ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、いわゆるウクライナ戦争は11月24日で9か月となった。いまだ、ウクライナ戦争の終結に向けての和平交渉再開への道筋が見えてこない。

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 これまで4回の対面での交渉と1回のオンラインでの交渉が行われた。最後の第5回目の交渉は、3月29日トルコの仲介によりイスタンブールで開催された。

 その時は、ウクライナの「中立化」(NATO北大西洋条約機構・非加盟)、ウクライナの「武装解除」、クリミア半島並びに「ドネツク人民共和国」および「ルガンスク人民共和国」の地位問題などの6項目が話し合われ、合意に近づいた項目もあった模様である。

 しかし、それ以降、交渉は行われていない。

 2月の侵攻開始当初、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領ウラジーミル・プーチン大統領に対話を求めていた。

 だが、ブチャの虐殺は、和平交渉にとって大きな転換点となった。

 ゼレンスキー氏は、4月4日、多数の民間人が犠牲となった首都キーウ近郊のブチャを訪れ、「ロシア軍ウクライナでした残虐行為の規模を見るとロシアとの和平交渉は非常に難しくなった」と語った。

 筆者は、この時にゼレンスキー氏は、戦争に勝利し、プーチン氏を戦争犯罪の罪で必ず処罰しようと決意したのだと見ている。

 これ以降、和平交渉機運は急速に萎み、交渉は一度も開催されていない。

 今、ウクライナ軍は、東・南部の戦場で、多くの犠牲を払いながら、ロシア軍との厳しい戦闘を繰り広げている。

 ゼレンスキ―氏およびウクライナ国民の徹底抗戦の意志を支えているのは、ウクライナ領土からロシア軍を排除し、優位に和平交渉を進め、なんとしてもプーチン氏を戦争犯罪の罪で処罰したという強い願いであろう。

 ところが、今、欧米諸国からウクライナに対してロシアとの早期和平を求める声が大きくなっている。

 その理由の一つは、欧米各国の「ウクライナ支援疲れ」である。

 侵攻当初と比べウクライナへの関心は薄まり、並行して進むエネルギー価格の高騰への不満が高まっている。世論の動き次第では、今後の支援態勢に影響が生じる恐れもある。

 もう一つの理由は、ジョー・バイデン大統領の「アルマゲドン発言」が、米国民の間に引き起こした「核戦争の恐怖」である。

 そこで、バイデン政権は、米国民の恐怖を和らげるために、ウクライナに対し和平交渉を促している。

 ところで、今後の戦況の見通しであるが、泥濘期が終わり、地面が凍結し戦車など機動性が高まる厳冬期に入り、戦闘が激化するという予測がなされている。

 現在、ウクライナ軍は、東・南部の戦いを優位に進めている。その勢いでクリミア半島の奪還までも狙っている。

 ウクライナは、厳しい冬の到来を反撃のチャンスとして捉えていると見られる。

 ハウリロウ国防次官(退役少将)は、英ロンドンを訪問中の11月19日、英民放ニュースインタビューに応じ、ウクライナ軍がクリスマスまでにクリミア半島に進撃し、来春には戦争を終わらせることができると主張した。

 一方、ロシア軍は、現在は、反転攻勢を強めるウクライナ軍に対して苦戦を強いられているが、これら来る厳冬期の間に兵員の増員を進め、軍を再配置し、来春に攻勢に移ると見られていた。

