パフォーマーの魔法使いアキット
フォーマーの魔法使いアキット

多彩なパフォーマンスで独自のショーを展開するパフォーマーの魔法使いアキットさん。

某有名テーマパークやさまざまなメディアにも活躍の場を広げるアキットさんですが、2022年10月19日、自身のYouTubeで自らがトランスジェンダーであることを明かし、今後は「アキット」としても、女性としても生きていくことを説明しました。

今回は女性の「愛樹」さんとして取材を受けてもらい、前編記事に引き続いてカミングアウト後の周囲の反応や、新たに生まれた葛藤、社会の理解について思うことを聞きました。(2回目/全2回)

■メイクをしてみたら「こういう子、いるぞ?」

――カミングアウトの動画を公開して3週間あまり(取材時点)ですが、どんな心境ですか?

アキット まだまだ慣れなくて、今でもふとした瞬間にビックリしてしまいます。「私、(女性として)外に出てるぞ、おい」って(笑)

――女性として外出するようになったのはごく最近のことなんですよね。この記事の前編でもお話いただきましたが、浴衣姿で花火大会に出かけたときにえも言われぬ恐怖を感じてしまい、女性の姿で過ごすことを止めてしまったと。でも、もう一度メイクをしてみようと思うタイミングがあったんですね。

アキット はい。約2年前、いろんなストレスが積み重なり心の病気になってしまって、活動を休止したことがありました。徐々に元に戻していっている状況なのですが、そんな中、自分で「何か変えたい」という思いが強くなっていって。

それで今年の3月にふと、自宅でメイクをしてみたんです。ずっと使っていなかったウィッグを引っ張り出して、かぶってみて。服は持っていないので、パーカーゆるく着てみたら、「あれっ? こういう子、いなくもないな」って思えたんです。そこから家でちょこちょこメイクなどうをするようになりました。

――この場合は"女装"とは言わないんでしょうか?

アキット そうですね、女装ではないです。「女にならなきゃ」とか「女になった」という感覚はないんです。「ずっと私、これで生きてたような気がする」って感覚でした。この34年間、自分を「私」って呼んだこともなかったけど、自然と出てくる感じがありました。だから、自分の中では女性の私が同時に成長していたのかなと思いました。

「アキット」としてではなく、「愛樹」として取材応じてくれた
「アキット」としてではなく、「愛樹」として取材応じてくれた

■昼はアキット、夜はネット上で女性として過ごす

――その格好で外出したりしなかったんですか?

アキット 怖くてできませんでした。でも、日中アキットとしてお仕事をして、夜は家で女性として過ごすようになりました。LGBTQの方が集まってチャットや通話ができるようなグループに、アキットではなく女性として参加してみたり。

そこで初めて女性として話をしたんですが、もう、それが衝撃で......。「女の人ってこんな感じなんだ!」って。正直、「男の人って女の人がこんなに好きなんだ」って思いました(笑)。かけられる言葉の感じが全然違うんですよ。女性として接してもらえるのが初めてだったので、率直に嬉しかったです。

書類で自分の性別にチェックするときも、女性に丸をするほど自信もなくて、でも男性に丸するのも嫌で......みたいな感じだったので、悔しくて女性にちょっと寄せて丸をしてみたこともあります(笑)

女の子同士でも、今まで遠慮していたことが話せるし、やっぱり居心地がよかったです。そういうことを3月から6月ぐらいの間で感じていました。

――舞台のときとは、声色が違いますよね。

アキット 夜は自然とこの声で過ごしていました。カミングアウトを決めてからは、周囲の人たちには少しずつこの姿を見せていきました。

――驚かれたんじゃないですか?

アキット そうですね。リモートの打ち合わせに女性の姿で参加していたんですが、最初は戸惑わせてしまったと思います。「アキットって書いてあるけど、誰が出てきたの!?」って(笑)

――距離の近いスタッフさんには小出しにしていって?

