投資銘柄を選ぶ際、「過去の配当実績」に注目する人は少なくありません。たしかに、減配が少なく増配の多い会社を選びたいものです。しかし、「単純に配当金額だけを見ていると、実質は減配していることに気づかない場合がある」と、株式会社ソーシャルインベストメントの川合一啓氏はいいます。企業の配当実績を正しく見抜く方法をみていきましょう。

本当に増配?…過去の配当実績は「有価証券報告書」で確認できる

高配当利回り(予想)で買っても、その会社が年々成長しているように見えても、いざ当期に減配があれば、その株式の価値は損なわれてしまいます。予想通りの配当が得られず、減配発表後に株価が急落してしまうこともあるからです。

したがって、これまでその会社がどう配当を出してきたかを把握したうえで、今後の配当がどうなるかをしっかり予想しておきたいところです。

その会社の配当実績を確認するためには、EDINETで「有価証券報告書」を見てみるとよいでしょう。有価証券報告書の冒頭にある『1【主要な経営指標等の推移】』の『提出会社の経営指標等』によって、過去5年分を確認することができます。 ※ 金融庁が運営する電子情報開示システム。(https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/)

「1株当たり配当額」という欄を見ていけば、過去5年のあいだに減配が少ないか、増配が多いかがわかります。過去の有価証券報告書を見れば、さらにさかのぼって確認することも可能です。

「発行済株式総数」にも注目

しかし、ここでひとつ気をつけておかなければいけないことがあります。それは、「発行済株式総数」です。これも有価証券報告書の同ページにて過去5年分を確認できますので、ぜひ目を通しておきましょう。

発行済株式総数は、株式分割株式併合などによって増減します。新株発行による増資など他のケースもありますが、ここでは既存株主が得られる配当について論じたいため、分割か併合によって発行済株式総数が増減することについてのみ考えていきます。

例として、1株当たり配当額が5年間ずっと同じだった会社があるとしましょう。しかし、その間に発行済株式総数が株式併合により10%減っていたらどうでしょうか?

普通、「1株当たり配当額×発行済株式総数=配当総額」という式が成り立ちます。

したがって、発行済株式総数が10%減少したならば、その分1株当たり配当額も増やさなければ、配当総額は同じになりません。この例でいうと、この会社は5年間のうちに1度、実質減配しているようなものです。

「1株当たり配当額」がわかる方程式

株式分割または併合による発行済株式総数の増減を調整した1株当たり配当額は、以下の方程式を解いて求めることができます。

増減前の発行済株式総数×増減前の1株当たり配当

増減後の発行済み株式総数×増減調整済み1株当たり配当(D)

たとえば、1株当たり配当100円の会社が、ある年発行済株式総数を株式併合によって200万株から100万株に減らしたとしましょう。

これを以下の方程式に当てはめてDを求めると、

200万株×100円=100万株×D円 20,000万(2億)=100万・D D=200

となります。

よって、株式併合後のこの会社では、1株当たり200円の配当が支払われれば、実質の配当額が変わらないことになります。

一方、200円より高くなっていれば実質の増配ですし、200円より安くなっていれば実質の減配です。

株式分割または併合後に、実質減配している会社は珍しくありません。増配しているように見えたとしても実質は減配しているという場合もあります。ですから、上記の方程式を利用して、ぜひそれを見抜くようにしてください。

株式会社ソーシャルインベストメント 取締役CTO

川合 一啓  

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