 ところが、ウクライナ軍の動向を察知したロシア軍は、部隊の再編成を急ぎ、数週間以内に東部で攻勢に出るとの見方が出てきた。

 以上のことから、これから来る厳冬期の間に、ウクライナの東・南部の戦場で、ウクライナ戦争の帰趨を決する一大決戦が繰り広げられかもしれない。

 ウクライナ戦争をウクライナの勝利で早期に終結させるためには、西側諸国ウクライナが要望する最新兵器を十分に供与しなければならない。

 西側の十分な軍事的支援を受けたウクライナ軍が東・南部の戦場でロシア軍に勝利した時に、そこから新たな和平交渉が再開するであろう。

 さて、本稿では、これまでの停戦・和平交渉の経緯を振り返り、新たな和平交渉再開後の見通しを予測してみたい。

1.停戦交渉の経緯

 現在行われているウクライナロシアの交渉の内容は、戦争の終結を目指しており、明らかに停戦交渉でなく和平交渉である。

 海外のメディアは、当初から「peace talks:和平交渉」としているが、日本のメディアは停戦交渉としてきた。

 最近は日本のメディアの中にも和平交渉を使用するところもある。本稿ではトルコでの第5回目までの交渉を停戦交渉とし、それ以降を和平交渉とする。

(1)第1回目の停戦交渉:2月28日

 ロシアウクライナの代表団は2月28日ウクライナ国境に近いベラルーシ南部ホメリ地方で、初めての直接交渉を行った。具体的な交渉内容は公表されていない。

(2)第2回目の停戦交渉:3月3日

 第2回目の交渉はベラルーシ西部のベロベージの森で開催された。2回目の交渉で双方は人道回廊設置に合意した。

 5日と6日にはロシア軍が包囲する南東部マリウポリなどで住民の避難が試みられたが、周辺で戦闘がやまず、避難や人道物資の搬入は実現しなかった。

(3)第3回目の停戦交渉:3月7日

 第2回目同様ベラルーシ西部のベロベージの森で開催された。ロイター通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は停戦の条件として、ウクライナNATOなどに属さず中立を保つよう憲法改正を求めた。

 また、クリミア半島の併合と、親ロシア派が実効支配するウクライナ東部のドネツクルガンスクを主権国家として認めることも挙げた。

 ウクライナ側には受け入れがたい内容である。

 ロシア国防省は7日、ウクライナの首都キエフ、南東部の要衝マリウポリ、北東部のハリコフ、スムイの4都市で「限定的停戦」に入り、民間人避難のための「人道回廊」を設置すると発表した。

 ウクライナ当局者によると3月8日には、ウクライナ北東部の都市スムイと首都キエフ近郊のイルピンで、民間人の退避が始まった。

(4)ロシアウクライナの外相会談:3月10日

 10日、トルコで、ロシアウクライナの外相会談が開催されたが、ロシアのラブロフ外相は具体的な停戦交渉については代表団同士の話し合いに委ねるとする考えを示した。

(5)第4回停戦交渉オンライン 3月14日、15日

 ロシアのペスコフ大統領報道官は13日、タス通信に対し、同国とウクライナの4回目の停戦交渉が14日にオンライン形式で開かれることを明らかにした。

 ポドリャク大統領府長官顧問は、14日午前、「互いに立場を活発に述べている。やりとりはできているが、難しい。不一致の原因は(互いの)政治体制が違いすぎることだ」と投稿した。

(6)ゼレンスキー氏、ウクライナの安全を保障する新たな枠組みを要求:3月27日

 ゼレンスキー氏は27日、一部のロシアメディアとのインタビューに応じロ、シアとの停戦交渉について、ウクライナの近い将来のNATO加盟は非現実的だと認め、代わりに米欧とトルコに加え、ロシアウクライナの安全を保障する枠組みを求めた。

「(安保の合意が)ただの紙切れであってはいけない」と強調。「条約として署名されなければいけない」と述べた。ロシアとの不可侵条約と、それが破られた場合の米欧の関与を盛り込んだ条約を想定しているとみられる。

 ロイター通信によると、ゼレンスキー氏はNATO非加盟と新たな安全保障の枠組みについては国民投票が必要との考えも示した。

(7)第5回停戦交渉:3月29日

 トルコ政府の仲介により、対面形式の停戦交渉が29日にトルコイスタンブールで開催した。交渉は大きく次の6つの分野で行われた。

ウクライナNATO加盟を求めず「中立化」する。

ロシアの脅威になる「武装解除」した上で両国の安全を保障する。

ウクライナの「非ナチ化」

ロシア語を自由に使えるようにする。

ウクライナ南部クリミア半島の地位を巡る問題

⑥東部のルガンスクドネツク2州の地位をめぐる問題

 トルコ政府によると、①から④の4分野では合意に近づいているという。しかし、南部クリミアの併合承認や、親ロシア派の武装勢力が事実上、支配している東部地域の独立承認などは、ウクライナ拒否するなど、主張の隔たりは埋まらなかった様子である。