アキット とてもお世話になっているスタッフさんや舞台関係の方々には事前に伝えなきゃなと思っていました。初めてこの姿で会う方には、みんなに「あと10分だけ耐えてください、10分後には見慣れくるから」って。そうやってみなさんに説明していって、いよいよ今回のカミングアウトになりました。

■カミングアウトに「あまりビックリしなかった」という声

――その後、YouTube動画でカミングアウトをしたわけですが、ファンの方からの反応はどうですか?

アキット 「あまりビックリしなかった」という声がすごく多いです。「そんな感じかなと思ってたよ」とか。もともとアキットって中性的なんですよね。性別という概念がない、アキットというポップキャラクター。だからアキットを男性という認識で見ている方は少ないと思っています。それに、できるだけ嘘をつかないようにしていました。「好きな人いるんですか?」聞かれても「みんな好き」と答えたり。

――ネガティブな反応もありましたか?

アキット 「今までだまされてた」と思った方はいたのかもしれないですね。「話題作りのために女装してるんでしょ」って言う方もいて。それは完全に誤解ですけどね。でも、応援や共感の声のほうが多かったです。戸惑いながらも「ちょっと考える」って言ってくださったり、カミングアウト後にアキットのショーを見て「安心した」っておっしゃる方もいました。

■女性としての生活は、喜びもあり、戸惑いもあり......

――今はアキットとしてのお仕事以外は、女性として過ごしているんですか?

アキット そうじゃないときもあります。アキットの活動を始めてからは、男性として生まれた本名の「橋本憂」はもう死んじゃっている感覚なので、ずっと長いことオンもオフもアキットとして生きてきたんです。だから、ステージに立っていないときに"スッピンのアキット"でいることは、今でもあります。

――それは例えばどんなタイミングで?

アキット お仕事のリハーサルに行くときとかですね。舞台に立っていなくても仕草はアキットなので、カミングアウト後は周りの方を混乱させないように説明するようにしています。

――人格が2つあるわけではないんですよね。

アキット そう、一緒なんです。もともとアキットだけで生きてきたから、それが残っているというか。ある意味、ちょっとお得な気もしています(笑)

――女性としての生活は慣れましたか?

アキット まだまだですね(苦笑)。レストランで「トランスジェンダーなんです。心は女性だけど男で生まれてきました。こんな見た目の私でも入っていいですか?」とか聞いてしまったり。やっぱり罪悪感みたいなものがまだあるんですよね。「いいですよ」って言ってもらえないと入れなくて。今でも外食はまだ5回ぐらいかな。本当に一歩一歩なんです。

――でも、やっぱり喜びが大きいのでは?

アキット そうですね。今着ている服は、初めて女性服売り場で試着して買ったものなんです。試着のとき、服にファンデーションリップが付かないようにフェイスカバーってものを渡されるんですよね。見たことがなかったから「何、この布?」みたいな(笑)

そういうのひとつとっても、本当に嬉しいんです。見て見ぬふりをしてきた女性向けのお店が、今では輝いて見えるようになりました。

――恐怖心が徐々に解消されていくといいですね。

アキット 数日前、10代のころにすっごい怖い思いをした地元の駅を歩いてみたんです、この格好で。そうしたら全然怖くなくて。カミングアウトしたから嘘ついてないし、「あの人、男の人かな」って思われようが大丈夫。むしろ自分の容姿に自信のない方が歩きやすくなるように「私が先頭切って、歩きづらい空気を引き裂いてやろう」くらいの気持ちでいけました。

――これからやってみたいことはありますか?

アキット 女性としてはやったことがないことばかりなので、なんでもしてみたいです。特に女子会には参加してみたいです。変な言い方かもしれませんが、34年間、男をスパイしてきたようなものなので(笑)。体のことはもちろん、感覚とか男女の違いの部分は説明ができます。

それに加えてマジシャンって、お客さんのお顔や表情で「この人ってこういう人だな」って読んでお手伝いをお願いしたりするので、心理戦もいける。きっと女子会では大活躍できると思います(笑)

■まだ「生きやすい」にはほど遠い

――日本は性的マイノリティーに対する理解が世界に比べて遅れていると言われています。アキットさんの実感としてはどうですか?

