世界14万人以上を対象とした対規模調査によると、我々が思っている以上に、魔術への信仰が盛んであることが明らかになったという。
もちろんその状況は地域によって大きく違う。だが、調査結果によるなら、95か国で約10億人が魔術を信じていることになる。
しかも、魔術信仰について口にしたがらない人がいるだろうことを考えると、実際はもっと多いだろうことが推測されている。
この調査では、世界全体では回答者の約40パーセントが、何らかの魔術を信じているらしいことが明らかになっている。これはおよそ10億人に相当するという。
ただし、地域的に見てみれば、魔術信仰の状況はかなりばらつきがある。
たとえば、スウェーデンではわずか9パーセントしか魔術を信じていなかったのに対して、チュニジアでは90パーセントの人々が信じていた。
この研究を行った米アメリカン大学の経済学者ボリス・ガーシュマン氏は、魔術信仰は国によって差があるが、それでも各国の「社会・人口グループの枠を超えて広まっている」と説明する。
各国ごとの魔術信仰の広まり。緑が濃い地域ほど、信じている人が多い。ドットが打たれた国は、調査対象外の地域 / image credit:Gershman, PLOS One, 2022
教育水準や経済、宗教などと関連性
今回の研究では、ピュー研究所などの調査グループが2008~2017年に実施した対面・電話調査のデータに基づき、広範な宗教や魔術への信仰について分析された。
元になった調査では、まったく同じ質問がされていたわけではないが、いくつか共通点はある。
たとえば、どの調査でも「邪眼」や「他人を不幸に陥れる呪いやおまじない」を信じるかどうか質問していた。
また今回の研究では、魔術信仰に関係していると考えられる個人・国レベルの要因も分析されている。
それによると、個人レベルでは、「教育水準が高く」「経済的に安定している」ほど、魔術を信じない傾向にあるという。
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また、魔術を信じる人は、「宗教や神への信仰がある」ことが多かった。ただし、キリスト教徒であるかイスラム教徒であるかで、魔術信仰の傾向に特に違いはなかったとのことだ。
国レベルでは、「制度の弱さ」「社会的信頼の低さ」「イノベーションの低さ」が魔術信仰に関連しており、さらに「順応主義的文化」(社会習慣や伝統などにしたがう文化)や「内集団バイアス」(身内をひいきする傾向)の高さとの関連も見られたそうだ。
こうした結果について、ガーシュマン氏は「魔術信仰がいまだに世界中に広まっている」という証明であり、それは「文化的・制度的・心理的・社会経済的な特徴と体系的に関連」していると説明する。
なお今回の調査は、もっとも人口の多い中国とインドのデータがないなど、完全なものではない。世界の魔術信仰について状況を正確に把握するには、さらなる研究が必要であるとのことだ。
魔術信仰の理解は社会を理解するための鍵
こうした研究は、ただ興味深いだけでなく、実社会の問題解決にもつながるそうだ。
たとえば、地域によっては、現在も魔術をめぐって争いが起きている。こうした信仰とその社会的背景の理解を深めれば、魔女であるとして訴えられた女性を守ることもできるかもしれない。
また、魔術信仰のある地域の人々との協力や支援を行う際にも、そうした文化を理解することが大切になるだろう。
ガーシュマン氏は、こうした研究の必要性を訴えた南アフリカの人類学者モニカ・ウィルソンの言葉を引用する。
魔術信仰はある集団の標準化された悪夢だと見ています。そのような悪夢を比較分析することは、単なる古物収集的な運動などではなく、社会を理解するための鍵の1つだと思います
この研究は、『PLOS ONE』(2022年11月23日付)に掲載された。
References:Massive Global Study Shows Belief in Witchcraft Is More Abundant Than You Might Think : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo
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