(馬 克我:日本在住中国人ライター

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 11月24日新疆ウイグル自治区ウルムチ市の高層集合住宅で火災が発生した。消防車が駆け付けたが、居住区に停められた乗用車によって行く手を阻まれた。

 当時、ウルムチを含む新疆ウイグル自治区では100日以上にわたりロックダウンが続いており、居住区の乗用車は長期間起動されていなかった。そのためバッテリーが上がり、エンジンがかからなくなっていたのだ。

 さらに、集合住宅の出入口に設置された門は、防疫のために外側から施錠されており、内側から開けることができなくなっていた。のちに住民が発信した情報によると、住民たちは1階の住人の家に入り、その家の窓から外に逃げたという。

 最終的に、この火災で9人が重軽傷を負い、子供3人を含む10人が亡くなった。

ウルムチ火災を発端に中国各地で怒りが爆発

 11月25日、ウルムチ市政府は記者会見で、ゼロコロナ政策の消火救命活動への影響を認めず、「住民は非常出口の位置を熟知していなかった」「すぐさま逃げなかった」と述べた。この返答に激怒した中国人たちが、ネット上で激しく抗議の声を上げた。同日、ウルムチの一部の市民が街に繰り出して市政府を包囲し、封鎖解除を要求した。

 26日午後、南京伝媒学院の女子学生が構内で1枚のA4サイズの白い紙を掲げ抗議した。その後、学生は徐々に増え続け、ゼロコロナ政策に対する初の大学構内での抗議となった。

 そしてその晩、上海の一部市民は「烏魯木斉(ウルムチ)中路」という名の市内の通りに集まり、新疆の人々を支持しエールを送った。

 太平洋戦争期、日本は上海に対し実質的な支配権を掌握していた。日本は、ソ連が策動する新疆ウイグル独立運動に反対しており、当時、日本政府と協力していた汪兆銘政権は、新疆ウイグルとの関係性を示すため、上海の3本の道を「迪化路」と改名した。「迪化」とは当時のウルムチの名称である。

 1954年中国共産党政府は、迪化市を「烏魯木斉市」に改名し、同時に上海の迪化路も「烏魯木斉路」に変更した。烏魯木斉路は、中路、南路、北路に分かれ、今回の抗議活動は中路で発生した。

 ウルムチ市の火災と抗議活動は、3000キロの距離を超えて上海において奇妙に呼応した。それは、烏魯木斉路という通りの名と無関係ではない。11月27日夜、烏魯木斉中路の標識は撤去された。その目的は、人々が集合地点を見つけられないようにするためだという。

「共産党、退陣!」「習近平、辞めろ!」

 誰もが驚いたのは、上海市民が、抗議の際に白い紙を掲げるだけでなく、「共産党、退陣!」「習近平、辞めろ!」というスローガンを叫んだことだ。

 1989年天安門事件以来、公共の場で大衆が同時に「共産党、退陣!」と叫んだのは、おそらくこれが初めてだろう。

習近平、辞めろ!」 このようなスローガンを聞くと、一部の人は10月13日に北京の四通橋で起きた事件を思い起こすだろう。一人の市民、彭載舟(本名:彭立発)が工事現場の作業員に扮して、橋に巨大な横断幕を掲げた事件だ。そこには、いくつものスローガンが書かれており、そのうちの1つには、「授業をボイコットせよ、仕事をボイコットせよ、独裁国賊の習近平を罷免せよ」と書かれていた。

 11月27日夜、1000人を超える人々が、北京の大使館エリアである亮馬橋に集まった。そこは、国連北京代表処からとても近い。人々は白い紙を掲げ、同時に一人の女性がスローガンを叫んでいた。

PCRはいらない、必要なのは食べること!
ロックダウンはいらない、必要なのは自由!
嘘はいらない、必要なのは尊厳!
文革はいらない、必要なのは改革!
指導者はいらない、必要なのは選挙用紙!
奴隷にはならない、公民になるのだ!」

