
アメリカの国立公園で26年にわたり行われた調査によると、ネコ科動物を終宿主とする寄生虫「トキソプラズマ」に感染したオオカミは、群れのリーダーになる確率が非常に高いのだそうだ。
また感染すると群れから独立する時期も早くなることも明らかになっている。
群れのリーダーになるのも、群れから独立するのも、どちらも危険をともなう行動だ。感染されたオオカミのこうした奇妙な傾向は、この寄生虫の影響で性格が大胆になることと関係があると考えられている。
【画像】 トキソプラズマ症を引き起こす寄生虫「トキソプラズマ」
「トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)」は、長さ4~7μmほどの寄生性原生生物で、さまざまな恒温動物に感染して「トキソプラズマ症」を引き起こすことで知られる。
トキソプラズマが繁殖するには、ネコ科動物の宿主が必要(無性生殖はこの限りでない)になるが、人間やオオカミなど幅広い動物に感染できる。
感染しても、健康な成人の場合、ほとんどの場合症状はないが、行動が不規則になったり、大胆になったりすることがあるらしいこともわかっている。
トレイルカメラの前を横切るイエローストーン国立公園のオオカミの群れ。このビデオは、個体間のオオカミの行動に見られるわずかな違いを示している
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トキソプラズマに感染すると群れのリーダーになる確率が上がる
『Communications Biology』に掲載された今回の研究は、イエローストーン国立公園内のオオカミを26年にわたって調査し、トキソプラズマ感染がオオカミに与える影響を分析したものだ。
研究チームは1995~2020年にかけて、200頭以上の野生のオオカミから採血し、感染の有無を検査。さらに観察を通じて、オオカミの行動が変化していないかどうか探った。
その結果、トキソプラズマに感染した若いオオカミは、そうでないオオカミよりも早く群れを離れる傾向があることが判明した。
たとえば、一般にオスは最長で21か月間、群れで過ごしてから、そこを離れる。ところが感染したオスは、生後6か月で群れを出る確率が50%高かったのだ。またメスの場合は通常48か月だが、感染すると30か月で群れを出る確率が25%高かった。
さらに、感染したオスは、感染していないオスに比べて46倍以上も群れのリーダーになる可能性が高かったという。
また、トキソプラズマの最終宿主であるピューマ(クーガー)が生息する地域で暮らすオオカミは、感染率が高いことも判明している。
上段は3つのオオカミの群れ(Pack A、B、C)の生息域とクーガーの生息域の重なり具合から予測される感染確率を表した図。赤いオオカミは、予測される感染したオオカミの割合。またクーガー密度は、100km2あたり1.8匹以上いる地域のみ格子模様で表されている。
下段は、24.9か月までに陰性オオカミと陽性オオカミが「群れを離れる」「群れリーダーになる」という2つのリスク行動をとる確率の予測値を表す(灰色線は95%信頼区間)/Credit: Kira Cassidy
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大胆な行動が感染を拡大させ、危険な行動につながる可能性
ピューマもオオカミも共に捕食上位者で、対象とする獲物が同じになることもあるが、通常は縄張りが重ならないよう回避する行動をとる。
ところが、トキソプラズマに感染したオオカミは、ピューマの縄張りに入ることを恐れなくなるという。
『Nature Communications』誌に掲載された以前の研究によると、トキソプラズマに感染したハイエナやラットは、テストステロンの分泌が増加し、大胆さが増したことが示唆されている。
研究チームは、イエローストーンのオオカミたちも、トキソプラズマが脳に影響することで、行動が大胆になり、他者から挑戦を受けて立つようになったのではないかと考えている。
感染したオオカミは、群れを率いてピューマや他の大型捕食獣の縄張りである、危険な地域に入り込む可能性がある。
これが繰り返されることで、オオカミがどんどん感染していくという悪循環が生じ、将来的にさらに危険な行動を起こすようになるかもしれないそうだ。
追記(2022/12/03)本文を一部修正して再送します。
References:Wolves infected with a common parasite may be much more likely to become pack leaders (Update) / written by hiroching / edited by / parumo

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