普通のサラリーマンにとって、やはりマイホームは夢。「色々計算してみたら、余裕をもって返済できるかも……」。綿密なマネープランで住宅ローンを組んでマイホームを実現しても、絶対安心ということはありません。みていきましょう。

持ち家派「国のサポートが充実している」というが…

——家を借りますか? それとも買いますか?

人生における大きな選択肢。日本人の場合、買うほかにも相続・贈与という方法もありますが、持ち家率は61.2%(総務省平成30年住宅・土地統計調査』)。持ち家率は低下傾向で、まるで賃貸派が多数のように扱うニュースもありますが、実際は持ち家派が多数派のようです。

国も住宅の賃貸について大きなサポートはしてくれませんが、購入については積極的です。たとえば、2022年度の税制改正で一部要件を変更し2025年まで延長される住宅ローン減税。住宅ローンを借り入れて住宅の新築・取得、または増改築等をした場合、年末のローン残高の0.7%を所得税(一部、翌年の住民税)から最大13年間控除。リフォーム工事をすることで固定資産税が減税できる制度もあります。なにかといわれるゼロ金利も、住宅購入者にとっては嬉しい限りの政策です。

やはり住宅購入は、さらに家電や家具などの購入も促し、景気にもプラスの効果が期待できるので、政府も積極的にサポートしたくなるわけです。

しかしネックといえば、やはりその値段。人生の三大出費は「子どもの教育費」「生命保険」「マイホーム」といわれるように、何千万円という出費を覚悟しなければなりません。

——それに比べたら、賃貸は気楽

そう考える人も多いでしょうが、賃貸だって当然、お金はかかります。仮に30歳で結婚し、30年間、賃貸だった場合を考えてみましょう。将来的に3人家族になったとしたら、3LDK以上は欲しいところ。家賃が15万円だったら、総額5,400万円。家賃が12万円だったら総額4,320円。家賃9万円まで下げても3,240万円。家賃だけでも、結構なお金を払っています。そこに更新料や引越し代などもプラスされていきます。それほど払っていないと思っていても、トータルでみると結構な金額になります。

結局のところ、持ち家か賃貸かは、その人の価値観だが…

最近は「ローンを組みたくない」「無駄な利子を払いたくない」という人が増えているといいます。確かに住宅ローンは借金なので、リスクを伴います。しかし一括現金で払える金額ではないので、よほどのことがない限りは、ローンを活用せざるを得ないでしょう。さらに持ち家であれば、固定資産税といった税金も発生しますので、持ち家の場合、どうしても賃貸にはない出費は発生します。それを許容できないのであれば、持ち家は向いていないといえるでしょう。

そもそも、賃貸と持ち家、それぞれにメリットがあり、それぞれにデメリットがあります。

持ち家のメリットは「老後の心配がない」「資産となる」「団体信用生命保険(団信)の加入で保険料が不要」といったところ。一方「ローンのほか、維持費もかかる」「万が一災害が起きると、大きな負債を抱えることになる」「マンションの場合、自身の意志と関係なく、建て替え等が決まる」といったデメリットが想定されます。

賃貸のメリットは「いつでも好きなところに住める」「金利や固定資産税を払わなくていい」「住宅ローンを背負うことはない」など。一方で「家賃のほか、更新料や敷金、礼金などを払う必要がある」「資産が残らない」「老後に不安が残る」といったデメリットが想定されます。

結局のところ、持ち家か賃貸か、どちらがいいかはその人の価値観、人生観で選ぶしかないといえるでしょう。ただ賃貸派の人であれば知っておきたいのが、将来の「家なしリスク」。特に単身者は要注意です。「物件の立て替えで引越しを迫られたが、新居が見つからない……」、そんな事例が後を絶ちません。株式会社R65が行った調査によると、高齢者の4人に1人が「不動産会社に入居を断られた」とか。さらに「5回以上断られた」という経験がある人は13.4%にもなるといいます。

なかには「高齢者が増えている一方で、若年層が減っているから、家主は高齢者をターゲットにするしかない。今後は単身の高齢者でも家を借りられるようになる」という専門家もいますが、一方で「いわゆる築浅物件は今まで通り単身高齢者はお断りのまま。単身高齢者が借りられるようになるのは、相当、築年数の経ったものに限る」という声も。賃貸派のほうが、遠い未来を見据えていたほうがリスク回避になりそうです。