 群衆は、この女性に続いてスローガンを叫んだ。この言葉は、まさに10月13日、四通橋で彭載舟が掲げた横断幕に書かれていた言葉だ。彭載舟は事件後に消えた。彼が、もう自分ひとりではないということを知っているかどうかは、定かではない。

ゼロコロナで疲弊した心に「杜撰な管理」の衝撃

 時を同じくして11月26日、蘭州市にある集合住宅の住人は、棟内で新型コロナウイルス陽性者が確認されたという通知を受け取った。しかし、住民はすでに何日も外出せず、他人と接触していない。それなのに、なぜ新型コロナウイルス感染者が出るのか疑問に思い、SNSグループチャットで同じ棟の住民に陽性かどうか確認をしていった。一人、また一人、自分は陽性者ではないと証言していき、結果、住民全員が陰性であった。

 その後、現地政府が派遣した検査員が集合住宅に来た際、住民は検査員を取り囲み、検査員のPCR検査証明を提示しろと要求した。ゼロコロナ政策下ではすべての人が24時間に一度PCR検査を受けなくてはならない。だが、検査員8人のうち24時間以内に検査を受けた者は一人もいなかった。その後、住民が強く要請して、検査員たちにPCR検査を受けさせた。すると、1人が陽性だった。

 この事件はすぐさま広まり、怒った一部の蘭州市民が封鎖された居住区から飛び出して、街頭のPCR検査所を押し倒した。

 毎日PCR検査をさせられている中国人は、検査がこのように杜撰(ずさん)で検査員ですら感染源となり得るという状況を知って大きな衝撃を受けることとなった。

検閲機関も追えない、とめどなく溢れた抗議の声

 ウルムチ、上海、南京、北京、蘭州での出来事は、SNSですぐさま広まった。中国のSNS上で、人々がこんなにも積極的に、大量の中国共産党批判の声を拡散する様子を、私はこれまで見たことがない。

 検閲機関が抗議内容を含む投稿を削除してもすぐさま人々は再度発信し、転載、拡散する。そんないたちごっこの状態となり、結果、多くの人が抗議の声を目にした。

 情報が拡散すると同時に、重慶、成都、広州、西安、武漢、鄭州などでも抗議の声が上がり、中国各地における70以上の大学構内でも抗議活動が行われたという。

 各都市や各大学における抗議には、それぞれの理由があるかもしれない。しかし、現在すでに一種の全体的な共鳴が起こっており、その中でも「白い紙」は最も重要な象徴となっている。

ワールドカップ中継で知った「世界の今」

 中国にいる筆者の友人たちの多くは、長期にわたるゼロコロナ政策による締めつけが抗議の主な原因で、ウルムチ火災が導火線になったと述べている。

 しかし、もう1点、今回の抗議の広まりと関係があると認識されていることとして、サッカーワールドカップの開催が挙げられる。

 中国の代表チームワールドカップには出場していないが、中国人サッカー観戦が非常に好きである(あの習近平も大のサッカーファンである)。カタールワールドカップが開幕し、数万人が毎日スタンドに密集し、マスクも付けずに大声援を送っている。その様子が中国人に与えた心理的打撃は計り知れない。

 一部の中国人は、ネット検閲を回避する方法「翻墻(ファンチャン)」を駆使し、中国国外の情報によく接しており、ゼロコロナ政策が荒唐無稽であることはとっくに知っている。しかし、多くの人々は共産党に洗脳されており、「ウイルスはとても恐ろしいものであり、共産党の政策がもっとも偉大で正しく、中国人民の命を守っている」というプロパガンダを信じ切っている。

 しかし、ワールドカップがこのデタラメの一角を剥がしたのだ。

 一部の人は中国共産党政府を風刺するために、CG(コンピュータグラフィクス)を駆使して試合をするサッカー選手マスクをつけた。そんな動画がネット上で大量に拡散された。

 そして、ワールドカップを中継する「中国中央電視台CCTV)」は放送方法を改定した。11月27日より、彼らは放送を30秒遅らせ、競技場でマスクをしていない観衆が映り込む際、画面を選手やコーチに切り替えるようにした。要するに、マスクをつけずに思いのままに盛り上がっている人々を中国国民の目に触れさせないようにしているのだろう。

