1986年に連載がスタートして、ドラマ化もされた超ロングセラーの料理マンガ『味いちもんめ』。原作者・あべ善太氏の急逝後、『新・味いちもんめ』として連載が続き、いくつかのシリーズを経て、2019年から『味いちもんめ 継ぎ味』として「ビッグコミックスペリオール」にて連載中。主人公・伊橋悟が修業を積んだ料亭「藤村」に戻って、“原点回帰”したと好評を得ている。

時代や環境が変わっても変化しない深い部分をテーマ

 最新刊の単行本第9集が発売されたが、ここまで長きにわたって読者から支持されている理由は何なのだろうか。

「基本的に1話読み切り形式で、どの話から読んでもストーリーに入ることができるということが大きいと思います。読み切り形式は1話でお話をまとめなければならないので、倉田よしみ先生の負担も大きく、作品づくりは大変なのですが、それを変えずに実直にずっと続けてきました。

 その上でもちろん、主人公の伊橋を始めとして、熊野、ボンさん、谷沢といったキャラクター、そして『藤村』という舞台になる料亭に対して、まるで近くにある、行きつけのお店、職人というように、読者の方々が愛着を持ってくださっていることも支持の理由ではないでしょうか」(担当編集)

 連載開始時とは、食をめぐる文化も社会的な環境も、大きく変わっている。それでも、作品の根幹には“変わらない部分”もある。

「現在の『継ぎ味』では作中にスマホも登場していますし、以前Twitterでバズったマナー講師の回のような最近の事柄も扱っています。ストーリーの表層的な部分は、今の時代に合わせて変化しています。

 しかし、『おいしいものを食べたい』『食べることは人生に繋がっている』といった深い部分は、どれだけ時代や環境が変わろうとも変化しません。その深い部分について『味いちもんめ』は変わらず、テーマとしていると考えています」(同前)

 実は、筆者の倉田よしみさんは、ちばてつやさんのアシスタント経験があり、マンガの絵柄やリズムは、時代を超えて“ちばDNA”を引き継いでいるという。

新旧の読者から変わらずに愛読される理由

「最近の作品で特に反響が大きかったのは、単行本第6集収録の第10話『純日本的』というエピソードです。大江戸伝統大学教授の赤井という客が登場して、『日本に生まれて良かった』と日本を褒めそやすのですが、彼の言ってることは本当にそうなのか……。実際にマンガを読んでいただくと、自分自身の中の日本像を少し考え直すキッカケになるかもと思います」(同前)

 この赤井教授のエピソードをはじめとして、作中では読者がスカッとするようなエピソードも少なくない。これは最近流行っている「論破」に通じるものなのだろうか。

「『継ぎ味』からシナリオ協力で作品に参加されるようになった、『ラーメン発見伝』(作画:河合単)の原作などを手がけた久部緑郎先生の力が大きいと思います。最近の世の中の流行を批評的に捉える目が『味いちもんめ』に新しい風を吹き込んでくれています。

 一方、『論破』の人たちは、勝ちたい、相手を言い負かしたい……という気持ちが背景にあると思いますが、『味いちもんめ』の世界は“相手を思う人情”や“損得では測れない人間関係”といった『論破』とは次元の違う物語を描こうとしています」(同前)

 確かに『味いち』といえば人情噺。グルメマンガであると同時に人間模様を描き続けてきたからこそ、新旧の読者から変わらずに愛読されているのかもしれない。

(「文春オンライン」編集部)

『味いちもんめ 継ぎ味』第9集(小学館)