もしマンションを買ったなら…平均月10万円弱の返済

——とりあえず、自分は購入派かな

そう決めたマイホーム購入者。その平均値をみていくと、40歳前後で30年ほどかけて返済することを見据えて3,000万円ほどを借り入れしてマイホームを実現する、というのが一般的といえるでしょう。

【新築マイホーム購入者の平均像】

■新築注文住宅

世帯主平均年齢:40.4歳

購入資金(住宅+土地):4,606万円(うちローン3,409万円)

住宅建築資金返済期間:32.1年

土地購入資金返済期間:33.8年

■新築分譲戸建て(一次取得者)

世帯主平均年齢:39.6歳

購入資金:3826万円(うちローン2,855万円)

平均返済期間:32.7年

■新築分譲マンション(一次取得者)

世帯主平均年齢:39.5歳

購入資金:4,674万円(うちローン3,337万円)

返済期間:32.0年

出所:国土交通省令和3年度住宅市場動向調査』より

仮に分譲マンションを平均値通りにローンを借りて購入した場合の月返済額を考えてみましょう。返済方式は元利均等、金利は年0.6%とします。利子分は331万4,118円で、トータルの支払額は3,668万4,118円。いい車を1台余分に買うだけの利子を払う必要があります。月々の支払額は9万5,531円と10万円を切ります。

40代前半のサラリーマンの給与(所定内給与)は平均月36万4,600円、手取りにすると28万円ほどです。ここから住宅ローンを差し引いた20万円弱が生活費となります。

【年齢別「サラリーマン」給与の推移】

20~24歳:218,000円

25~29歳:256,700円

30~34歳:295,600円

35~39歳:333,400円

40~44歳:364,600円

45~49歳:390,500円

50~54歳:422,600円

55~59歳:428,600円

60~64歳:351,600円

出所:厚生労働省令和3年賃金構造基本統計調査』より

住宅ローン…知っておきたい2大リスク

平均であれば、10万円を切るような返済月額になる住宅ローン。しかし収入減などにより返済が難しくなることのほか、大きく2つの注意点があります。

まずは完済のタイミング。40歳で30年を超えるローン返済を抱えると、完済は70歳を超えてから。現役のときはローン返済に加えて、子どもの教育費もあり、家計のやりくりは大変でしょう。子どもから完全に手が離れるのは、ちょうど定年を迎えるタイミングということも珍しくありません。以前、そのタイミングは50代前半くらいで、60歳を迎えるまでが老後資金の貯め時でした。それがないまま、定年を迎えてしまうわけです。

最近は定年後も再雇用などで働き続けることも珍しくありませんが、それまでと比べて、3割ほど収入はダウン。なかには半分くらいになることも珍しくありません。そのなか、ローン返済に加えて老後資金も、という余裕はなく、あれよこれよと70歳を超えて、何とか完済。このときは年金だけが頼りの生活。足りない分は貯蓄を取り崩して暮らしていく、というのが定番ですが、その貯蓄が十分ではない、という事態に陥る可能性があるのです。

40歳からのローン返済生活。何も考えなければ、苦しい年金生活になることを見据えて、計画的な資産形成を考えていきましょう。

もうひとつが金利の上昇。たとえば、先ほど金利0.6%として30年間の返済プランを考えましたが、5年後、金利が1%に上昇したらどうでしょう。返済額は月5,000円ほどアップします。2%に上昇したらどうでしょう。返済額は月2万円ほどアップします。3%に上昇したら月4万円以上、5%に上昇したら月7万円以上……これが金利上昇の恐ろしさです。

日本人は随分と「金利上昇」に疎くなり、上昇局面での対処法を多くの人が分かっていません。各方面から「金利は上昇する」といった警告は聞こえていますが、「まだ大丈夫」という専門家も。では30年の間、金利は据え置きか、といえば、そのほうが非現実的。少しの金利上昇でローン返済が苦しくなることは確実なので、常に対応を考えておくのがベストです。

(※写真はイメージです/PIXTA)