電子コミックサービス「LINEマンガ」が、2022年に支持を集めた作品のランキングを発表しました。

【時をかける、浮気夫への復讐劇! 怪作揃いのLINEマンガ年間ランキングの画像・動画をすべて見る】

2022年の総合ランキングで1位に輝いたのは、女性部門の1位でもあるロマンス作品『私の夫と結婚して』。2位には男性部門1位の『喧嘩独学』が続いています。

ランキング全体を通じて感じたのは、「ロマンス」「回帰」「チート能力」などの要素を持つ作品の人気の高さ。

総合ランキング1位の『私の夫と結婚して』も、非業の死を遂げた主人公が10年前に「タイムスリップ(回帰)」し、自分の恋と決着をつけるという「ロマンス」の要素を持っています。

今回はそういった作品の中から、筆者が一読者として注目している『私の夫と結婚して』『ナノ魔神』『強化レベル99 木の棒』の3つについて、掘り下げて紹介したいと思います。

胃の痛くなるドロドロの復讐劇『私の夫と結婚して』



『私の夫と結婚して』は、癌に侵された主人公・神戸美紗が、追い打ちをかけるように夫・友也と親友・麗奈に不倫され、失意のままに亡くなるところから始まる物語。

目を覚ました美紗は10年前に回帰していて、「そんなに欲しいならあなたが私の夫と結婚しなさい」と、自分を裏切った2人が破滅するように復讐を開始します。

『私の夫と結婚して』の素晴らしい点は、リアリティとフィクション性の使い分けではないでしょうか。

本作の舞台は、美紗・友也・麗奈が勤める食品メーカー。そこで繰り広げられる戦いは、人事権を握る課長をどのように懐柔するか、いかにして自分のプロジェクトを通すかなど、リアリティを伴ったものです。



作中では、適当に仕事をする麗奈がアレルギー成分の説明をしないまま試食品を渡してしまい、食べた人が救急車で搬送されるというシーンも。その生々しさに「もしこれをやらかしたのが自分だったら……」と思うと、読んでいて胃がキュッとなりました。

身の毛がよだつ生々しさがあるからこそ、イケメン部長・鈴木亘の存在や、「えっそうなるの!?」という驚きに溢れる展開がより活きてくるのだと思います。

未来の力で最強の男へ! 『ナノ魔神』



『ナノ魔神』は、中国やアジア圏で発達した「武侠もの」と呼ばれる武を追求する達人たちの世界を描く作品です。

主人公は、強さのみを求める勢力・天魔新教の教主の妾の子として生まれた天黎雲(てんりうん)。後継者争いによって命を狙われる黎雲の前に、突如未来から来た子孫を名乗る人物が現れ「ナノマシン」を注入。未来の力を得た黎雲は急速に成長し、自分の命を狙う他の後継者候補たちと戦います。

「武侠もの」では心と体を鍛え、技を磨くことで成長を遂げていくのですが、ナノマシンの力を駆使する黎雲は、そのスピードが尋常ではありません。強敵との戦いの後はシミュレーションで何度も反復して練習し、ナノマシンの力で代謝を活性化することで、武道に適した体に自分をつくり変えてしまいます。



そうした成長によって、剣に気を帯びさせたりと使える技もどんどん派手に。「武侠もの」における肉体の成長は、単に筋肉がつくといった次元ではありません。中には骨格自体が変化する「換骨奪胎(かんこつだったい)」と呼ばれるものもあります。

「武侠もの」は今のエンタメに広く普及している「気」などの概念の出典に近い文化でもあるので、読んだことがない人にとっては、親しみ深くも新鮮な感覚が味わえると思います。



チートを使ってもゲームは楽しいのか? 『強化レベル99 木の棒』



最近「LINEマンガ」のチートもので勢いがある『強化レベル99 木の棒』。

世界一のVRゲーム『クロノライフ』をプレイし、なけなしの金で初心者セットに課金した主人公・パンイチは、女性プレイヤー・ルナに騙され殺されてしまう。

リベンジのために装備を強化するも失敗続きで残されたのはパンツ1枚。しかし、やけくそで初心者用装備の木の棒を強化してみると、天文学的な確率で、一振りすれば大陸を真っ二つにできる「強化レベル99 木の棒」が完成する…。

