米アップルはサプライチェーン(供給網)におけるインドベトナム、台湾、米国への依存度を高めており、徐々にだが中国の比率を減らしつつある。ロイター通信や米メディアのジ・インフォメーション11月30日、アップルが公表している「サプライヤーリスト」を基に報じた。

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インド・ベトナムへの投資拡大

 ロイターが分析したところ、2019年までの5年間、アップル製品(部品も含む)の全世界における製造拠点のうち、中国が占める比率は44~47%だった。この比率は20年に41%に下がり、21年は 36%と、4割を切った。

 アップルとサプライヤー企業が、インドベトナムへの投資を拡大し、台湾や米国などの製造拠点からの調達を増やす中、グローバルな供給構造が変化しつつあるという。その一方で、アナリストや学者などは、アップルは今後何年もの間、中国に大きく依存していくだろうと指摘している。

 米コーネル大学のイーライ・フリードマン准教授は、「中国のサプライチェーンが一夜にして消滅することはないだろう。アップルなどの企業にとって中国とのデカップリングは当面現実的でない」と指摘する。だがその一方で同氏は、「調達先の分散化は加速する」と予測している。

25年まで、全iPhoneの25%をインド生産

 米テッククランチによると、米銀大手JPモルガン・チェースのアナリストらは、アップルが22年内にスマートフォン「iPhone 14」シリーズの世界生産の約5%をインドに移管し、25年までに全iPhoneの25%をインドで生産すると予測している。

 また、パソコン「Mac」 やタブレット端末「iPad」、腕時計型端末「Apple Watch」、ワイヤレスヘッドホンAirPods」を含むアップル製品全体の中国以外での生産比率を、25年までに現在の5%から約25%に引き上げるとみている。

 中国での製造の減少分を補えるほどの国・地域は今のところない。ロイターの分析によれば、19~21年にかけて、アップルの製品・部品の製造拠点が最も増えた国・地域は米国で、この期間の米国の比率は7.2%から10.7%に上昇した。これに次いだのが台湾で、同6.7%から9.5%に上昇。ベトナムは同2.2%から3.7%に上昇した。インド生産の規模は依然として小さく、この期間に同1%未満から1.5%に上昇した程度だ。

 コーネル大学のフリードマン氏は、「ベトナムインドは、中国のような規模、品質、納期で生産できない状況だ」と指摘する。

iPhone受託シェア7割の鴻海、大半を中国で製造

 サプライヤーリストは、アップルが過去1年間に直接取引したサプライヤーの上位98%をカバーしており、それら企業が世界中に持つ600以上の製造拠点も記している。iPhoneやiPadなどのアップル製品の組立業務を請け負う、電子機器受託製造サービス(EMS)企業のほか、半導体やディスプレーアルミ・ガラスケース、ケーブル、回路基板などの部品メーカーも含まれる。アップルは各サプライヤーとの取引額を公開していない。また、常に新たなサプライヤーが加わるため、リストの内容は毎年変わる。

 このうち、台湾のEMS大手、鴻海(ホンハイ)精密工業はアップルからiPhoneの組立業務を受託し、世界シェアで約70%を持つ。

 鴻海はiPhoneの大半を中国・鄭州工場(河南省鄭州市)で生産している。同工場では、22年10月下旬に新型コロナウイルス感染者が確認され、工場と宿舎内に隔離されていた従業員らが集団で脱出する騒動が起きた。鴻海は人員補充のために新たな従業員を雇ったが、22年11月22~23日にはこれらの新人工員が手当や衛生環境の不備などを巡って大規模な抗議行動を起こした。

 アップル製品の製造拠点が中国に集中することのリスクが高まっている。こうした中、鴻海はiPhoneのインド生産を拡大させる。ロイターによればインドのiPhone工場で従業員数を今後2年間で4倍にする計画だという。

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(写真:ZUMA Press/アフロ)