見通しが悪い交差点では、その手前に予告信号が設置されることがあります。同じ理由から、踏切の存在が視認しづらいケースで、「予告警報機」が設置されている場所がありました。

とさでん交通の線路には改良が加えられたが…

カーブや急勾配などによって見通しが悪い交差点では、その手前にもうひとつ信号機が設置されていることがあります。これは予告信号と呼ばれ、ドライバーに対して「この先に信号がありますよ」と注意を促す役割を果たし、追突や信号無視などを防止するための工夫といえます。では、見通しの悪い「交差点」ではなく、「踏切」だった場合はどうでしょうか。

道路と線路が交差する踏切も、交差点と同様に危険な場所です。ただ見通しが悪くても、踏切で予告信号を見かけることはありません。

しかし似たような例で、踏切の存在を知らせるべく「予告警報機」が設置されている場所があります。高知県高知市といの町の境、とさでん交通伊野線の咥内(こうない)停留所近くです。交差する道路から見ると、坂を下り切通しのようになった場所で、左カーブの先に線路が突如現れる格好です。

なぜこのような地形になったのか――停留所の近くには、難所として知られる咥内(こうない)坂がありました。付近は平野部に高低差のある崖が迫る地形となっており、鉄道や道路を敷設できるスペースが十分にありません。明治期、土佐電気鉄道(現・とさでん交通)はトンネルを掘削。ただし単線のうえ開口部が小さかったことから、大型の車両は投入できず、高知市と伊野町(現・いの町)を結ぶ同線において輸送のボトルネックになりました。

警報機の灯火は旧型で残る

そこで、付近の改良が検討されました。改良工事では高低差をなくすため峠を掘り下げるとともに、トンネルを通過していた線路を道路側へ移設。ちなみに現在、伊野線に専用軌道と併用軌道(いわゆる路面電車区間)が混在するのは、この工事によるものも大きいのです。

掘削の結果、平野部と峠との高低差は縮まりました。しかし峠側から平野部へと向かう道路は、先述の通り急カーブの坂道です。カーブの先でとさでん交通と事故を起こさないように、「予告警報機」が設置されているわけです。これは全国でも珍しい光景でしょう。

警報機を仔細に眺めると、隣にカーブミラーも設置されています。カーブミラーには踏切も映し出され、ミラーを通じてもカーブの先に線路があることを確認できます。とはいえ初めてこの様子に出くわすと、線路が見えないのにポツンと警報機が立っている状況に、少々驚くかもしれません。

筆者(小川裕夫:フリーランスライター・カメラマン)が訪問したのは2010(平成22)年のことですが、2022年現在も現場に変化はありません。ただし、線路脇の警報機の灯火があらゆる方向から視認できる全方位型に更新されている一方、「予告警報機」の灯火は従来のまま。これはおそらく、坂の方向へのみ知らせればよく、指向性の高い旧型の方が都合がよいためでしょう。

予告信号の鉄道版ともいえる「予告警報機」。カーブミラーにはとさでん交通の車両がくっきりと映る(小川裕夫撮影)。