(写真左より)ヤン・ブラホヴィッチ、マゴメド・アンカラエフ/Getty Images

 日本時間の12月11日(日)、アメリカ・ネバダ州ラスベガスのT―モバイル・アリーナで『UFC282』が行われる。

 今大会は当初、メインイベントでライトヘビー級王者イリー・プロハースカが前王者グローヴァー・テイシェイラをダイレクトリマッチで迎え撃つ初防衛戦が行われるはずだったが、プロハースカが肩の負傷により欠場。復帰まで時間がかかることから王座は返上され、代わって同級ランキング2位のヤン・ブラホヴィッチ(ポーランド)と3位のマゴメド・アンカラエフ(ロシア・ダゲスタン共和国)の間で新王者決定戦が行われることとなった。この一戦の見どころを“世界のTK”髙阪剛が語った。

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ヤン・ブラホヴィッチ/Getty Images

——『UFC282』メインイベントのライトヘビー級タイトルマッチは、王者イリー・プロハースカの肩の負傷により中止になってしまいましたね。
「残念なのと同時に、イリーのケガの状況が心配ですね。肩って脱臼ぐらいならいいんですけど、周りの靭帯などの組織までちぎれてしまうと、治るまで相当時間がかかるんですよ。今はただ、イリーがしっかり回復して万全な形で復帰してくれるのを願うだけですね」

――そしてプロハースカは王座返上となり、新たにヤン・ブラホヴィッチvsマゴメド・アンカラエフが新王者決定戦として行われることになりました。
「このカードは、もともと次期挑戦者決定戦のような位置付けで、セミ・メインイベントとして組まれていたんですよね。それが急きょタイトルマッチになったことで、両者ともにモチベーションはすごく上がってると思うんですよ。
ただ、ここでベルトを獲ったとしても、その上にはイリーとテイシェイラの二人がいるという状況は変わらないので、この試合の勝者、つまり新王者には、“プロハースカやテイシェイラが相手でも勝つんじゃないか”と思わせる勝ち方が求められますよね」

――曲がりなりにも暫定ではなく正規王者なわけですからね。ブラホヴィッチは元ライトヘビー級王者で、アンカラエフは現在8連勝中と両者ともに実績十分ですが、髙阪さんはこの一戦をどう見ていますか?
「ブラホヴィッチはブラジリアン柔術黒帯で、アンカラエフはグレコローマンレスリングがベースでコンバットサンボのスポーツマスターの称号がありますけど、大前提として二人ともフィジカルが強くて、倒せるパンチをしっかりと持っていますよね。ただ、スタンドでの戦いかたは対照的なんです。
アンカラエフの方はロングリーチなんですよ。手の長さ自体はブラホヴィッチの方が長いんですけど、アンカラエフはジャブをしっかり伸ばしてくるし構えがサウスポーなので、相手からするとすごく伸びてくるパンチに見えるんです。そして、しっかりジャブを当ててからの左ストレートもけっこう前傾姿勢になりながら伸ばしてくるので、どちらかというと距離の支配ができるのはアンカラエフの方かな、と」

――相手のパンチがなかなか届かない遠い間合いでしっかりと勝負ができるわけですね。
「そうなんです。対するブラホヴィッチのほうは、ショートに強いじゃないですか。相手が組みに来る時とか、かなり近い距離でもしっかりと腕を畳んでフックなりアッパーなり強い打撃を入れて相手を倒すのを得意にしているので」

――ルーク・ロックホールドやドミニク・レイエスに失神KO勝ちしたようなパンチですよね。
「とくにレイエスを倒したフックは、ものすごい一撃でしたよね。アンカラエフもあれだけはもらいたくないはずなんですよ。だからリーチの短いアンカラエフの方が距離を取って、リーチの長いブラホヴィッチの方がなんとか距離を詰めたい。そんな立場が逆転した攻防になるんじゃないかと思いますね」

