東京都労働委員会が11月25日ウーバーイーツの配達員たちを労働組合法上の「労働者」として認め、ウーバー側に対して、ウーバーイーツユニオンとの団体交渉に応じるよう命令を出した。

ウーバー側は12月8日、「東京都労働委員会の判断は配達パートナーの方々が重視されるフレキシブルで独立した働き方などを十分に考慮しないものである」として、中央労働委員会での再審査の申し立てをしたことを明らかにしたため、今後も争いは続く。

ラットフォーム労働について研究している沼田雅之・法政大教授(労働法)は都労委の決定について、「今までの判断枠組みに当てはめれば、容易に認められるだろうと予想していました。それでも、労働者と判断したことの意義は大きい。これから似たようなビジネスを始める時には考慮せざるをえなくなる」と語っている。(編集部:新志有裕)

●ラフな判断で認められた労働組合法の「労働者性」

労働組合法の労働者については、経済的従属性の判断基準に沿って、労働基準法や労働契約法の労働者よりも広く認められる。今回、都労委が示した判断のポイントは以下の通りだ。

①配達員は事業の遂行に不可欠な労働力として確保され、事業組織に組み入れられている
②会社が契約内容を一方的・定型的に決定している
③配送料は労務の提供に対する対価である
④配達員にはアプリを稼働するかどうか、時間帯・場所についての自由があり、業務の依頼に応ずべき関係にあったとまではいえない。しかし、場合によっては、配達リクエストを拒否しづらい事情があった
⑤配達員は時間的、場所的拘束を受けているとはいえないものの、広い意味で会社の指揮監督下に置かれている
⑥配達員が顕著な事業者性を有しているとは認められない

沼田教授はこれらを「実態に即したオーソドックスな判断」と評価している。例えば、事業組織への組み入れについて、専属的にやっている人については専属性の色合いが強く、単発でやっているだけの人は弱い、といった判断をするなど、実態を踏まえている。

ただ、ウーバーイーツのようなプラットフォーム労働においては、人間の指示ではなく、アルゴリズムの指示で動くという特殊性があまり考慮されていない点が気になったという。

命令の詳細を見ても、②「契約の一方的・定型的決定」や④「業務の依頼に応ずべき関係」、⑤「広い意味での指揮監督下」などの関連しそうな項目で、ウーバー側がGPSによる監視を行っていること以外に、あまり踏み込んだ判断をしていない。

「今回は(ハードルが低い)労組法なので、ラフな判断で認められているように感じます。ウーバー側が、アルゴリズムによる指示だから、自分たちが指示したわけではないと主張していたらどうなったのか、気になります」と話す。

●配達員たちの「使用者」は誰なのかを示したことの意義

また、今回の命令に当たっては、関係する企業が複数存在する中で、配達員たちの「使用者」は誰なのか、ということについても争われている。

ユニオン側が救済申立てをした時点では、日本国内に「ウーバー・ポルティエ・ジャパン合同会社」(現ウーバーイーツジャパン合同会社)と、「ウーバー・ジャパン株式会社」が存在し、さらに、配達員との契約の当事者として海外法人「ウーバー・ポルティエB.V」(本社・オランダ)も関わっていた。配達員たちにとっては、どの会社と団体交渉をしたらいいのかが不明確になっていた。

ウーバー側は、「ウーバー・ジャパン株式会社」については、配達員との契約がないとして、使用者性を否定していた。これに対して、都労委は、直接的な契約関係になくても、配達員の登録手続きやアカウント停止の運用などをおこなっていることや、対配達員の業務すべてをウーバーイーツジャパン合同会社などが担っていることの裏付けがないことから、「ウーバー・ジャパン株式会社」を使用者と認めている。

今回の判断をめぐっては、「朝日放送事件最高裁判決」の「部分的使用者論」(下請企業から親会社に派遣された労働者の団体交渉をめぐり、部分的ではあっても、親会社が雇用主(下請企業)と同程度に労働者を支配できるのであれば、使用者にあたると判断)を踏まえているという分析もあるが、沼田教授は「今回は全く違う会社から派遣を受けているという話ではありません」と否定的だ。

