作者を含む7名の宗教2世の半生を描いたノンフィクション漫画『「神様」のいる家で育ちました ~宗教2世な私たち~』(文藝春秋)。別の出版社のウェブメディアへの掲載時から大きな波紋を呼び、連載中にも関わらず公開終了となった問題作です。



菊池真理子『「神様」のいる家で育ちました宗教2世な私たち~』(文藝春秋



宗教2世とは、親の信仰によって生活に様々な影響を受ける子供たちのこと。


本記事では「はじめに」を紹介。後半では、ご自身も宗教2世である作者・菊池真理子さんに、発売までの経緯や作品に込めた思いをお聞きしました。








宗教2世の共通点「自分で選んだことじゃない生き方を強要されるつらさ」
――トークイベントがこの漫画を描くきっかけになったとのことですが、具体的にどんなイベントだったのでしょう?


菊池真理子(以下、菊池):以前に描いた『毒親サバイバル』で取材した詩人の成宮アイコさんと一緒に主催したイベントで、今回の新刊の第一話に出ている詩人のiidabiiさんや、評論家の真鍋厚さんなど、宗教2世の人たちが自由に話せるイベントでした。配信のイベントだったんですが、たくさんのコメントをいただきました。それを見た編集者から「漫画にしませんか?」と声がかかったのがきっかけです。



菊池真理子さん



――『毒親サバイバル』では、毒親を持つ人たちを取材されていましたが、新刊『「神様」のいる家で育ちました』は家族だけでなく、さらに宗教というかなりデリケートな部分にも踏み込んでいます。宗教2世の方々を取材してみて、印象に残ったエピソードはありましたか。


菊池:かなり回復している人や、まだ回復途中の人など濃淡はあるんですが、それはいろんな要因があってのただの結果論であって、その前段階として「自分で選んだことじゃない生き方を強要されるつらさ」が彼らの共通点としてあるということが、強く印象に残っています。


――作品に登場する宗教2世の人たちは、物心ついた時から、四六時中「○○しないと神や親に見離される」と脅されたり、あるいはその恐怖を常に抱いていて、非常に過酷な環境だと思いました。第一話では「背中にナイフを突き付けられてるような日々」だと表現されていましたね。


菊池:「ナイフ」と言ったのは、iidabiiさんでした。彼がトークイベントの中でおっしゃっていて印象的だったのは、1世の人、つまり自分で選んで信仰した人が、「(教義によっていろんな制約を課せられるので)ピーンと張り詰めた糸みたいな人生」だと表現したんですって。そして、そこから脱会した時に「糸がぷつんと切られたようだ」と。
iidabiiさんはそれを聞いたときに、2世は糸どころじゃなくて、何かに後ろからナイフを突きつけられていると感じたそうです。


◆人生って悪者はいないですからね



菊池真理子「酔うと化け物になる父がつらい」秋田書店



――2017年に刊行された『酔うと化け物になる父がつらい』で、タイトル通りお父さんをめぐって、ご自身のご家族を描いていますが、その第1話のラストお母さんが亡くなり、非常に衝撃的でした。今回はそのお母さんやご自身のことについて描かれています。


菊池:『酔うと化け物…』の時は、「お母さん可哀想ですね」という意見が多かった。でも、今回この本を出したことによって、「そりゃお父さん飲むよね」と、イメージが反転した人もいるんじゃないかなと思っています。
でも人生って悪者はいないですからね。どちらが悪いとかじゃなくて、どの視点から見るかっていうだけで。


――ご自身の家庭について、描きたくないなと思うこともあったと思います。そういう時、どうやって乗り越えたのでしょうか。


菊池:たぶん私が描きたくないって思うことは、きっと皆さんが読みたいと思うところだろうと思って描きました。


◆忖度せずに描いたのに途中から忖度してくださいと言われてしまった



――『「神様」のいる家で育ちました』第5話を発表後、連載中にも関わらず、公開終了となりました。あとがきに描かれていましたが、編集部から宗教ではなく毒親の話として描くのはどうかと打診された時に、「みなさんが伝えたいのはそんなことじゃない」とハッキリ断ったのは、非常に勇気のあることだと思いました。


菊池:忖度(そんたく)せずに描いたのに、途中から忖度してくださいと言われてしまったので、それだと意味がないなと思って。今まで世間がしてきたことを変えていきましょうって担当さんが言ってくれたのがそもそものスタートだったのに、結局同じことをしましょうってことになってしまったので、それは飲めませんと言って、連載のお断りをしました。


――公開終了となった時は、SNSで大きな話題となりました。いろんな反響があったと思いますが、どんな声に励まされましたか?