市民のスマホチェックを開始した上海警察

 中国共産党には、民衆による大規模な街頭デモに専門的に対応する軍隊がある。それは「武警」と呼ばれ、軍隊と警察の間のような存在だ。主に重大な暴力事件や民衆による抗議活動に対処し、地震などの災害の救助活動に当たる。

 2018年以前、各都市のトップは武警の指揮権を持っていた。つまり、中国共産党が言うところの「群衆事件」が起こった際、地方都市のトップが武警の発動を検討することができた。地方政府が武力を保持していた、ということである。

 しかし2018年習近平は地方政府の武警部隊の指揮権を撤廃し、中央に権力を集中させた。つまり、習近平が自身の手中に収めたのだ。

 現時点では、各地方政府が指揮できるのは警察だ。各地で民衆の制圧に当たっているのはすべて警察である。

 上海では、11月28日より市民のスマホを抜き打ち検査する警察が現れた。警察は、市民の携帯上に検閲を回避する「翻墻」のアプリがないか、共産党政府の検閲に協力的な「微信(WeChat)」以外のSNSツールで連絡を取り合っていないかを確認している。

 成都では、11月27日、警察が電波を遮断する専門車両を出動させ、群衆が集まる地点の携帯の電波を遮断した。そして、群衆を追い散らした後、その場に残った人に殴打を加えたと言う。

 成都の友人は私にこのように述べた。「皆、基本的にとても平和的な抗議をしていた。ただ白い紙を掲げるだけで、警察と衝突することはなかった。しかし、突然、抗議活動に加わってきた人が数人いて、故意に警察と衝突した。その者たちが平和な空気をぶち壊した。一部の者は広東語訛りだった」

 友人は、これらの者は地方政府から派遣された可能性があるという。抗議の人々に混ざり込み、人々の感情をかき乱し、抗議活動を最終的に頓挫させようとしているのではないか、という見方だ。

 私も友人の判断に賛同する。なぜなら、同様のことが香港の民主デモでもよく起こっていたからだ。中国共産党政府が派遣した人々は、真の心で抗議する群衆に紛れ込み、暴力行為を働き、抗議活動に否定的な世論を生み出そうとするのだ。

習近平だけの「チャイナドリーム」

 11月28日朝9時、中国の大手ポータルサイト「網易」はトップニュースで、「カラー革命の勢力が蔓延、各地で計画的な騒動が発生、国外勢力の参与が明るみに」というタイトルの記事を配信した。

 記事の内容によると、各地の抗議活動で若者が叫ぶ欧米式の自由を謳うスローガンは中国人の特性には合っておらず、一部の人は香港・台湾訛りであった。参加者の一部は完全に外国人であり、成都では500元(約9660円)で雇われた人々が抗議に参加していた。つまり、「悪い輩」が政府に反対するよう人々を煽動している。これは「悪い輩」が金をかけて策略した抗議活動なのだ、という。

 中国のSNS上では、すでに一部の人々がこの記事を転載し始めている。習近平も記事を目にする可能性が大いにあり、今回の民衆の抗議活動に対する彼の理解と判断を後押しする材料になるだろう(習近平の情報収集ルートに関しては、本コラム「プーチンの次は、習近平なのか?『裸の王様』が血迷うとき」を参照)。

 現在、広東省ではゼロコロナ政策の緩和措置がとられるなど、人々は中国共産党政府が政策の方向転換をするのではないかと期待しているが、同時に中国各地の警察は抗議を行った人々を連行している。南京伝媒学院で最初に「白い紙」を掲げた女子学生も11月30日に警察に連行され、現在連絡がつかないという。

 2012年11月29日習近平は初めて「チャイナドリーム」という考えを示した。当時、私の友人でも多くの人が習近平を支持し、自分たちの暮らしは良くなっていくと信じていた。それからちょうど10年が経ち、これら友人たちは沈黙するか、習近平に反対する者になっている。

 友人の一人は言う。「私の今のチャイナドリームは、チャイナドリームがなかった10年前に戻ることだ」。

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