「複数社が一体運営しているケースですので、アメリカ法の『共同使用者論』を念頭においているのではないでしょうか。直接的な契約関係や明確な指揮命令がなくても、経済的な実態があれば使用者になりうるということを示したことの意義は大きい」と解説する。

●「和解に応じた方がいいとアドバイスしたい」

今後、中労委の再審査に移行することになる。その争点について、沼田教授は、この「使用者性」もあるのではないかと予想する。「使用者性の理由づけが、労働者性の判断と比べるとやや薄くなっています」と語る。

一方で、「労働者性」については、ほとんど争点はないだろうとしたうえで、「配達員たちがいつでも好きな時に稼働できて、一切稼働しない自由があるため、事業にとって不可欠といえるのかどうか、という点は唯一あるかもしれません。ただ、事業者からすると配達員なしでは成り立たないので、通らないでしょう」とみている。

「労組法の労働者だと認められたこと自体の不利益はほとんどないので、団体交渉に応じればいいだけです。ウーバーには和解に応じた方がいいとアドバイスしたい。ウーバーは世界中で徹底的に戦っていますが、負けることも多い。もっと中間的な解決もあるはずです」

ただ、再審査や裁判に移行していると、最大「5審制」になり、10年近くかかる可能性もある。

沼田教授は「早く今の仕組みは変えるべきです。特に、裁判になると事実認定からやり直すことは変えた方がいい。最終的に確定するまで10年もかかるのであれば、意味がありません」

ハードルの高い労働基準法の「労働者性」が認められるには

また、今回は労組法についての判断だったが、もっとハードルの高い労働基準法の労働者性も問うべきだという声も研究者や労働運動の関係者などから出ている。

ウーバーイーツユニオンは労働基準法の労働者性については主張していないが、沼田教授は「報酬を一方的に下げられるという問題がすでに起きています。ウーバーイーツユニオンがやらなくても、いずれ賃金などの問題が出てくるのではないでしょうか」と指摘する。

ただ、今回の都労委の判断において、配達員たちの従属性については「かなりラフなもの」であり、今の労働基準法の解釈であれば、労働者性が認められるためのハードルはかなり高いという。

「濃厚な指揮命令が求められる、今の解釈を変えないといけないでしょう。特に、アルゴリズムの指示で動くことが、指揮命令下にあるといえるのかどうかが重要です。

そして、ここからは立法論の話になります。制度を変えて、今よりも広く労働者だと認めたとして、ギグワーカーに今の労働者と同じフルパッケージの保護が必要かどうかということは考えた方がいい。例えば、一斉休憩の原則が必要かどうか、といったことですね」

●「自由な働き方を阻害する」論にどう向き合うか

世界的には、ウーバーイーツ配達員のようなプラットフォーム上で働く人たちを保護する流れになり、各国で議論が進んでいる。

沼田教授が注目するのは、EUのプラットフォーム労働指令案だという。EU案では、「報酬の決定や上限設定」「労務遂行について拘束力ある規則遵守を要求」など、5つの判断項目について、2つが満たされれば、雇用関係にあると法的に推定される。そして、立証責任はプラットフォーム側にある。

「EUはプラットフォーム労働をより広い網にかけようとしています。ウーバーのようなモデルだけでなく、多様なクラウドソーシングも規制対象になります」

特に重要なのが、アルゴリズム管理についての情報提供義務があることだという。

「事業者側はアルゴリズムによる最適化を訴えていますが、誰のための最適化か、ということですね。どんな情報を取り込んで判断しているのかが労働者にもわかることで、情報格差の解消につながります」

ただ、規制の強化については、「自由な働き方を阻害する」という意見も根強い。今回のウーバーイーツユニオンの申立てについても、批判的な見方がある。この点については、以下のように反論する。

「ウーバーも自由な働き方を強調していますが、今の雇用労働にしても、そこまでガチガチなものではありません。自由だから保護は何もいらないというのはおかしい。例えば、専業でやっている人が無年金状態になってしまうことを懸念しています。自由を強調することの危うさを感じます」

ウーバー配達員、労組法「労働者」認定のインパクト 争いは中労委へ、残された論点は?