菊池:当事者の人はわかってくれるだろうという気持ちで描いていたんだけれども、宗教2世じゃない人たちから、「せっかく知る機会をもらったのに、途中で終っちゃうのはひどい」という声をいただいたのは、嬉しかったですね。


――内容もですが、この本が生まれるまでの過程も波瀾万丈ですね。


菊池宗教2世がどういう目に遭ってきたかを、この本を出す過程がもう1回再現しているなっていう感じがあって。まさしく追体験というか。クレームが来た時も、こっちもアドレナリン出てるから、そんなにショボンとはならなくて。来たか!みたいな(笑)


◆安部元首相銃撃事件の容疑者が宗教2世とわかって…
――そして、文芸春秋社から発売が決まった矢先に、安部元首相銃撃事件が発生しました。容疑者が宗教2世だとわかった時、どう思われましたか?


菊池ニュースを聞いて、本当に単純にビックリして。容疑者が宗教2世だとわかった時に「宗教2世ってこういうヤバイ奴だと思われたらどうしよう」と、最初は怖かったです。


――事件後、宗教2世という言葉がメディアで盛んに取り上げられるようになりましたね。


菊池:私がこの漫画を出しても、こうはならなかったと思います。どうしても山上容疑者の事件があってのことだと思うので、やはり複雑ですよね。あんな事件は肯定できないし、起きて欲しくない事件だったけれども、それによって今こういう風に注目されているという事実を受け止めるには、言葉を選びますね。難しいです。


――もし山上容疑者と話す機会があるとしたら、どう声をかけますか?


菊池:なんだろう…。やっぱり「つらかったね」ですかね?気の利いた言葉が出てこないですね。


◆当事者じゃない人には、想像してほしい
――文藝春秋さんでは、この作品を刊行するにあたって、何か苦労はありましたでしょうか?


担当編集:いえ、うちは余裕でした(笑)。むしろ「なんでこんないい作品を本にしないんだろう?」って。


――さすが文春!(笑) これから読む方に、メッセージがあれば。


菊池:本は売れて欲しいけど、それとは反対のことを言ってしまうんですが、まず自分が宗教2世の方は、読むのがつらかったら無理して読まないでください。自分の調子がいい時に、タイミング見計らって読んでいただければ。当事者の方でこの本を読める方には、苦しんでるのは1人じゃないよって伝えたいです。


当事者じゃない人には、勧誘の人が連れてくる子供にはこういう苦しみがあるかもしれないし、もし自分の友達がこういう状況で生まれ育っていたらってことを想像してほしいなと思います。自分の大事な人が実はこういう環境だったらと考えたら、多分みんな思いやりを持てるんじゃないかと。



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宗教2世という言葉が注目される以前から、「もちろんそれに幸せを見出し信仰を継承する人たちもいるけれど、なかには成長するにつれ、苦しみを感じる子どもたちもいるのです」と訴え続けてきた菊池さん。


宗教団体からクレームが来た時も、作品が公開中止となった時も、そして元首相銃撃事件が起きた時も、宗教2世として誠実に向き合った彼女の作品が、今多くの人に読まれ、支持されていることは非常に大きな意味を持つのではないでしょうか。


長い間かき消されてきた宗教2世たちの切実な声が込められた一冊。実は身近にいる彼らのことを思い、向き合うきっかけになるはずです。


<文/藍川じゅん 写真/深野未季(文藝春秋)>


【藍川じゅん】80年生。フリーライターハンドルネーム永田王。著作に『女の性欲解消日記』(eロマンス新書)など。