億部を突破するメガヒット作品だが、その終わり方は当時のファンに大きな衝撃を与えた。原作者・井上雄彦が周囲の反対を押し切って敢行した「異例」と呼ばれる作品の完結とその理由を、内容が明らかになっていない新作映画への心緒を交えて紹介していく。

【動画】背番号でカウントダウン 映画『THE FIRST SLAM DUNK』15秒CMを一挙に見る

■反響の大きさが物語る『SLAM DUNK』の人気ぶり

 高校バスケを題材に手に汗握る試合の描写やバスケットボールに青春を懸ける登場人物たちの成長を描き、中高生を中心に圧倒的な支持を受けた『SLAM DUNK』。日本バスケットボール協会が発表している年度別競技者登録数(3×3を除く)は、1990年は81万560人だったが、連載が終了した1996年には100万8822人まで増加している。この推移と本作の因果を裏付けるものはないが、連載開始時は数えるほどしか漫画で取り上げられていなかった(タブーとさえ言われていた)バスケットボールを人気スポーツに押し上げた立役者であることは間違いない。

 2021年に新作映画の制作が発表されると、多くのファンが歓喜。最近では、12月3日の公開まで「残り14日」に解禁された“背番号14”三井寿のCMを皮切りに、「残り〇日」と背番号が一致する日に流川楓桜木花道宮城リョータ赤木剛憲と、湘北高校バスケ部のスタメンキャラクター5人のCMが次々公開。それぞれ15秒という短い映像だが、視聴者の間でさまざまな予想や考察が飛び交っている。

 映画がここまで話題を集めている理由は、シンプルに人気作であること、そして直前になっても内容の全容が明らかになっていないことも当然ある。しかし原作の終わり方が衝撃的だったこと、そして完結から30年近く、望まれながらもほぼ新作や続編が発表されなかったことも大きな要因だろう。

■現在とは違う最終回の見せ方

 人気絶頂、そしてインターハイ全国大会半ばという、物語の先がある状況で終了した連載。当時、リアルタイムで「週刊少年ジャンプ」を読んでいた読者に与えた衝撃はとてつもなく大きかった。

 当時の連載作品は、最終回を事前に告知されることがなかった。なかには1話前の最終コマや柱(余白に入れるキャッチコピー)で告知されるケースもあったかもしれないが、現在のようにニュースなどで報じられるようなことはなく、雑誌を開いて初めて完結を知る…という流れが一般的だった。

 それでも、物語の流れから「そろそろ終わりそうだ」と予測できる作品が多かったので大抵は心の準備ができたが、『SLAM DUNK』の完結はまったく予想できなかった。最終回の1話前、高校覇者・山王工業を下すシーンにひとしきり泣いたあと、頭にあるのは「桜木がけがしている状態で次の試合に勝てるのか?」しかなかったのだ。

 そして次号、湘北の3回戦敗退が“ひと言”で描かれていることに驚き、最終ページの「第一部 完」を見て再び驚き、さらには単行本で「第一部」の文字が無くなっていることに気付いて三度驚く。「第一部 完」は最終回の途中からうすうす予想できたものの、この3回のサプライズは非常にショッキングだった。

 当時は作品の人気が続く限り連載終了しないのが当たり前で、結果的に人気が落ちて完結する作品が、雑誌の表紙になることもほぼなかった。この意識も完結を予想できなかった大きな要因なのだが、人気のピークで完結した『SLAM DUNK』は、最終回掲載号で表紙を飾っていたのだ。

 インタビュー&カルチャーマガジンSWITCH」2002年3月号のインタビューで、井上はインターハイ全国大会が始まるときには山王戦で完結させることを決めていたという。さらに、自身の人生と作品を綴る書籍『漫画がはじまる』では、その理由にも言及。「ある程度、支持を得られた作品であれば、終わり方もちゃんとしなければならない」「すごく面白かった漫画ならば、終わるときには巻頭カラーであるべきだろう」と語っている。

