情報を統合的に各ツールに使用していく連携ができる「業務統合システム」。企業はこのシステムを利用し、DXを推進することで業務効率化や売上利益拡大を見込めます。今回は、この業務統合システムを導入していたのにもかかわらず、成績優秀な営業マンが突然入院した結果、悲劇に陥った事例を中心にみていきます。

顧客情報は部署内で誰でも見られるようにする

業務統合システムの活用において、その中に情報を集約し、その情報を有効活用するという点では、リードは欠かせない集約要素となります。リードは、いわば、お客様カルテのようなものです。

何かしらの治療や診察で病院へ行くとしましょう。過去に通院していれば、その病院には必ず自分のカルテがあるはずです。通院する病院を替えない限り、そのカルテにはさまざまな症状の履歴が蓄積していくものです。医者は、その情報を総合判断して、最適な治療や投薬を選択していきます。通院する科が違っても、同じ病院であればカルテは共有されますから、患者に最適な処置をどの医者でも理解することができます。

もしもこのとき、その病院が一切カルテを作成せずにいたら、受診する私たちは、通院するたびに今までの病歴を説明しなくてはいけなくなるかもしれません。今までの病歴から、避けるべき薬を見極められずに、処方されてしまうかもしれません。

これと同じように、エンドユーザーと自社がどのように付き合ってきたかの情報を閲覧しながら相手と向き合うのと、まったく情報がない状態で相手と向き合う場合とでは、向き合い方やスタンスがそもそも違ってくるでしょう。また、労力においても、新規の相手から話を聴きだしていくほうが大変なはずです。

ですので、業務統合システムにおいて、このリードの活用は、絶対的に不可欠なものです。顧客情報が充実していることによって、設計や現場に近いところから、さまざまなメリットをお客様に提示できるからです。

リード化を怠ると…

例えば、他の現場での似たような事例を参考にして、新規のお客様に提案をするとしたら、質の高い提案につながりますよね。「こういう工事例も弊社ではやってきましたし、こういうケースへの対応も経験しています」と、エンドユーザーにお伝えすることによって、エンドユーザーが最適なものを選びやすくなります。

追加受注のユーザーに対しても、過去の工事の図面や写真から、もしくはどんな現場監督や職人がどんな作業をしたかの情報が残っていることで、重複した作業を省いて本当に必要な作業だけを提案できるようにもなります。ほかにも、既に情報が残っていることから、再度の現地調査の必要もなくなれば、前回の図面などを見て、再設計しなくていい箇所を判断できたりもします。徹底して無駄を省けるようになるわけです。

かたやエンドユーザーからしても、何度も同じ説明をしなくても済むわけです。ですので、業務統合システムは「リードに始まりリードに終わる」といっても過言ではないくらい、基本中の基本としてのリードが重要視されるのです。もしリードを入れていなかったら、業務統合システムを稼働させているとはいえ、思いがけない不便に見舞われることになります。

その最たる例が、ブラックボックス化です。ブラックボックス化とは、箱の中に大事なものが入っていると理解しているにもかかわらず、誰もその箱の中を見ることができないという現象です。例えば、次のような例があります。

成績優秀な営業マンが突然の入院…

ある中小建設業の企業に勤める営業のAさんは、営業成績こそ大変優秀でしたが、パソコンが得意ではなく、どちらかというと手帳にメモをするアナログ派でした。顧客情報やアポイント情報など、手帳に書き込んでは、行動したタスクに線を引いて進捗を管理するというやり方です。

あるとき、Aさんが突如、急病で入院することになりました。入院は致し方ないとしても、業務をストップするわけにはいかない会社側は、臨時の営業担当として、Aさんの業務の一部を他の営業担当に振り分けました。

問題はここからでした。Aさんから、口頭でそれぞれの引継ぎ内容を聞いた各営業担当でしたが、Aさんの体調もあいまって細かいことまで聞くことができていませんでした。お客様から問い合わせがあっても「一度確認します」とAさんに都度確認しなくてはいけません。連絡が取れる時間帯は限られていますので、お客様をお待たせしてしまうことになります。

やむをえず各営業の判断でお客様の問い合わせに対応しようとしたら、「それは先日聞いていたことと違う」とか「それはさんざん聞かされている」など、空回りに空回りが重なります。結果、Aさんはそのまま希望退職することになり、そのお客様も、他業者と契約することになってしまいました……。

このエピソードは、決して空想上の笑い話ではなく、実際に、業務統合システムを導入していながらも、リード化を怠った企業でよくある話なのです。多少ディテールは違うとはいえ、耳が痛い経営者も少なくないでしょう。