 また、関係者の話によると、ロシア側が停戦条件の一つに挙げていた「ウクライナの非ナチス化」の要求を取り下げた。

 また、ウクライナ側は2014年ロシア一方的に併合したクリミア半島について、今後15年間で、外交手段で問題解決を図ることを提案し、領土問題を事実上、棚上げする意向を示唆した。

 ロシア側はクリミアを「自国領」と主張しており、両国が即座に折り合う可能性は低いとみられる。

2.和平交渉に関連する事象

(1)ブチャの虐殺:4月4日

 ゼレンスキー大統領4月4日、多数の民間人が犠牲となった首都キーウ近郊のブチャを訪れ、「ロシア軍ウクライナでした残虐行為の規模を見るとロシアとの和平交渉は非常に難しくなった」と語った。

 3月末のイスタンブールでの停戦交渉では実質的な前進が伝えられたものの、直後にブチャの惨状が明らかになり、交渉機運は急速に萎むことになった。

(2)ロシア軍を侵攻開始前のラインまで押し戻せばウクライナの勝利:5月21日

 ゼレンスキー大統領は、地元テレビインタビューで、東・南部で占領地域の拡大を期すロシア軍を2月の侵攻開始前のラインまで押し戻せば「ウクライナ側の勝利だ」と述べた。

 ロシア側に占領されたすべての土地を取り戻すのは「簡単ではない」とし「重要なのは、命を惜しまず戦うウクライナ軍人の犠牲を減らすこと。今、貪欲になるべきではない」と述べた。

(3)米欧諸国のウクライナ疲れ:6月6日

 ロシアによるウクライナ侵攻は明確な国際法違反である。そんな共通認識から、主要7カ国(G7)をはじめとする欧米諸国は「結束」を掲げ、制裁強化などでロシアに対処してきた。

 しかし、侵攻が3カ月目に入り、「支援疲れ」を懸念する声が出始めてきた。

 ゼレンスキー大統領6月6日、米欧諸国や有識者の一部から、ウクライナが一定の譲歩をした上でロシアとの停戦を求める声が出ていることについて、そうした声に従い停戦に応じることはないとする考えを示した。

 停戦交渉は現在、両国の立場の隔たりから中断している。ウクライナは「戦場が交渉の場だ」(ポドリャク大統領府長官顧問)とし、戦況で優勢を築いた上でロシアから譲歩を引き出そうとする構えを崩していない。

(4)クリミア半島ロシア軍軍事施設への攻撃:8月9日

 8月9日クリミア半島ロシア空軍基地で爆発が起こり、複数の戦闘機が破壊された。8月16日にはロシア軍の弾薬庫が爆発した。

 ウクライナ9月7日、南部クリミア半島ロシア軍基地に対する一連の空爆について、ウクライナが攻撃したと認めた。攻撃をめぐっては約1カ月もの間、誰が関与しているのか不明のままだった。

 東・南部を主戦場に戦闘は続いており、和平交渉の再開も見通せない。

(5)クリミア半島の奪還を明言:8月24日

 8月24日オンラインで開催されたクリミアの返還をめざす国際的枠組み「クリミア・プラットフォーム」の首脳会議で、ゼレンスキー大統領は、「我々はクリミアを取り戻す。世界のどの国とも相談せず自分たちで決める」と語った。

