莫大な資産を保有する日本の富裕層は、近年大きく変わった……海外移住のサポートを行い、これまで2万人を超える富裕層をみてきた大森健史氏は、そう実感しているといいます。いまどきの“シン富裕層”の実態とは? 今回は、暗号資産であっという間に「億り人」になった人たちを中心にみていきます。

フリーターが実は億り人…「幸運タイプ」のシン富裕層

【最近の富裕層にみられる5タイプ】 ①ビジネスオーナー型 ②資本投資型 ③ネット情報ビジネス型 ④暗号資産ドリーム型 ⑤相続型 (参照記事『普通の人に見えて大金持ち…現代の富裕層、5つのタイプ』

「④暗号資産ドリーム型」の成功パターンは、一定の先見の明と幸運があったという、これに尽きると言えます。筆者がお会いした投資家の中には「暗号資産で、数億円から数百億円規模の巨額の資産を手にしている人も少なくありません。

なかには1,000億円以上の暗号資産を保有している人もいました。しかも投資金額が何十倍、何百倍、何千倍と暗号資産が高騰しても、持ち続ける忍耐力がある(キャッシュが必要となり、一部のみ換金するケースはある)。

ただし、メンターがいるケースが多く、メンターの指示に従う人と自身で考え決断できる人との二種類に分けられます。地元の友人などを大切にするタイプが多く、本当は海外にはそれほど移住したくないと思っている」という人たちと規定しています。

2017年以降の海外移住の相談者は、本当にがらっとタイプが変わりました。

もしもしぃ。はい。えっとぉ、移住の相談したいんすけどぉ。いいっすか」といった、ラフな口調の電話が、筆者の会社にもよくかかってくるようになりました。

お話をうかがうと地方都市のガソリンスタンドアルバイトをしている20代前半のフリーターの方が、実は数億円の暗号資産を持っている、といった状況が生まれていたのです。それまでの富裕層とは、まったく違うタイプの人たちでした。

このように暗号資産の購入で億単位に上る富を得た人たちは、「億り人」とも呼ばれています。

投資を理解している人と、幸運のみの人が混在する「暗号資産グループ」

しかも彼らの多くは、よくよく話を聞いてみると、暗号資産について全然詳しくないことも珍しくありません。友人・知人の誰かひとりが暗号資産について詳しく、その人に教えてもらってたまたま買ってみただけで、大金を手にしてしまったというパターンなのです。

そうした人脈があったこと、そして「勧誘されるほとんどの投資話が詐欺案件と言われる昨今、たまたま投資した暗号資産が詐欺ではなかった」というドリーム要素が非常に大きいのが、この「④暗号資産ドリーム型」の人たちなのです。

しかも彼らは、先見の明はあったにせよ、その後特に投資術を駆使して資産を増やしたというわけでもなく、売ると税金が高いから売れない、それで放置していたら値上がりしただけ、というケースも多いのです。

シン富裕層の他のグループと違って、暗号資産グループは、さまざまな投資のプロからビジネスや投資における実力や実績が伴っていないのにお金だけが増えたという方が混在している状況だと言えます。

そのため、次の投資案件が来た場合、彼らの結論の出し方は真っ二つに分かれます。いろいろな暗号資産に思い切って投資して儲かったタイプは、「とりあえず、よくわからないけどお金を出してみよう」と出すし、

勧められたから購入しただけという、自身の投資の実力が伴っていないことに気付いているタイプは、「自分にはまったくわからないから、お金なんて一銭も出せません」と頑なになる、その両極端に分かれます。

同じような富裕層に見えても、実践で多くの経験を積んでいるかどうかで、その後のビジネスや投資判断をスムーズに決断できるかどうかがまったく違ってくるのです。

“友だち”8人で…大金を手にドバイへ移住

友だち8人で仲良く海外移住したいと言って相談に来て、そのままドバイのビザを取り、実際に移住した人たちもいました。彼らも、暗号資産等の投資に詳しい人がグループに1人いて、いつも8人で仲良く、これからどうするかを決めているようでした。

20代から40代の男性で、ほとんどが独身者でしたが1人は既婚でした。九州在住で、田舎でやることもないし、みんなでドバイに移住して、投資活動をして生活していきたい、と言っていました。

後で分かったのですが面白いことに8人の中の2人は中心人物のメンター以外とほとんど会ったことがないらしく、知り合いでもなかった人がいたことがとても印象的でした。つまり本当の仲良しメンバー8人ではなかったのです。

