世界地図をのぞくと日本はロシア・中国・北朝鮮に囲まれており、現在の世界情勢を照らし合わせると、地政学上大きく危険をはらんでいる国の一つといえます。2022年2月に始まったロシアウクライナ侵攻による戦場の痛ましい現状の報道を目にして、罪のない人々が苦しむ姿に心痛めるとともに、自国の安全への不安を募らせれている人も多いのではないでしょうか。本連載では「2027年、日本がウクライナになる(他国に侵攻される)」と予測する、元自衛官で「戦場を知る政治家」である佐藤まさひさ氏の著書から一部一抜粋して、日本防衛の落とし穴についての知識を分かりやすく解説します。

恐るべき台湾有事。なぜ中国は台湾を獲りにいくのか?

「逆さ地図」を見てみましょう。今度は日本列島の西側まで視野を転じてみます。奄美諸島、琉球諸島、尖閣諸島などの島々(南西諸島)が点在し、その西側の大きな島が台湾です。

改めて地図を見ると、日本列島がユーラシア大陸を覆う蓋であることは一目瞭然でしょう。日本列島の左翼は北方四島。右翼は南西諸島。ロシアが北方四島を欲しかったように、中国は、南西諸島の島々が欲しくてたまりません。

台湾も含めての「東シナ海の蓋」は、軍事的にも経済的にも、非常に大きな意味をもつからです。中国が、尖閣諸島や台湾を強引な論理で「自国のもの」と主張するのはこのためです。何が、どう重要なのか?

まずは、中国から見た台湾の重要性を話します。台湾は、三つの海を結ぶ位置にあります。「太平洋」「東シナ海」「南シナ海」です。フィリピンとの間には「バシー海峡」があり、中国との間には「台湾海峡」がある。このように、海をもつことは"戦略上"とても有利なのです。なぜなら海は「モノを運ぶ」には、最も効率のよいルートだからです。

例えば、戦車を運ぶ場合、輸送機ではせいぜい数台です。でも大きい船なら数百台程度は運べます。石油などの燃料も運べるし、空母なら"滑走路付き"で戦闘機を運べる。つまり海をもてば物流を支配できる。狭い海峡ならなおさらです。船を"生かすも殺すも""通すも通さぬも"いかようにもできる訳です。

さらに、中国の海南島には中国海軍の主要基地(楡林ゆりん基地)もあります。ここから潜水艦や艦船が太平洋に出るには、バシー海峡を通るのが最も安全なルートなのです。

台湾有事になれば、日本には石油が入ってこない! 

中国にとって”複数の海域の交差点”とも言える台湾は「海上の要衝」だと理解できたでしょう。ここを自分のものにすれば、他の国に対して優位に立てます。

例えば、日本も韓国も、簡単に痛めつけることができる。もっと言うと、なぶり殺しにできるのです。どういうことか? 地図を見てみましょう。

日本は石油の9割以上を中東から輸入しています。中東で石油を積んだ船は、インド洋を通り、マレーシアシンガポールインドネシアの間のマラッカ海峡を抜けて、南シナ海に出ます。その先にあるのが台湾です。

フィリピンとの間のバシー海峡を抜け、沖縄などの南西諸島の東側を通って日本に到着します。台湾有事、つまり中国が台湾に侵略戦争をしかけたら、どうなりますか?

戦争でドンパチやっている場所など、誰も通りたくないでしょう。しかも石油を積んでいるタンカーには、日本人は乗っていません。船籍や運営会社は日本でも、乗組員は全員が外国人です。命の危険を冒してまで、日本人のために石油を運んでくれる外国人がいると思いますか? 私には、到底いるとは思えません。

中国が台湾を獲得すれば、日本は中国の手のなかに

他のルートはないのか? 少し遠回りのルートがあります(前ページの地図参照)。インド洋からバリ島の脇のロンボク海峡を抜け、インドネシアを縦に突っ切るようにマカッサル海峡を通り、フィリピンの南側から太平洋に出るルートです。

でも、中国の潜水艦が、太平洋の入り口辺りに突如プカッと浮上してきたら? もう誰も通れなくなります。海底から狙われると思ったら、怖くて仕方ないですから。石油が入らなければ日本はアウト。”生命線”は中国に握られているのです。

台湾有事の緊張ピークは2027年と予想

台湾有事という言葉を耳にする機会が増えました。でも多くの日本人はピンとこなかったでしょう。しかし「台湾有事は日本有事」なのです。さらに直接、攻撃を受ける可能性もありますが、それについては後述します。ズバリ゛その時"はいつか?

早ければ2027年、というのが私の゛読み"です。米インド太平洋デービッドソン司令官(当時)も、次の認識を示しています。

2027年までに、中国が台湾に軍事攻撃をしかけるリスクがある」

と。右は米上院軍事委員会の公聴会で語られたことです。彼はこうも言っています。

米海軍が、アメリカ西海岸を出発して沖縄―フィリピンを結ぶ『第一列島線』に到達するのに、約3週間かかる」

と。

第一列島線とは、中国が設定した対米防衛線。「線内の内側への接近を拒否する」という目標ラインです。中国としては第二列島線との間で海軍や空軍を厚く展開し、アメリカを迎え撃つという目論見です。中国が勝手につくり上げたシナリオ、あまりにも横暴だと思いませんか?

他国の領土や領海を自国の防衛線に設定している訳ですから。日本、台湾、フィリピンインドネシアを、まるで自国のように考えています。これこそが中国の覇権主義であり、恐ろしさなのです。

いずれにしても、ウクライナの教訓から短期決戦を企図して、台湾の東西から中国が台湾に侵攻した後、アメリカ本土から部隊が到着するまでの間に台湾国民や在留外国人を人質にするでしょう。

奪還するのは容易ではありません。2027年の゛その時”が来てから行動したのでは間に合いません。私の゛読み”が外れるならこれほど嬉しいことはない。しかし「最悪のシナリオ」を想定して、リスク回避に備えておくことも、私の仕事だと思っているのです。

佐藤まさひさ 参議院自民党国会対策委員長代行 自民党国防議員連盟 事務局長

(※写真はイメージです/PIXTA)