ネット上の誹謗中傷は、単なる悪口ではなく、相手の人生を追い込む――。

侮辱罪の厳罰化や、権利侵害にあたる投稿をおこなった人の特定手続きが迅速化するなど、2022年はインターネットの誹謗中傷の問題をめぐる法整備が進んだ。しかし、まだ課題が残されたままだ。

ネット中傷の被害の「リアル」や、これからの課題について、壮絶な被害経験のある元フリーアナウンサーで現在は天台宗僧侶の髙橋美清さんと、この分野の専門家である清水陽平弁護士がYouTube Liveで議論をかわした。

●「不満を抱えて、無意識に捌け口を探している」

ネット上の誹謗中傷をめぐって、清水弁護士のもとに届く相談の多くが、ツイッターの投稿だという。かつて問題視された匿名掲示板に関する相談は減少したという。

「相談の6〜7割がツイッターで、あとはグーグルマップへの書き込みです。(今年)10月の法改正(改正プロバイダ責任制限法が施行された)によって、匿名の投稿に対する開示請求の手続きが簡単になりました。改正前に特定は8〜10カ月かかっていましたが、新しい手続きでは、早ければ3〜4カ月でできるかもしれません」(清水弁護士)

どういう人が誹謗中傷の投稿をしているのだろうか。清水弁護士によると、投稿者を特定した結果、「30代以上」だったというケースが目立つそうだ。また、無職の人も一定程度おり、非正規労働者も少なくないという。

「不満を抱えて、無意識に捌け口を探しているのではないでしょうか。さらに、投稿者自身は誹謗中傷と思ってないことがあります。若い世代でリテラシー教育は比較的進んでいるようですが、上の世代は教育を受ける機会がなく、これからもありません。一人ひとりが意識改革しなければ」(清水弁護士)

●「納得感」が得られないことも

新制度が始まったからといって、それは万能ではなく、匿名の投稿者を特定できないこともある。そもそも、書き込みを「不快」に感じても、権利侵害にあたる投稿でなければ、投稿者の情報は開示されない。

「確実に特定できるわけではなく、費用倒れとなることもあります。実際、特定して慰謝料をもとめて裁判して、賠償が認められても、弁護士費用でプラマイゼロか、ちょっとプラスくらいです。依頼者にとっては報われにくいので、賠償額はもっと上げないといけないと思います」(清水弁護士)

多数の誹謗中傷を浴びせられた髙橋さんにとっても、低すぎる賠償額は問題だ(高橋さんの詳しい被害については、こちらの記事(※)に譲る)。

髙橋さんがおこなった投稿者の特定と責任追及は「心の決着をつける手段」だった。しかし、追及しても、納得のいく結果も得られず、書き込みがすべて消えることはなかったという。被害にあう前の状態に戻すことはできないのだ。

●人を死に追いやる誹謗中傷…慰謝料に「納得感」を持たせて

髙橋さんは、ネット中傷の投稿が原因で、仕事も人間関係も一瞬にして失い、自死まで考えた。誹謗中傷は単なる「悪口」ではなく、「人生を追い込むもの」だと説明する。当時の心境は、スマホなどの画面ばかり見て、孤独で世界中が敵ばかりだと思っていたという。

「(携帯電話に500人くらい登録していたが)3人くらいしか話せなかった」

清水弁護士もまた「ネット中傷を受けているときは、それが世界のすべてと思ってしまうものです。親身になってくれる人を作っておいて、思い出すことが大事です」といま被害を受けている人にエールを送った。

僧侶の髙橋さんのもとには、誹謗中傷で苦しむ人たちが悩みを打ち明けに訪れている。

「来てくれた人には、外に出てくださいと言います。人間によって傷ついてるので、草花を触るとか、空を見て、空気を吸って、と。それはできないと言われても、できるまでやってみようとしつこく言います。

今、ネットに書かれて辛い思いしてる方は、1人じゃないと思ってね。スマホの画面だけを見ていると、終わってしまうような気持ちになりますが、私は通り抜けてきました。辛い思いをしている方も、いつか通り抜けられます」

(※)ネットの中傷地獄で自殺未遂、そして出家…元女性アナ、執念で加害者を特定 「被害者の駆け込み寺つくりたい」
https://www.bengo4.com/c_23/n_11458/

人を死に追いやるネット中傷、特定しても安すぎる慰謝料…壮絶被害を受けた僧侶と弁護士が語る「救い」