シン富裕層にドバイが人気なワケ

いろいろな国がある中でなぜドバイなのかというと、ドバイは、先進国に多い「全世界所得課税」という居住者に対して自国を含めたどの国で得た所得にも課税対象とする制度がなく、所得税以外にも譲渡益税、法人税(2023年より変更の可能性あり)や贈与税相続税もないからです。

最近は節税や投資家、最近流行のFIRE(Financial Independence, Retire Early)を考えるシン富裕層に、ドバイは大変人気があります。

また日本では、暗号資産が税金面で著しく不利になっています。

株式や債券、FXなどで得た利益は、給与収入から切り離し約20%の税率が適用される「申告分離課税」ですが、一方の暗号資産は、雑所得として利益が計算され、給与収入などと合算する「総合課税」方式のため、所得税と住民税の税率がそのまま適用されてしまうと、最大で55%の税金を支払う必要があるからです。

暗号資産を売却した場合と暗号資産で商品を購入した場合、暗号資産同士の交換をした場合の3パターンで、課税対象となります。そのため、この8人組もドバイに向かったというわけです。

なお暗号資産は現時点で、出国税の対象でもありません。ただし暗号資産はビザ申請をする際の資料を提出しにくいため、筆者たちは暗号資産を持つ人が海外移住する際には、ビザ申請がしやすい国を選ぶよう、アドバイスしています。

ちなみにどれだけビザ申請用の書類を準備しにくいかと言うと、ビットコインが出回り始めたばかりの、2012~2014年頃にビットコインを購入したというある方は、暗号資産の取引所もない頃であったため、Yahoo! JAPANが提供するインターネットオークションサービス「ヤフオク!」で買っていました。

そうした取得の経緯を、ビザの申請書類に記載する必要があるのですが、その証拠もないのでビザ申請の準備が難航したことは言うまでもありません。

「資本投資+暗号資産」併用タイプも

暗号資産のみで大金を手にしたシン富裕層は、「④暗号資産ドリーム型」に分類できますが、中には「②資本投資型」で、かつ暗号資産で資産を増やしたというタイプの人もいます。

商社勤務で、海外に駐在し支社長を務めていた40代後半の男性は、年収2,000万円ほどで、仕事の傍ら株式や債券などの運用をしていました。それに加えて、長年持っていたビットコインが20億円になったので会社を辞めて海外でリタイア生活を送りたい、という希望があり、筆者のところに相談に来られました。

投資は好きなので今後も投資活動をしつつ、まだ小学生から未就学児の子どもが3人いるため、今後の子どもの教育環境についても考えたいとのことでした。

そこで今後に複数の可能性を残すために、アメリカとポルトガル、ドバイと、3カ国で投資家ビザを申請しました。

彼の持っていたビットコインが20億円にまでなったのは、やはりラッキー要素が強めではありますが、投資好きというだけあって、暗号資産の研究にも熱心でした。

2013年頃からビットコインを購入し始め、2014年に起きた「マウントゴックス事件」でも被害に遭ったそうです。マウントゴックス事件とは、当時世界最大級のビットコイン交換業者であったマウントゴックスMt.GOX)社のサーバーが、何者かによってハッキングされ、同社のビットコインと預かり金の大半が流出してしまったというものです。

しかしこの方はこの事件を乗り越えてその後もビットコインアルトコインを買い進め、20億円にまでなったということです。

この元商社マンと同じタイプで、年収3,000万円の、青森県の40代男性開業医もいました。同じく投資好きで、ビットコインが20億円ほどになり、リタイアして投資に専念したいということでした。彼はオーストラリアマルタ、タイの3カ国で投資家ビザを取得しました。

個性的な人が多い「暗号資産ドリーム型」…衝撃の失敗談

「④暗号資産ドリーム型」の人たちは、まさに「シン富裕層」として個性的な人が特に多いのですが、衝撃の失敗談を聞いたことがあります。「暗号資産のウォレットのパスワードが、間違っていないはずなのに開かなくなってしまって、2億円がなくなったんですよ」というものです。

「だから大森さん、パスワードって絶対に忘れちゃいけないんですよ」というアドバイスをされ、その常人離れぶりに「そりゃそうだろう」とうらやましさ半分で苦笑いしたものです。

大森 健史

株式会社アエルワールド

代表取締役

(※写真はイメージです/PIXTA)