(6)ウクライナ軍の反転攻勢:9月6日

 9月6日に開始されたウクライナ軍の反転攻勢により、ウクライナ軍は、5日間でハルキウ州のほぼ全てを奪還した。ロシア軍は戦車や装甲車、武器、弾薬を捨てて遁走した。

 祖国防衛に燃え士気の高いウクライナ軍と大義がない戦いに無理やり駆り出された士気の低いロシア軍との戦場での勝敗はすでに明らかである。

 しかし、プーチンは、9月21日に予備役の動員を行い戦争のさらなる長期化も辞さない姿勢を見せている。

 戦いを有利に進めているゼレンスキー大統領は、クリミアの返還を要求するであろう。プーチンがこの要求を呑むとは思えない。

(7)ゼレンスキー氏、和平交渉開始の5つの原則を提示:9月21日

 9月12~27日に開催された国連総会で、21日夕、ゼレンスキー大統領の録画演説が流された。ゼレンスキー氏は和平交渉の5つの原則を提示した。

①侵略行為への処罰

②人命の保護 

③安全と領土保全の回復

④国家の安全の保障

⑤決意(自国を守る決意、ウクライナを支援する国および世界の決意)――を挙げた。

 これらの実現なしに和解や解決はあり得ないと訴えた上で、逆に実行すれば、事実上の国連改革につながると述べた。

(8)ロシア、予備役の部分的動員:9月21日 

 プーチン大統領は、9月21日、予備役を部分的に動員する大統領令に署名したとテレビ演説で発表した。

 演説の中で「東部ドンバス地域を解放するという主な目的は今も変わっていない」と述べ、ウクライナ侵攻を続ける考えを改めて強調した。

 予備役の部分的動員に抗議するデモがロシア全土に広がった。また、予備役招集から逃れようとロシア国民の国外脱出が加速した。

(9)ロシア、東・南部4州の併合:9月29日

 プーチン大統領は、29日、東・南部4州のウクライナからの「独立」を一方的に承認する大統領令に署名した。翌9月30日にはそれぞれの地域をロシアが「併合」することを定めた「条約」を締結した。

(10)NATO加盟申請書に署名・プーチンとの交渉拒否:9月30日

 ゼレンスキー大統領は、プーチン大統領が東・南部4州の併合を宣言したことを受け、対話アプリ「テレグラム」に投稿したビデオで、「NATO加盟手続きを加速する申請書に署名することで、ウクライナは決定的な一歩を踏み出した」と表明。

 またロシアとの和平交渉については、プーチン氏ではない別の大統領と交渉する用意があるとした。

(11)プーチン大統領との交渉は「不可能」だとする法令に署名:10月4日

 ゼレンスキー大統領は4日、プーチン大統領との停戦に向けた交渉は「不可能」だと明記した法令に署名した。これで、東・南部4州の併合を一方的に宣言したプーチン氏に譲歩しない姿勢を明確にした。

 ロシアのペスコフ大統領報道官はゼレンスキー氏が交渉に応じない限り、侵攻は終わらないと指摘した。

(12)バイデン大統領の「アルマゲドン」発言:10月6日

 本項は、WedgeOnlineバイデン大統領アルマゲドン」発言の衝撃と波紋』(2022年10月18)を参考にしている。

 バイデン大統領10月6日民主党選挙資金集めの会合での演説で、「われわれは、ケネディ政権当時のキューバ危機以来、アルマゲドンの可能性に直面したことはかつてなかった。私が思うに、(プーチンが)安易に戦術核兵器使用に踏み切った場合、それがアルマゲドンに至らないなどということはありえない」と語った。

 プライベートな場での非公式コメントとはいえ、大統領の「アルマゲドン」発言は、一部メディアで報道されるに及んで一気に波紋が広がった。

 さて、今回、全米の主要メディアが党派を超え、バイデン発言を一斉に大きく取り上げた背景には、それが単なるセンセーショナルな失言にとどまらず、米国の対外コミットメントをめぐる国論の分断を招きかねない重大な要素をはらんでいたからにほかならない。

 それを要約すると、

①米国民はウクライナ戦争に重大な関心を抱いてはいるが、自国が直接巻き込まれることを決して望んでいない。

ロシアウクライナで核使用したとしても、米軍による核報復は、ひいては米本土が核攻撃にさらされる危険があるので、断固反対する。

③従って、ロシアの対ウクライナ核攻撃に対する米側の対応は、米露間の核戦争に至らない他の手段によるべきである――ということに尽きる

 多くの専門家は「核報復は避けるべき」との姿勢を明確にしている。そして、この出来事が、バイデン政権がウクライナに対して和平交渉を促すことにつながったと筆者は見ている。