マゴメド・アンカラエフ/Getty Images

――アンカラエフはスタンドで遠い間合いを好みますけど、一方でベースがレスリングですから、距離が近くになったら組みにいくという選択肢もありますよね。
タックルがありますよね。そこがもうひとつのポイントで、ブラホヴィッチはフィジカルは強いんですけど、テイクダウンを取られることが比較的多いんですよ。王座転落したテイシェイラ戦では何度かテイクダウンを奪われて、最後は裸絞めで敗れているし、前回のアレクサンダル・ラキッチ戦は勝ちましたけど、やはり片足タックルから足をすくわれてテイクダウンを奪われている。
いわゆる“足が軽い”タイプで、上半身のフィジカルが強いから四つ組みの攻防とかは強いんですけど、足への意識が留守になる瞬間が試合の中であるんじゃないかという気がするんですよ。タックルがあるアンカラエフとの試合では、その辺がちょっと不安材料ですよね」

――ましてやアンカラエフはテイクダウンを奪ったあと、強烈すぎるパウンドの持ち主ですからね。
「あのダゲスタン系の選手に共通する上から打ち下ろすパウンドの強さは恐ろしいものがありますからね。“ダゲスタンパンチ”として、通常のパウンドとは区別したくなるほどで(笑)。だからブラホヴィッチ的には、近い距離で打撃を入れたいけれど、タックルを取られたくない。アンカラエフの方は、離れて戦いたいけれど、近くになってもタックルという選択肢がある。ここら辺の交錯した試合作りを両者が求められるところが、この一戦の面白さだと思いますね」

――また、この試合は当初は5分3ラウンドの予定でしたが、タイトルマッチになったことで5分5ラウンド制になりました。この変更も試合に影響しそうですか?
「これはとくにブラホヴィッチのほうに影響が出ると思いますね。アンカラエフの方は、距離を支配してポイントを取って判定勝ちを狙える戦い方ができるので、5ラウンド制になってもそこまで戦い方や戦略を変えずにすむと思うんですよ。でも、ブラホヴィッチのほうは早いラウンドからフィジカルを使って、3ラウンド以内に勝ち切る戦いをすることが多いので、戦略の練り直しを迫られる可能性が高いと思います」

――逆に言うと、早期決着を狙ってくる可能性もありますか?
「あるでしょうね。それがブラホヴィッチの戦い方であり、強みですから。だから変に直前になって戦略を変えるより、テイクダウンのリスクはしょうがないっていうくらいに、早めの段階から距離をどんどん潰していって、強い打撃を出していってほしいですね。後半スタミナがキツくなるかもしれないけれど、“関係ねえよ、倒すしかねえんだ”ってやってほしい。それでこれまで結果も出してきたんで、そういう試合を期待したいですね」

(聞き手・文/堀江ガンツ

◆◆◆WOWOWUFC -究極格闘技-』放送・配信スケジュール◆◆◆
『生中継!UFC‐究極格闘技‐ UFC282 in ラスベガス ブラホヴィッチVSアンカラエフ ライトヘビー級王座決定戦』

12/11(日)午後0:00[WOWOWライブ]※生中継
WOWOWオンデマンドで同時配信)

12/13(火)午前1:00[WOWOWライブ]※リピート
WOWOWオンデマンドで同時配信)

【放送カード】
ライトヘビー級王座決定戦/ヤン・ブラホヴィッチ vs マゴメド・アンカラエフ
ライト級/パディ・ピンブレット vs ジャレッド・ゴードン
ミドル級/ダレン・ティル vs ドリカス・デュ・プレシ
フェザー級ブライス・ミッチェル vs イリア・トプリア

【収録日・収録場所】
2022年12月10日<現地>/アメリカ・ネバダ州ラスベガス T―モバイル・アリーナ

【出演】
解説:髙坂剛、堀江ガンツ
実況:髙柳謙一
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【UFC282】空位のライトヘビー級王座をかけ、ブラホヴィッチとアンカラエフが激突!髙阪剛が語った「不安要素」とは?