アキット 理解はまだまだ進んでいないと思います。私は性同一性障害テーマとして扱った『私が私であるために』(日本テレビ系)という単発ドラマや、『3年B組金八先生シリーズTBS系)を見て、性同一性障害というものを少しずつ認識していきました。

当時に比べるとLGBTQ+とう言葉をよく聞くようになり、たしかに認知している人は増えていると思います。

でも私は女性だけど、現に「どっちのお手洗いに入ればいいの?」っていう葛藤があったりする。この問いに対して「女性だからいいんだよ」って思う人もいれば、「男が女子トイレに入ってきた。メイクしてだましてるだけじゃないの?」って思う人もいるかもしれない。みなさんがどう思うかの自由が消えることはありません。これは本当に難しい問題だと思います。

――「だれでもトイレ」の表記があるお手洗いがないところもたくさんありますよね。

アキット 周りに迷惑をかけたくないだけなんですよね。これは「私は女」という自分の考えとは別の話。私たちに理解がない人からしたら、「男が入ってきたんですけど」ってなるだろうし、訴えられちゃったらどうするの?って。性的マイノリティーが生きやすい社会とは、まだほど遠いですよね。

――少し踏み込んだ話題になりますが、トランスジェンダーの方の中にはホルモン療法や性転換手術などで体を変える人もいますよね。

アキット アキットを知らない人に私は女性だと伝えると「体はどこまで工事してるの?」という質問は絶対にされます。私にとってはアキットが一番大切な存在で、魔法を壊したくないと言う気持ちが大きいので、そのあたりは今のところ公表するつもりはありません。でも「より女性らしくなりたい」とファンの方には伝えています。

■「自分のことを大切にする番が来たのかな」

――誰にどう伝えるかは、難しいテーマですね。お付き合いする相手に伝えるか? とか。

アキット そうですね。子どもの問題もありますし。「え、男と付き合ってるの、俺?」って考える人もいるわけですよね。でも、それって自然だと思うし、その人がヒドいわけじゃないと思う。

「あなたみたいな人が増えたら日本から子どもがいなくなっちゃいますよ」って言われたら、「好きで生まれたわけじゃないんですけど」って思うけど、否定はできないですよね。それは何らかの理由で子どもを授かれなかったり、子どもを持たない選択をした女性の方でも同じなのかなと。

カップルやお子さん連れのご家族が横を通るたびに泣きたくなるので、外に出ないこともあります。でも私はエンタメを作る側なので、その人たちに幸せをまくキューピッドに回ってしまえば、悩まなくてよくなるのかなと思ったり。こういうことは一生考えていくのかもしれませんね。

でも、周りの反応がマイナスでもプラスでも、まずは自分を受け入れてあげたいなと思っています。

――そこに重きをおくことを大事にしているんですね。

アキット 今まで自分に可哀想なことをしてきたなと思うんです。あまりにもいろんなことを飲み込みすぎちゃったので。だから今やっと、自分のことを大切にする番が来たのかなと思っています。それは、女性らしく生きていく事でもあり、中に私がいる事を知っていただいた上で、魔法使いアキットとして舞台で表現することですね。

魔法使いアキット
長野県出身。
4歳でマジックに出会い、その後、独学でパフォーマンスを学ぶ。
そのパフォーマンスの多彩さから「人間遊園地」とも呼ばれている。
今年、自身のYouTubeトランスジェンダーであることを告白。
今後の活動にも注目が集まっている。
公式HP【
https://akitto-magic.com
YouTubeトランスジェンダーをカミングアウトした動画はこちらhttps://www.youtube.com/watch?v=gZ2OQ4ZWrv4

取材・文/鴨居理子 撮影/藤木裕之

【画像】魔法使いアキットの画像

アキットではなく「愛樹」として取材に応じてくれた