(13)クリミア橋爆発:10月8日

 10月8日クリミア橋の道路橋部分で爆発が発生し、橋の一部が崩壊、男女3人が死亡した。並走する鉄道橋部分においても、通過中の列車の燃料タンク車7両が発火し大規模な火災が発生した。

 プーチン大統領は9日、テレグラムにビデオメッセージを投稿し、「クリミア大橋で8日に起きた爆発は、ウクライナの情報機関によるテロ行為だ」と非難した。

 ウクライナ政府当局者はニューヨークタイムズなど複数の米主要紙に、ウクライナの情報機関が関与したことを認めているが、ウクライナ政府は公式には関与の有無を明言していない。

(14)プーチン大統領、米ロ首脳会談を望まず:10月14日

 プーチン大統領は、カザフスタンの首都アスタナで開催されたCIS独立国家共同体)の首脳会議に出席したあとの記者会見で、インドネシアで開催されるG20首脳脳会議に出席して、バイデン大統領と「会談する必要性を感じていない」と述べ、ウクライナ侵攻を巡る対立の打開を図る米ロ首脳会談を求める考えがないことを明らかにした。

 また、ウクライナとの交渉についてプーチン氏は、ロシアは「常に対話の用意がある」とする一方、プーチン氏との交渉を禁じたゼレンスキー政権の側にこそ対話の意思がないと指摘した。

(15)バイデン政権、ウクライナに対し、和平交渉を促す:11月5日

 ワシントンポスト紙は5日、米国の政府関係者の話としてバイデン政権がウクライナの指導者らに対し、ロシアとの和平交渉に前向きであることを示し、プーチン大統領が辞任しない限り、交渉には応じないという姿勢をやめるよう非公式に促している、と報じた。

 また、政府関係者はこの要請はウクライナを実際の交渉のテーブルにつかせようとするものではなく、ウクライナをめぐる戦闘が長期化することを警戒する国々の支持を維持するための試みだ、と説明したと報じた。

(16)和平交渉開始の5原則:11月7日

 ゼレンスキー大統領は7日のSNSで公表したビデオ演説で、ロシアとの和平交渉を開始する前提として、次の5項目を提示した。

ウクライナの領土保全の回復

②国連憲章の尊重

③戦争による全損害の賠償

④すべての戦争犯罪人の処罰

⑤二度と(侵略)しない保証

 また、「ロシアを強制的に交渉の席に着かせることが重要だ」と訴え、和平交渉が進まない責任がロシアにあると強調した。

(17)ロシア軍へルソン市から撤退:11月9日

 ロシア軍は、11月9日、約4万人規模のロシア軍が立てこもっていた南部ヘルソン州の州都ヘルソン市から全面撤退することを発表した。

 ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は11日、ロシア軍撤退が同日完了したと発表した。

(18)世界が平和に向かって解決すべき10項目の課題:11月15日

 ゼレンスキー大統領は15日、インドネシアで開催されているG20首脳会議でビデオ演説し、今こそロシアの戦争を止めるべきであり、それは可能だと訴えた。

 そして、ゼレンスキ―氏は世界が平和に向かって解決すべき10項目の課題を提示した。以下は、ウクライナ大統領府が公表したテキストを筆者が仮訳したものである。

放射線原子力の安全

②食料安全保障

エネルギー安全保障

④すべての捕虜と強制移住者の釈放

⑤国連憲章の履行と、ウクライナの領土保全と世界秩序の回復

ロシア軍の撤退と敵対行為の停止

⑦正義(戦争犯罪を裁き正義を回復するための特別法廷の設置)

⑧環境破壊の防止

ロシアによる再侵略の防止(キーウ安全保障協定(注)への署名)