■全国大会前で終了したテレビアニメ

 1993年からは、テレビアニメ全101話も放送された。原作のストーリーで見ると県予選の決勝リーグまでしか描かれていないが、終わり方は漫画に負けずインパクトが強い。その理由は、第82話以降のエンディングにある。

 エンディングの映像には、愛和学院の諸星大、大栄学園の土屋淳、名朋工業の森重寛、豊玉の南烈と岸本実理など、全国でしのぎを削る強豪校の選手が登場していることから、視聴者は全国大会まで放送が続くことに何の疑問も持っていなかったのだ。

 しかし、その後は湘北と陵南・翔陽合同チームとの練習試合など、オリジナルエピソードを数話放送して番組終了。このことから、何らかの理由で予定されていた全国大会以降の放送が打ち切りになったという説が有力だが、真相は明かされていない。オリジナルエピソードを追加した理由も、放送クール(1~3月)の途中で番組を終了させないための措置だったのかもしれない。

 それから漫画・アニメともに新作が発表されることはほとんどなかった。連載終了から8年後の2004年、同年に廃校となった高校の黒板で『スラムダンク あれから10日後ーー』を発表したが、これは登場キャラクターの何気ない日常を描いた“隙間を埋める”内容となっている。

 プロバスケットボール選手・田中大貴との対談では、続編について「別にやんないと決めてるわけでもないし、やると決めてるわけでもない。また描きたくなったら描く」とコメントしている井上。しかし一時は、続編や新作への多数の要望に「無意識のうちに辟易していた」時期もあったという。この事実を考えると、新作が出るということ自体、永久に叶わなかったかもしれないファンの願いが成就したことになる。是も非も含め、映画の新たな情報や動画が公開されるたびに多くの声が上がっているが、それは新作を待ち続けたファンの多さを物語っている。

■どこまで見せるのか 妄想が膨らむ新作の内容

 11月29日に公開されたCMの映像から、少なくとも映画で山王戦が描かれるのは間違いない…というのが大方の予想だが、全体の構成はまだ不明。

 11月4日の予告映像公開時に多くの視聴者が予想した『ピアス』のように、原作以外の要素もあるかもしれない。また、11月19日に公開されたCMでは、山王戦とは全く時期の合わない“長髪の三井寿”も登場している。回想などの一場面を切り取っただけかもしれないが、時期的に山王戦前後とは遠いエピソードが何らかの形で描かれる可能性もある。

 「SWITCH」2005年2月号インタビューで、井上は漫画をもっと続ければよかったという気持ちがまったくないと断言したうえで、番外編や読み切りのようなエピソードなら「どのキャラクターでも描けると思いますよ。沢北とか、強いキャラクターなら、ある種のシリーズさえできるでしょうね」と語っている。

 この発言も踏まえると、さまざまな妄想が膨らむ。例えば新キャプテン・宮城リョータのバスケ部で、怪我を乗り越えた桜木が活躍する姿を見るのも不可能ではないことになる。ほかにも、三井を舌打ちさせるぐらいしか活躍がなかった武藤正の海南大附属スタメンたる所以や、堀高校・スティーブ大滝の動く姿など、気になることはたくさんある。

 だが最も気になるのは、やはりインターハイ全国優勝校。海南大附属が準優勝したこと、プロバスケットボール選手・岡田優介との対談で井上自身が名朋工業の優勝を否定していることから、原作199話に掲載されたトーナメント表で30~58番の高校のどこかが優勝しているはずだが、この疑問が晴れる可能性もあるかもしれない。

 突然の連載終了から26年。2021年に突然告知された新作映画の内容が公開直前になっても明らかになっていないことで、あれこれと妄想が膨らんでしまう。だが、これまで胸やけするほど待ち焦がれた新作なのだ。もしかすると2度と訪れない機会になるかもしれないので、公開前の妄想も含めて存分に楽しんでおきたい。(文・二タ子一)

 映画『THE FIRST SLAM DUNK』は12月3日より公開。

明日試合開始! (※画像はイメージ)