急激な物価高の影響で、実質賃金は7ヵ月連続減少。労働者の生活がいよいよ厳しくなるなか、賃上げには慎重姿勢をみせてきた日本企業もようやく重い腰を上げようとしています。みていきましょう。

物価4.4%増も「実質賃金」7ヵ月連続減

厚生労働省が発表した、10月『毎月勤労統計調査』(速報/従業員5人以上)によると、現金給与総額は27万5,888 円で前年同月比1.8%増、短時間労働者以外の一般労働者に限ると、現金給与総額35万7,332 円で前年同月比1.9%増となりました。

一方で労働者が実際に受け取った給与である名目賃金から、消費者物価指数に基づく物価変動の影響を差し引いて算出した指数である「実質賃金指数」は前年同月比マイナス2.6%で、7ヵ月連続の減少となりました。

【「実質賃金指数」前年同月比推移】

2021年9月:0.0

2021年10月:0.1

2021年11月:0.1

2021年12月:▲1.3

2022年1月:0.5

2022年2月:0.0

2022年3月:0.6

2022年4月:▲1.7

2022年5月:▲1.8

2022年6月:▲0.6

2022年7月:▲1.8

2022年8月:▲1.7

2022年9月:▲1.2

2022年10月:▲2.6

出所:厚生労働省『毎月勤労統計調査』より

一方で物価(持ち家の家賃換算分を除く総合指数)は2022年10月、前年同月比で4.4%増。

【「消費者物価指数」前年同月比推移】

2021年9月:0.2%

2021年10月:0.1%

2021年11月:0.7%

2021年12月:0.9%

2022年1月:0.6%

2022年2月:1.1%

2022年3月:1.5%

2022年4月:3.0%

2022年5月:2.9%

2022年6月:2.8%

2022年7月:3.1%

2022年8月:3.5%

2022年9月:3.5%

2022年10月:4.4%

出所:総務省統計局『2020年基準 消費者物価指数 全国』より

※数値は持ち家の家賃換算分を除く総合指数

物価上昇に賃金上昇が追いつかず、このまま実質賃金が下落する状況が続けば、コロナ禍からの経済回復にブレーキがかかり、景気の下振れ圧力が大きくなる恐れがあります。加藤厚労省大臣は「最大の処方箋は物価上昇に負けない継続的な賃上げの実現」とし、企業が賃上げを実施しやすい環境整備を進める方針だといいます。

賃金が上がらない国…汚名返上なるか?

OECDの調査によると、1995年を100とした実質ベースの賃金伸び率は、対象33ヵ国中32位(33位は「スペイン」)、先進7ヵ国に絞ると7位。これは1998年以来の定位置です。

【先進7ヵ国「実質ベースの賃金伸び率」】

1位「アメリカ」149.27

2位「イギリス142.84

3位「カナダ」137.89

4位「フランス」128.46

5位「ドイツ122.25

6位「イタリア105.68

7位「日本」103.32

出所:OECD(2021年)

※数値は1995年を100とした数値

この急激な物価高に対し、「日本は賃金が上がらない国」と自虐するのも限界で、日本労働組合総連合会(連合)は2023年春闘で5%程度の賃上げを求める方針を正式に決定、過去7年にわたって4%程度としてきた要求水準の引き上げに踏み切りました。

明確な水準としては5~6%とした1995年以来の規模となります。一方で経団連の十倉会長は、5%程度の賃上げに「特に驚きはない」「物価と賃金の好循環を回していきたい」と言及しました。

実質賃金7ヵ月連続減少という最悪の事態で、ようやく企業としても賃上げへの重い腰を上げるに至ったといえる状況。急激な物価高に、円安、コロナ禍と三重苦にある日本。窮地に立たされたことで、いよいよ90年代後半からの慢性的なデフレから完全なる脱却となるか……注目が集まっています。

(※画像はイメージです/PIXTA)