⑩終戦の確認(戦争の終結を確認する文書への署名)

 新たな提案についてロシアのペスコフ大統領報道官は翌14日、ウクライナNATO加盟は「ロシアにとって主要な脅威だ」などと述べ、否定的な見解を示した。

(注)キーウ安全保障協定とは、2022年9月13日、専門家グループが作成・提案した新たなウクライナの安全保障の枠組み案である。ウクライナの中立化を否定し、NATOに加盟するまでの期間中、法的拘束力のある条約で米欧などがウクライナの防衛力強化を支援するという内容である

 具体的には、ウクライナは「キーウ安全保障協定」と呼ばれる法的拘束力のある条約を米欧やカナダトルコオーストラリアなどの保証国と結ぶ。

 保証国は武器や技術の輸出、軍事訓練などでウクライナの防衛力を高める。ウクライナが将来に再び攻撃を受けた際は政治、経済、軍事面で支援する。日本や韓国などの「パートナー」国も、ウクライナに侵攻する国に対する制裁などで協力することへの期待が示されている。

3.新しい和平交渉の見通し

 現時点でウクライナロシアとも和平交渉の席につく気は見られない。

 なぜならば、和平交渉の動機の一つは勝算(相手に勝てる見込み)であるからである。

 両国とも勝算は我にありと思っている。すなわち和平交渉を動かすのは戦場の結果である。戦場で勝利を得たものが和平交渉を有利に進めることができる。

 以下の考察は、これか来る厳冬期間のウクライナの東・南部の戦場で、繰り広げられるであろう戦闘で、ウクライナ軍が勝利することを前提としている。

 ここで言う戦闘における勝利とは、両軍の主力部隊が激突する前線で、ウクライナ軍がロシア軍を撃破して、ロシア軍が後退を余儀なくされる状態をいう。そして、和平交渉が再開される。

 さて、「政治は妥協の産物」であるといわれる。妥協とは、対立した主張について双方が譲り合って解決することを意味する。

 和平交渉が成功するか否かは、ゼレンスキー氏とプーチン氏がどれだけ譲り合うことができるかにかかっている。

 例えば、ゼレンスキー氏は、プーチン氏との交渉を拒否し、その法的措置も講じている。しかし、ゼレンスキー氏は、ここは折れなければならない。

 バイデン政権は、ゼレンスキー氏に、プーチン大統領が辞任しない限り、交渉には応じないという姿勢をやめるよう非公式に促しているという。西側の支援なしでは戦えないウクライナとしてはやむを得ないであろう

 以下、既述した第1項および第2項から、筆者が抽出・整理した和平交渉における主要な対立点と、その対立点の妥協案について筆者の考えを述べる。

(1)和平交渉における主要な対立点

ウクライナの安全保障

・中立化(NATO非加盟)
キーウ安全保証協定の締結

②被占領地の地位問題

クリミア半島
ドネツク人民共和国およびルガンスク人民共和国

③戦争犯罪等の処罰

・集団殺害犯罪(ローマ規程第6条):児童を他の集団に強制的に移すことなど。

・人道に対する犯罪(ローマ規程第7条):文民に対する拷問・強姦、住民の追放または強制移送など。

・戦争犯罪(ローマ規程第8条):1949年8月12日のジュネーヴ諸条約に対する重大な違反行為など。

・侵略犯罪(ローマ規程第8条の2):国の軍事的行動を、実質的に管理を行うかまたは指示する地位にある者による、国際連合憲章の明白な違反を構成する侵略の行為の計画、準備、着手または実行。

④戦争による損害の賠償

(2)妥協案

ウクライナの安全保障

 プーチン氏は、NATOの東方拡大を自国に対する脅威とみなしている。

 ウクライナが加盟すればかつては旧ソ連を形成し、ロシア人も住む国から、長い国境を接して武器を向けられることになる、として強く反発している。プーチン氏は、ウクライナNATO入りを絶対に認めないであろう。