タイトルそのまんまの『強化レベル99 木の棒』は、基本的にはハイテンションで勢いのあるギャグ漫画。最強の武器を手にしたパンイチは、とりあえずラスボスを倒してみたり、大陸を真っ二つにしたせいでキレた300万人の他プレイヤーを返り討ちにしたりと大暴れ。



そんな、チート能力で好き勝手しているだけのように見える『強化レベル99 木の棒』では、全てを破壊する「強化レベル99 木の棒」という主軸があるからこそ、ゲームの楽しさとはなんなのか? という問いを投げかけてきます。

課金して強い装備を得れば楽しいのか? 現実世界が充実してないから非日常感のあるゲームが楽しいのか? そんな問いにぶつかるプレイヤーたちと、「俺が楽しいように遊ぶから楽しいんだよ!」と全てを薙ぎ倒すパンイチ。

ギャグ漫画だからこそ、ゲームをただただゲームとして楽しむパンイチの姿は、ふとした瞬間に心に何かを残してくれるかもしれません。……やっぱり全然何も残してくれないかもしれません。パンイチだし。

2022年に「LINEマンガ」で人気の作品を分析

「LINEマンガ」では、毎年上半期と下半期に1回ずつランキングを公開しています。

2021年には性別ごとにランキングが集計され、女性部門では『女神降臨』が、男性部門では『喧嘩独学』が1位に輝きました(外部リンク)。

2022年は今回は、1月1日から10月31日までの期間を対象に、「LINEマンガ」に掲載されている連載作品・単行本の読者数、いいね数、購入数など複数の要素を加味して順位が算出。性別だけでなく年代別にも集計されており、より詳細なトレンドがわかるようになりました。

総合ランキングには7位の『キングダム』(集英社)や8位の『アオアシ』(小学館)、10位の『東京卍リベンジャーズ』(講談社)、13位『ONE PIECE』(集英社)、18位『呪術廻戦』(集英社)のようなアニメや映画などでも話題の作品が並ぶ中、webtoonが上位を独占する形になりました。

「LINEマンガ」トップには「みんな読んでる人気急上昇作!」というタブもあるので、そういった部分から有名作品にアクセスする人も多いでしょう。

そのほかの作品では「LINEマンガ」オリジナル作品、特にwebtoonが多く読まれています。総合ランキングでは、『外見至上主義』をはじめとする男性向け作品が多いものの、トップに『私の夫と結婚して』が、そのほかにも『再婚承認を要求します』『君の死を望んでいた』などの女性向け作品がランクインしており、女性ファンの勢いを感じます。

2022年「LINEマンガ」総合ランキングトップ20
1位:『私の夫と結婚して』
2位:『喧嘩独学
3位:『入学傭兵』
4位:『女神降臨』
5位:『外見至上主義
6位:『俺だけレベルMAXなビギナー
7位:『キングダム
8位:『アオアシ
9位:『鉄槌教師』
10位:『東京卍リベンジャーズ
11位:『再婚承認を要求します』
12位:『ナノ魔神』
13位:『ONE PIECE』モノクロ版
14位:『全知的な読者の視点から』
15位:『君の死を望んでいた』
16位:『必ずハッピーエンド
17位:『チュートリアル塔の廃人』
18位:『呪術廻戦
19位:『義家族に執着されています』
20位:『肝臓を奪われた妻』


年代別に見ると、20代の男女別ランキングでは男性部門に横読みのメディア化作品が、女性部門にも『明日、私は誰かのカノジョ』(小学館)『SPY×FAMILY』(集英社)などの人気作が入っており、横読みとwebtoonをフラットに読んでいることがわかります。

一方、10代の男女別ランキングでは、男性部門・女性部門ともに20代に見られた横読みのメディア化作品がランクインしておらず、よりwebtoonに親しんでいることが読み取れます。







「LINEマンガ」注目作品『私の夫と結婚して』