不動産市況は空前の「売り手市場」であるにもかかわらず、人気エリアの優良物件になぜか買い手がつかないという話があとを絶ちません。その背景には、不動産仲介会社が売主と買主の双方から手数料を受け取りたいがための物件の「囲い込み」が横行しているという実態があります。

不動産の売主を悩ます「囲い込み営業」の弊害

不動産仲介会社の過度な「囲い込み営業」が、取引機会発生のチャンスを阻害し、取引成立に至れずに頭を抱える売主を量産しています。

囲い込み営業では情報の公開範囲がかなり限定されてしまいます。自社のみでの広告活動になるため、自社のサイトや店頭、そして不動産がある地域周辺での掲示や配布チラシによって、買い手候補に情報を届けることにとどまります。

囲い込みしたいゆえ、不動産仲介会社の手が届く範囲のかなり限定された情報の公開であり、本当に売主の不動産を欲しいと思っている方へ届けられているのか、疑問は尽きません。

売主の不動産を最も欲しいと思っているのは、もしかしたら遠く離れた地域に住んでいる方かもしれません。しかし囲い込みが行われていると、その方にまで情報を届けるのは難しいのです。したがって、不動産をできるだけ早くそしてできるだけ高く売るためには、囲い込みの弊害を取り除いて、遠く広く情報を届けることが第一となるのです。

内見予約が入らない人気エリア物件

市原さん(男性・50代※仮名)は東京都台東区築20年のマンション3LDKを売却しようと計画していました。きっかけはお子さんの独立で、夫婦二人だけのスペースが確保された、築浅の物件に住み替えようと奥さんと話していたのです。

計画を練っていた矢先、マンションの集合ポストに大手不動産仲介会社のチラシが入っているのを見つけ、広範囲のネットワークを活かして適切な価格で販売してくれるだろうという大手ならではの期待感に惹かれ、売却を依頼しました。

大手不動産仲介会社の担当者から提案された売却価格は5,000万円です。市原さんなりに周辺の不動産のチラシや、インターネットの不動産販売サイトにも目を通し、5,000万円が妥当であると感じていたので、さっそく販売を開始してもらいました。

ファミリー層に人気のエリアなので、すぐに内見希望者がやって来るだろうと期待していた市原さんですが、販売から数週間を経ても問い合わせは一件もありませんでした。担当者の報告では、周辺に住んでいる方から何件か問い合わせはあるものの、内見にまでは至らない状況なのだそうです。

そして1ヵ月後、改めて担当者との話し合いの場がもたれ、建物の古さとリフォームされていない現状がネックとなって、内見申し込みがない可能性が高いと指摘されました。そのため多少価格を下げることになるが個人に対してではなく不動産買取業者に声を掛けてみるのはどうだろうかという提案を受けたのです。

さらに担当者によれば、リフォーム前提で買取価格を査定してくれるのですぐ購入の声が掛かると思われ、4,700万円であればすぐにでも買いたいという業者がいるといいます。5,000万円では引き続き内見希望はないかもしれませんし、ここで決めてしまってもいいのではないかと打診を受けました。

当初は5,000万円だった物件を4,700万円に値下げし、相場より少し安いのは気がかりでした。市原さんとしては今すぐ住み替えたいとか、今すぐ現金が欲しいわけでもなかったので、売却を急ぐ気はありませんでした。対する担当者は売却を急かす発言が多く、市原さんは本当に5,000万円では売れないのだろうか、もう少し待ってみるのもいいのではないかと次第に考えるようになりました。

そこで何かいい相談先はないかとインターネットで検索したところ、不動産のセカンドピニオンサービスを営んでいる「不動産エージェント」を見つけ、相談したのです。

優良物件のはずが「売れない」理由を探る

本件は、市原さんのマンションがある地域周辺の不動産事情に詳しい担当エージェントAが担当しました。売却予定の不動産に関する悩みを抱え、セカンドピニオンを求めて不動産エージェントを訪ねる方は少なくありません。不動産エージェントは「本当に売るべきか」という切り口から悩み解決をスタートするので、従来の不動産仲介会社とは違ったアドバイスを提供することが可能です。

市原さんの場合、売却を急いではいないものの住み替えのためまとまったお金が必要ではありました。また、「この広さを求めている方々がいるならぜひ購入してもらい、大切に使ってもらいたい」という希望の強い方でしたので、売らないという選択肢はあり得ませんでした。

問題は5,000万円が妥当かどうかです。築20年となると老朽化しているマンションも少なくなく、不動産価値が大きく減損してしまっているケースもあり得ます。建物の状態をよく知る必要があり、市原さんからお住まいの不動産について事細かにヒアリングしていきました。

一方で、市原さんが売却を依頼した大手不動産会社の報告には疑問点がいくつかありました。まず、マンション近隣の方からの問い合わせしかなかったということです。

狭い範囲での広告活動しか行っておらず、囲い込みを狙っている可能性が十分に考えられました。また、個人の問い合わせはあるのに他の不動産仲介会社からの問い合わせがないという点も疑わしいです。

この地域で手ごろなマンションを探している仲介業者であれば不動産の情報を知りたいと迷わず問い合わせを入れたくなるくらい、市原さんの物件には価値があると感じました。そこで、市原さんの不動産屋について、なぜ内見希望者が現れないのか、その理由を探るための情報収集を開始したのです。

大西 倫加 さくら事務所 代表取締役社長 らくだ不動産株式会社 代表取締役社長 だいち災害リスク研究所 副所長

長嶋 修 さくら事務所 会長 らくだ不動産株式会社 会長