業務承継のためにもリードのシステム化は重要

リードは、お客様の情報を拾いこぼさないようにするためのツールですが、その本質は、第三者と共有できるという点にあります。先の例で、もしAさんが、手帳に書かれている情報をすべて業務統合システムに入力し、リードを充実させていれば、結果はどうだったでしょうか? 他の営業担当も、Aさんと同様にお客様に接することができており、Aさんの優秀な営業成果をしっかりと引き継げていたはずです。同時に、お客様も他業者に流れていくようなことはなかったと予想できます。

「今いる人間」が、「今と同じ場所」で、「今と同じように活躍している」という場合は、ブラックボックスにはなりません。しかし、「今いない人間」となり、「今と違う居場所」になり、「今のように活躍できていない」となった場合に突然、前触れなく発露するのです。

そこで、経営者の皆様にお聞きしたいことがあります。

「今、近い将来に退職を控えている世代がどの程度いますか?」

「事業承継とともに、中核メンバーが替わるタイミングが近くありませんか?」

もし、現時点での主要メンバーが近い将来に退職をする世代だったり、事業承継によって、先代から会社を引き継ぐタイミングであるとしたら、社内でも世代交代が加速する可能性があるので、遠からずリードがブラックボックス化してしまう可能性はあります。

業務統合システムを導入せず、アナログな顧客管理方法のままで主要メンバーが辞めたら、まったく引き継げないことになってしまいます。主要メンバーがいるうちにシステム化して、今いるメンバーが辞めた後でもスムーズに業務が回るように準備したいという相談ケースも後を絶たないのです。特に経営者が交替する場合、数年後に交替してからではなく、今のうちからシステムの導入を考えていくことも重要になってくると考えています。

「顧客情報」の使い方でユーザーの心証を変えられる

世代交代を行うということは、同時に新人を入れていくということにもなります。リードに情報を蓄積することによって、新人が新規で業務を覚えるのが楽になります。すでに洗練された業務フローがあり、それがシステムに反映されていますので、いってみれば、新人は手順通りに進めていけば仕事が終わるという流れを生みやすくなるのです。

まずは基本的な顧客の情報、顧客や工事ごとに対応した内容、段取りなどをシステムに落としこむ。それはいわば「経験の蓄積」ですので、その蓄積を参考にすれば業務を素早くスムーズにできる気づきも生まれます。新人教育の際にこの気づきを得ることができれば、成長速度も加速度的に高まっていくはずです。また、エンドユーザーのメリットとしても、継承がうまくできることは極めて重要です。

エンドユーザーの問い合わせは、「この会社の人は、すでに自分の状況をわかってくれている」という前提で届いてきます。問い合わせをしたときに、それが「わかっていない」と、エンドユーザーにとっては大きなストレスになるのです。担当者がたまたま離席していて、別の担当が伝言を聴く際でも、同様です。

会社にかかってきた電話を取る前に、システムと連動させておくことで誰からの電話か表示されるため、「誰からかかってきたか」だけではなく「どういう相手からかかってきたか」が一目瞭然になります。お得意様にはお得意様の出方があり、初見の方には初見の出方がありますので、電話応対の質も変わってきます。

「いつもうちの小松がお世話になっています」

「先日の〇〇の件ですね。承知しております」

「あのときに、このようなご依頼をいただいていますね」

など、気の利いた一言がいえることにもつながります。また、伝言1つ受ける際にも、リードを閲覧しながら伝言を受けると、エンドユーザーの心証は右肩上がりになるはずです。

担当者が変わっても対応の質を落とさない

外出中の社員に電話やLINEで伝言をするにも、中間に人が介在すると抜け漏れや聞き違いが起きてしまう可能性があります。また伝えたけれども、外出先のことですので、当の担当が対応し忘れるかもしれません。ですので、ヘッドセットで受電、話しながらシステムにメモし、ワンクリックしたらメモした内容が担当者へ転送される仕組みにしておくことで、伝え漏れは全面的に防ぐことができます。

転送先はメールでもいいですし、チャットワークやLINEなど選べるようにしておけば、担当者が使いやすいツールで確認することができるようになります。さらにシステム内にコミュニケーションの履歴が残りますので、即時性+視認性(アラート設定もできる)など、徹底した対応強化をはかることが可能になります。リードの意義を考えるにあたって、担当者が替わってもエンドユーザーへの対応が同じになるというのは、大きなポイントです。

社員の離職についても、どうしても完全には避けられないものです。むしろ、担当者が替わることを前提として、対策しなくてはいけないはずです。

こと建設関係の受注では、何十年も長期に関わる可能性があります。そうなると担当者が替わるなんて当たり前の話。それでもいままでと同等で遜色のない対応が続く企業に、エンドユーザーは安心と信頼を感じるはずです。

小松延顕

株式会社Office Concierge(オフィス コンシェルジュ)

代表

(写真はイメージです/PIXTA)