 バイデン大統領も今年1月、旧ソ連の一部だったウクライナの加盟について「民主主義の発展の度合いから、近い将来はないだろう」とも述べている。

 従って、ウクライナは近い将来のNATO加盟を諦め、自国の安全保障は「キーウ安全保障協定」により確保するしかないであろう。

②非占領地の地位問題

 被占領地の地位問題は、地上戦でどこまで奪還できるかによって決まる。奪還した被占領地はウクライナ領土となるであろう。

 奪還できなかった場合は、ウクライナは、将来外交交渉で解決するということで、地位問題を棚上げして、折り合いをつけるしかないであろう。

③戦争犯罪等の処罰

 既に、ウクライナでは、ロシア(軍)人による「戦争犯罪」と疑われる行為に対する裁判が行われている。

「戦争犯罪」は、⼀般の刑事司法と同じように、敵国の被疑者を捕らえた場合、戦争が終わっていなくても、そのまま自国で国内法に基づき裁くことができる。

 ただし、今回のウクライナのように、侵攻を受けている国が、同時に戦争犯罪を裁こうとするのは、前例のないことである。

「集団殺害犯罪」、「人道に対する犯罪」および「侵略犯罪」は「国際刑事裁判所(International Criminal Court: ICC)」によって裁かれる。付言するが、ICCは、「戦争犯罪」についても裁くことができる。

 既に、英独仏などがロシアによる侵攻を含むウクライナの事態を巡る捜査を、ICCに付託している。

 3月2日、ICCのカリムカーン主任検察官は、「戦争犯罪」と「人道に対する犯罪」などで、ロシアウクライナ侵攻について捜査を始めると発表した。

 ICCは容疑者不在の「欠席裁判」を認めないため、訴追には容疑者の逮捕と引き渡しが不可欠である。残念であるが、プーチンが失脚しない限り訴追される可能性はない。

 しかし、ICCの検察官が「侵略犯罪」などの容疑でプーチンに逮捕状を発行すれば、プーチンウクライナやICC加盟国の領域に入れば、彼を逮捕してICCで裁判にかけることが可能となる。

 詳細は拙稿『戦争犯罪でプーチンを処罰する方法:国際刑事裁判所の役割と権限』(2022.3.18、https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69324)を参照されたい。

④戦争による損害の賠償

 戦争による損害の賠償金は、通常、敗戦国が支払う。ロシアは敗戦国の立場を認めず、支払いを拒否するであろう。

 ウクライナのデニス・シュミハリ首相は7月4日スイス南部のルガーノで開催された「ウクライナ再建会議」で、戦争による被害からの復興には約7500億ドルが必要だとする推定値を提示した。

 米欧や日本の政府はロシアウクライナ侵攻に対する制裁措置として、各国中銀などが預かるロシアの外貨準備を凍結している。

 ロシアのシルアノフ財務相は3月13日ロシア中央銀行が保有する外貨準備と金のうち、約半分にあたる3000億ドル分が、米欧日などによる経済制裁で凍結されていると述べた。

 ウクライナは、この凍結中のロシア資産(3000億ドル)を売却してウクライナ復興に使用したいというが、資産を「凍結」することと、それを「売却」して使うこととは全く異なる問題であるため、それが可能かどうかは不明である。

 いずれにしても、世界銀行、欧州投資銀行(EIB)、欧州復興開発銀行(EBRD)といった国際開発機関が資金供給したり、西側各国政府、欧州連合(EU)の貢献も求められるであろう。

4.おわりに

 ゼレンスキー氏は、5月21日に、自身で次のように語っている。

ロシア軍を2月の侵攻開始前のラインまで押し戻せばウクライナ側の勝利である。ロシア側に占領されたすべての土地を取り戻すのは簡単ではないし、重要なのは、命を惜しまず戦うウクライナ軍人の犠牲を減らすことである。今、貪欲になるべきではない」

 ゼレンスキー氏には、原点に返り、政治家として妥協できるところは妥協して、早期に和平交渉をまとめてほしいというのが筆者の願いである。

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9月13日、ロシア軍はハルキウ州から撤退した(写真:ロイター/アフロ)